第2話 006
「ともあれ、これで貴女は、私はもちろん司書の力を借りることさえなくご所望の本をすべて手に取ることが出来ます」
「はい」
「リリステラ姫。──私は生涯を通して、必ず貴女の味方でありましょう」
『わたし』を見つめながら話すジークリードの瞳には、それこそが彼の誓いなのだとでも言えそうなほどに真摯な光が灯ってた。
けれど、紡ぐ声音はどこか苦しげに歪む。……喉を絞めたような、わずかな歪み。
「ですが私のこの意志を、すべての司書に行き渡させることは出来ません。彼らが貴女の学びを阻害することもあるでしょう。それがどれほど忌むべき愚行であっても、行う者は決して自覚しないものです」
「そんな……ことは」
まあ、ないとは言えない。
最初にこの図書館を訪れた時、「ここは貴女の来るところじゃない」とすげなく追い返したのは、確かに魔法省の制服を着ている司書さんだった。
「いいえ。貴女の意思は尊重されなくてはならない。──貴女の生きる意味がそこに成されるのなら、なおさらです」
ジークリードの眼差しには、必死と言っていいほどの熱がある。まるでその熱で、『リリステラ』の心を少しでもあたためようとするみたいに。
この人は本当に、リリステラのことが好きなんだ。
そしてたぶん、報われようとは思っていない。
(「生きて、いて」)
ねえきっと、それだけでいい。こちらを振り向いてくれれば──なんて、塵ほどにも望みはしない。ただまっすぐ、その心のままに。どうか。
(「生きて」)
……もしかしたら、ジークリードの方だってとっくに気付いてるのかもしれなかった。
(『リリステラ』が本当に、クラヴィス王子を好きだってこと……)
リリステラとジークリード。
二人を結ぶ確かな信頼は、きっとお互いがお互いの「叶わぬ恋」を知っているから。
なんて優しい人たちなんだろう。
二人の友情はまるで、誰も踏み入らない新雪の原っぱみたい。その場所はきっときらきらときらめいてはいるけれど、あまりにも寂しい。
わたしはちょっとだけ泣きたくなった自分を誤魔化すように、笑みを作る。
「お心遣い有難く存じます、ジークリード様……」
きっと不格好だっただろうわたしの笑顔を受け止めて、ジークリードはゆるりと首を振った。「礼には及びません」と言葉を添えながら。
その表情はたとえば、この図書館を満たす魔力に似ている。とてもとても深くて、だからこそ泣きたくなるくらいに、心地良い……。
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