第20話 恭平を守る会 途中視点変更あり
果林とかいう抜け駆け女を部屋へと連れ帰り、一悶着あってから恭平の部屋へと一旦戻り、四人は恭平を慮って外廊下に出た。
廊下に出て、最初にため息を吐いたのは鳴海。
「はぁ……全く、どうして朝からこんなに気疲れしなきゃならないのよ」
「お疲れ様、鳴海ちゃん」
朋子さんが鳴海へねぎらいの言葉を掛ける。
「ありがとう朋子さん。にしてもあの女、今すぐアパートから追い出した方が良いんじゃない? 恭平の家に上がってふしだらなことまでしてたのに、反省する気ゼロよ? 一応恭平の部屋出禁とは言ってきたけど、忠告を守るかどうか分からないし」
「大家だとしても住人を無断で追い出すことなんてできないわよ。それに、これはそれぞれのプライベートなことだから、厳しく干渉することもできないし……」
「それでまたアイツが襲われるようなことがあってもいいの? 次こそアイツもトラウマになりかねないわよ⁉」
「トラウマだなんて大袈裟な」
「いーや、朋子さんは考えが甘すぎ。うーん、何かいい案はないかなぁ……」
鳴海が必死にいい対策案がないか思案していると、朋子さんがうふふと笑いながら微笑ましい視線を向けてくる。
「な、なによ?」
鳴海が眉根を寄せて尋ねると、朋子さんは嬉しそうな声で答えた。。
「ふふっ……この前まで恭平君のこと認めないとか言ってたのに、心配するまで仲良くなったのね」
「なっ……」
朋子さんの指摘に対して、鳴海は顔を真っ赤にしてすぐさま反論する。
「ち、違うし! ただ私は、このアパートに住む人たちの秩序が乱れるのが嫌なだけで、別にアイツのためとかじゃないから!」
「そうね。私としても、アパートの住人同士のトラブル問題にまで発展してしまったら、大家としても困りものだわ。出来るだけ避けたい事態ね」
鳴海が適当に言い募った弁明に対して、朋子さんは納得するように頷いてくる。
「何か、いい案ないかなぁ?」
鳴海が困り果てていると、おずおずとした様子でこまる手を上げた。
「あのぉ……提案があるんですけど、恭平が襲われないよう、私達で代わる代わる監視するというのはどうでしょう?」
こまるの提案に乗っかったのは朋子さんだ。
「あら、それいいじゃない! 日替わりで交代制にすれば、それぞれの負担も減るし、ナイスアイディアだと思うわ! どうかしら鳴海ちゃん?」
「え⁉ あっ、うん。いいと思うわ。ここにいる人は恭平を襲う心配はないだろうし」
「なら、そうしましょ!」
決まりかけたところで、来羽が口を挟んでくる。
「一応確認だが、それは私も含まれているのか?」
「当たり前じゃない! むしろ来羽が一番安心まであるわよ!」
「そうか……うむ。なら仕方あるまい。私も協力してやろう」
「ありがとう来羽」
こうして、『恭平を果林さんから守る会』が結成された。
ひとまず、恭平を守れることになり、鳴海はほっと胸を撫で下ろす。
しかし、鳴海は気づいていなかった、恭平を狙っているのは、果林だけではないことに。
◇
嵐のような朝を過ごした恭平は、洗面所で顔を洗って頭をすっきりとさせた。
そして、先ほど起こった出来事を改めて思い返してして、顔を手で覆ってしまう。
「うぅ……俺はなんて事を……」
押し倒された恭平は、果林さんに足の上に跨られ、身動き取れずになすがまま。
うっとりとした視線で見つめてくる果林さんは、恭平の下腹部で腰をスライドさせるように上下に動かしながら、恭平の扇情を煽ってきて……。
「ヤバイ、今考えてもあれは反則すぎだろ」
恭平は思わず視線を、果林さんのお尻や股で擦られていたリトル君へ向けてしまう。
「お前も驚いたよな」
労わるようにリトル君へ声を掛け、菩薩のごとく悟りを開いていると、ピンポーンとインターフォンが鳴らされた。
一瞬、また果林さんが襲いに来たのではないかと、恭平は身構えてしまう。
けれど、あれだけ住人全員に見られた後に、二度も押しかけてきたら、正気の沙汰ではない。
恭平が恐る恐る玄関へと向かって行き、覗き穴を覗き込むと、外廊下に立っていたのは鳴海ちゃんだった。
ドアノブを回して、軽く扉を開けて恭平は顔を出す。
「鳴海ちゃん……えっと、どうしたの?」
鳴海ちゃんは腕を組みながら、すっと恭平を見据えてきた。
「えっと、あれから四人で話し合ったんだけど、これからしばらくの間、日替わりでアンタを警備をすることになったから」
「……えっ、どういう事?」
鳴海ちゃんの放った言葉を聞いて、恭平は間抜けな声を上げてしまう。
「あの魔性の女が隣に住んでるんだから、アンタだって毎晩ビクビク怯えることになるでしょ? だから、アンタの事を守るために、住人総動員でアンタを守る事にしたの」
「ちょっと待って。えっと、気にかけてくれるのは嬉しいんだけど、流石にそこまでしてもらわなくても……。俺だって一応成人してるんだから、自分の身は自分で守れるよ」
「これは管理人命令よ! アンタは大人しく私たちの指示に従いなさい!」
「いや、そもそも鳴海ちゃんは管理人じゃないでしょ⁉」
「細かい事は気にしない! とにかく、今日からしばらくの間、あの女が反省するまでアンタを一人ずつ日替わりで保護するから、覚悟して置いて頂戴。それだけ」
そう言い残してえ、鳴海ちゃんは去って行ってしまう。
取り残された恭平は、ポカーンと呆けることしかできなかった。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
恭平自身にも、全く理解が出来ないのであった。
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