第24話 朋子さんの恋愛観
朋子さんの世間知らずな部分を一つ一つ暴き出し、恭平が懇切丁寧に説明しているうちにあっという間に日が暮れてしまう。
スーパーで朋子さんが買ってきてくれた大量のお惣菜を平らげ、満腹になったお腹をさすりながら腰かけていると、朋子さんが恭平に声を掛けてくる。
「恭平君、お風呂入るでしょ?」
「はい、入りますよ」
「浴槽は洗ってある?」
「あっ、そう言えばまだ洗ってないです」
「なら洗ってお湯を張っておくわね」
「ありがとうございます」
風呂掃除は、腰や背中を使う作業なので、朋子さんがやってくれると言ってくれてとても助かった。
朋子さんがお風呂場へと姿を消し、しばらくお腹をさすっていると、ピンポーンとインターフォンが鳴り響く。
「……はーい」
恭平がベッドから起き上がり、玄関へ向かおうとすると、お風呂場から朋子さんが急いで出てくる。
「恭平君ストップ! 果林ちゃんかもしれないから私が出るわ」
「わ、分かりました……」
朋子さんが急ぎ足で玄関へと向かって行き、覗き穴から外廊下を確認する。
すると、朋子さんはぱっと表情を和らげて、勢いよく扉を開け放つ。
玄関前に立っていたのは、鳴海ちゃんだった。
「鳴海ちゃん! こんな時間にどうしたの?」
「朋子さんこんばんは。えっと、アイツいる?」
「恭平君ね。ちょっと待って頂戴」
会話を交わして、朋子さんが恭平の方を振り向いて手招きしてくる。
「恭平君、鳴海ちゃんよ」
「あっ、はい」
朋子さんに呼ばれ、恭平は玄関へと向かう。
鳴海ちゃんは、白シャツに薄茶色のフレアスカートという服装をしており、肩から黒のショルダーバッグを提げている。
どうやら、どこかへ出かけた帰り際に、恭平の元を立ち寄ってくれたらしい。
「よっ、大丈夫そう?」
鳴海ちゃんは手を上げ、軽い調子で尋ねてくる。
「うん、朋子さんのおかげで問題なく生活出来てるよ」
「なら良かった。ごめんね、夕食作りに来れなくて」
「平気だよ。正直、日替わりで当番制にするって言ってたから、その日の担当が調理もするものだと今の今まで思ってたぐらいだし」
「他の人の時はそうするつもりなんだけど、ほら、朋子さん料理できないからさ。私が作りに来ないと食生活が乱れちゃうと思って」
鳴海ちゃんが当然のように言うと、朋子さんはぷぅっと頬を膨らませた。
「もう鳴海ちゃん! 私だってやる時はやるんだからね!」
「それじゃあ今日の夕食は何だったの?」
「もちろん。スーパーで健康的なお惣菜を購入してきたわ」
「いや、それ朋子さんが作ったものじゃないでしょ。堂々と胸を張られても……」
「べっ、別にいいじゃない! 手作りだろうがスーパーのお惣菜だろうが、人が作った食事であることに変わりはないわ」
屁理屈のようなことを言い放ち、朋子さんはぷぃっと視線を背けてしまう。
そんな朋子さんをよそに、鳴海ちゃんは恭平へと向き直って話を続ける。
「まっ、とりあえず何事もなさそうで安心した。明日の担当は来羽だから、粗相の無いようにね」
「分かった」
「そんじゃ、私は部屋に戻るわ。お休み」
「お休み鳴海ちゃん」
「おやすみ」
本当に様子を見に来ただけらしい。
鳴海ちゃんはそのまま自室へと戻って行ってしまう。
玄関の扉を閉めると、朋子さんが恭平の方へ視線を向けると、にやにやした表情で見つめてくる。
「なっ、なんですか?」
「鳴海ちゃん。随分と恭平君のこと心配してるのね」
「俺の心配というよりは、朋子さんの家事能力の様子を見に来たんじゃないですか?」
「もう、そうやって私の事からかわないで! いくら一般常識がなくても、料理以外の家事は出来るもん」
朋子さんは、またもや拗ねたようにプィっとそっぽを向いてしまう。
その拗ねる姿も、今は可愛いとさえ思えてきてしまう恭平である。
朋子さんが再び風呂掃除へと戻って湯張りをしてくれると、しばらくして給湯器から湯張りが完了したというお知らせチャイムが鳴り響く。
「お風呂湧いたわね」
「朋子さんはお風呂どうします?」
「もちろん入るわよ。恭平君の後にね」
「先に入ってもいいですよ? 女性はお風呂上がりの手入れとかが色々とあるでしょうし」
「気遣いは嬉しいけれど、家主より先にお風呂に入るなんてできないわよ。それとも、私の入った後の湯船に浸かりたいのかしら?」
「なら、先に入っちゃいます」
「もう……ちょっとぐらい反応してくれたっていいじゃない!」
朋子さんの冗談半分の戯言を完全無視して、恭平は着替えをもって脱衣所へと向かって行く。
洗濯籠に脱いだ服を入れ、裸になった恭平はその足で風呂場へと向かう。
パパっと身体や髪を洗い、顔を洗顔で洗ってひげを剃る。
いつものルーティンを終えてそそくさと湯船に浸かると、無意識にふぅっとため息が漏れ出てしまう。
「なんか、今日はずっと誰かしら家にいた気がするな……」
朝から果林さんが押しかけてきて、危うく貞操を奪われそうになり、昼間からは朋子さんが監視という名目で部屋に入り浸っている。
どこか気を張っていた部分があったのだろう。
ようやく一人の時間が訪れたゆえのため息だったのかもしれない。
頭の中がすっきりと軽くなっていく感じがした。
「にしても、他の人はどうなる事やら……」
鳴海ちゃんが言っていた通り、明日は来羽が警備をしに来てくれるそうだ。
来羽は大学でバリバリ運動部をしているという事もあり、護衛としては一番適任かもしれない。
けれど、朋子さんのように恭平の部屋で寝るという事になったら、恭平も流石に一人の時間が欲しくなってしまうというもの。
来羽は理解がありそうなので、もし部屋に泊り込むと言い出したら、交渉をしてみることにしよう。
そんな計画を頭の中で練っていると、お風呂場の扉がゴンゴンとノックされる。
「恭平君」
「は、はい⁉」
ドア越しから、朋子さんが声を掛けてくる。
「湯加減はどうかしら?」
「はい、丁度いいです」
「よかった。なら私もお邪魔するわねー」
「はい⁉」
恭平が思わずドアの方を見たときには、朋子さんが服を脱ぎ始めているシルエットが見えた。
「ちょ、ちょっと待ってください朋子さん! 何やってるんすか⁉」
「えっ? 恭平君の一日の疲れを癒してあげようと思って」
「結構です! 入ってこないでください」
「でも、もう脱いじゃったし……もう一回服を身に着けるのも面倒だから入っちゃうわよ」
ガチャリ。
「うわっ、ちょっと⁉」
扉が開かれ、ハンドタオルで胸元と局部を隠した状態のあられもない姿の朋子さんが風呂場へと現れる。
朋子さんは妖艶な笑みを浮かべながらこちらを恥ずかしそうに見つめていた。
真っ白な肌はスベスベで、ボンと膨れ上がった胸元に、きゅっとしまったくびれ、ぷりっとしたお尻のラインは、いやらしいの一言に尽きる。
思わずその艶やかな姿に、恭平は食い入るように見入ってしまう。
「ふふっ……どうかしら?」
「あっ、ええっと……」
咄嗟に言葉が出ず、恭平がおろおろしていると、くすっと朋子さんが笑みを浮かべる。
「よかった。これで幻滅されたらどうしようかと思ったわ」
「そ、そんなことある訳ないじゃないですか……とても魅力的ですよ朋子さんは」
「ありがと。そう言ってくれるだけで嬉しいわ」
朋子さんは朗らかに微笑み、そのまま浴槽内の椅子へと腰かけ、シャワーを出して身体をボディーソープで洗い始めてしまう。
この状況はまずい。
早く風呂場からでなければ。
何度も頭の中でそう思うものの、真っ白でスベスベな朋子さんの背中からお尻にかけてのラインを見て、二度と拝むことが出来ないのではないかという名残惜しさが恭平をその場へととどまらせてしまう。
そうして恭平が躊躇しているうちに、朋子さんは髪も洗い終えてしまったらしく、スッと立ち上がってくるりとこちらを振り向いた。
刹那、恭平の眼前に、朋子さんの生まれたままの姿が視界全体を支配する。
目をパチクリとさせ、言葉にならない吐息を漏らしていると、朋子さんが湯船へと入ってきた。
すると、浴槽から湯船がジャァァアっと滝のように溢れ出してしまう。
ようやく収まったところで、朋子さんがこちらをちらりと見つめ、にっと口角を上げた。
「どうしたの、恭平君?」
「あっ……えと、そのっ……」
どうしたら良いか分からず、恭平が右往左往していると、朋子さんがくるりと背を向けたかと思いきや、そのまま倒れ込むようにして恭平の身体に背中を預けてくる。
恭平の身体に朋子さんの柔肌がピトっと張りついてきて、変な声が出そうになるのを必死に堪えることしかできない。
「ふふっ……どうかしら? 私の身体」
「その……すごい温かくてスベスベしてます」
「どう、恭平君的には好みの身体かしら?」
「……はい」
「なら良かったわ」
朋子さんは満足した様子で、身体をさらに預けてくる。
「えっと……朋子さん」
「何かしら?」
「もしかして、最初から俺を先に風呂に入らせようとしてたのって、これを狙ってたんですか?」
「そうよ。だって恭平君。私の価値観を正すからとか言って、全然私の魅力をアピールする機会を与えてくれないんだもの」
「それはだって、普通の男女の友達は、一緒にお風呂なんかには言ったりしないんですよ」
「だって、私は別に、恭平君とお友達になりたいわけじゃないもの。男と女の関係になりたいだけ」
「だとしても、順序ってものがありまして……」
「ねぇ……その恭平君が言う順序って。本当にあっているのかしら?」
「えっ?」
朋子さんは首だけをこちらに向けて、とろんとした目で見つめてくる。
「だって、『好きです、付き合ってください』って告白して、晴れてお付き合いが出来たとしても、身体の愛称が良くなかったら、元も子もないとじゃない。だから、付き合う前に、男女の関係を結ぶのって、これからの愛し合う者たちの性活において大切だと思わけ」
朋子さんの追求に、恭平は頭をフル回転させて弁明をする。
「そ、それはその……男の技量でなんとかなると言いますか……」
「でも、人それぞれ虐めて欲しいとか弄られたいとか、夜の性格ってあるでしょ? そう言うのも付き合う前に知っておくことって、私は重要だと思うのよ」
恭平は生唾をごくりと呑み込んで、無言を貫く。
「それに……本当に私で興奮してくれるのかどうか、直で確かめたいじゃない」
そう言って朋子さんは、お尻を恭平の下腹部へスリスリと擦りつけてくる。
これに呼応するように、恭平のリモコンはピクンと反応してしまい、みるみるうちに三階建てのビルから東京タワーのへと進化してしまう。
すると、朋子さんがくるりと身体を反転させ、四つん這いの姿勢でこちらを艶めかしい視線で見上げてきた。
恭平の視界には、汗が滴る朋子さんの首筋に、重量感溢れるたわわなおっぱいが一面に広がる。
「ふふっ、ねぇ恭平君。恭平君は私との身体の愛称、知りたいと思わない?」
妖艶な笑みを浮かべて、朋子さんがぴとっと恭平の頬へ手を当てた時だった。
「し、失礼します!!」
恭平は本能のままさっと瞬時に立ち上がり、逃げるように浴槽を飛び出して、風呂場から逃げていく。
「あぁ、ちょっと待って恭平君!!」
朋子さんの制止を無視して、恭平はバタンと扉を閉じて、脱衣所へと逃げ込んだ。
「はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ……っ」
胸に手を当て、息を整えるように深い呼吸を整える。
「もう……意気地無しなんだから」
朋子さんの拗ねた声がお風呂の中から微かに聞こえくるも、今はそれどころではない。
東京タワーからスカイツリー並みにそそり立ってしまったモノを、恭平はひたすら鎮めるため、寿限無寿限無と呪文を唱え続け、昂った気持ちを抑えるのに時間を要するのであった。
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