第19話 確執と確信 SIde~果林視点~

 果林は、ベッドの上から降ろされると、首根っこを掴まれて、昨日恭平の部屋に押しかけ女房していた上の階に住む鳴海という女の子に外廊下へと連れ出されてしまう。

 引っ張られて向かったのは果林の住む101号室。

 鳴海が玄関の扉を開けると、果林はそのまま部屋へと投げ込まれた。

 果林は投げ飛ばされた反動でよろけて、玄関の上がり框に足をつっかけてしまい、床に倒れ込んでしまう。


「いたたたたたっ……」


 果林が転んだ際に打った腰を手で押さえていると、鳴海が玄関前で仁王立ちして見下ろしてくる。


「で、あれはどういうことですか?」


 鳴海は、眉間に皺を寄せ、鬼の形相で睨みつけてくる。

 果林は怖気づくことなくいつもの調子で答えた。


「せっかくいい雰囲気だったのに酷いじゃないー」

「はぁ⁉ 酷いのはそっちでしょ⁉ 何ケガ人の上にまたがって、あんなエッ……はしたなく腰を揺らしてんのよ!」


 鳴海は、顔を赤くしつつ声を荒げて叫んでくる。


「仕方ないじゃない。だって気づいたらスイッチが入っちゃったんだもん……」

「アンタは発情期の猿か!」

「しょ、しょうがないじゃない。あんなに可愛らしい顔見せられたら、襲いたくもなっちゃうわよ」

「それ以上、何か言い訳はありますか?」


 鳴海はゴキゴキと腕を鳴らしながら、こちらへ近づいてくる。


「ま、待って頂戴。こっちからすれば、いきなり押しかけてきて強引に引き剥されたのよ。私の至福の時間を返して欲しいわ」

「何が至福の時間よ! 男の上に跨って淫らに腰振ってる女に言われたくないわよ! 少しは恥じらいってものを持ったらどうですか?」

「あら、なんで恥じらう必要があるのかしら? だって私と恭平くんはお互い愛し合っているのよ?」

「いーや、それはないです。一方的にアンタが恭平に色目を使ったに違いありません」

「あら、根拠もないのにその自信は一体どこから出てくるのかしら?」

「恭平があなたのような不埒な女性を好きになる訳がないからです!」


 鳴海は、自信たっぷりに言い切った。


「あら、そんなの分からないじゃない。恭平くんがむっつりスケベなだけで、私みたいな身体を求めている可能性だっていくらでもあると思うけれど?」

「はぁ⁉ だからってやっていい事と悪い事があるでしょ! アイツの気持ち考えたことあるわけ⁉」

「そ、それはもちろん、恭平くんがケガをしているのに跨って体重をかけてしまったことは悪いと思っているわ。けれど、考えてみて頂戴。彼は背中を怪我していて、夜のお供である左手を使うことが出来ないのよ。私はただ、そのお手伝いをしてあげようとしていただけなの」

「反省する気が無いようね」


 ゴゴゴゴゴっと鳴海の陰から物凄い圧を感じる。

 果林も物怖じせずに睨み返す。

 しばらく睨み合い、バチバチと火花を散らす果林と鳴海。

 先に折れたのは鳴海だった。

 深々とため息を吐いたかと思うと、ビシっと人差し指で果林を指差した。


「いい? アンタはしばらく恭平の部屋立ち入り禁止だから。しばらく自分の頭を冷やして反省する事ね」


 そう言い残して、鳴海は後ろ手で玄関の扉を勢いよく閉めて、外廊下へと出て行ってしまう。

 一人取り残された果林は、地べたにへたり込んで視線を床に下ろした。

 もちろん、今回の朝這いが行き過ぎた行動であることは、果林も理解している。

 でも、果林は昨日の夜からずっと、恭平くんの性処理のためを思って、色々と準備していたのだ。

 恭平くんの役に立ちたいという思い続けた結果、気持ちが急いて早朝から部屋を押しかけてしまったわけだけれど……。

 それでも、最初は私も冷静で、ちゃんと事情を説明して、恭平くんに納得してもらった上でするつもりでいた。

 けれど、恭平くんが玄関から寝ぼけた様子で出てきたのを見た途端、もう気持ちを押さえることが出来ず、ネグリジェ姿のまま思いきり抱き付いてしまったのだ。

 だって、目を擦りながら寝ぼけて出てきた恭平くんが可愛すぎるんだもの。

 抱き付いた拍子にふわりと漂ってくた恭平くんの香りが漂ってきて、果林を完全に落ち着きを失ってしまった。

 保っていた理性が抑えきれなくなり、そこからはもう後の祭り。

 興奮してもらいたい一心で、果林は自身の身体を恭平くんへとグイグイと押しつけまくり、恭平くんのが私の身体に反応していることに気づいた時には、怪我の事など頭から完全にすっ飛んでいて、気づいた時には恭平くんをベッドへ押し倒して襲い掛かっていた。

 でも、恭平くんだって悪いと思う。

 あんなに下は反応してるのに、さも興奮してませんみたいなリアクションされたら、正直にさせてあげたくなっちゃうじゃない。

 果林の事を、恭平くんが一人の女性として意識してくれていることが、何より嬉しかったのだ。

 そこからは、果林が自ら自身の胸へと恭平くんの腕を引き寄せ、自ら腰を振って恭平くんの興奮を煽っていたら、鳴海ちゃんが家へ突撃してきたという流れ。

 恭平くんの怪我の事を忘れて、無理やり襲ってしまったことに関しては本当に申し訳ないと思っている。

 けれどその反面、果林はとある収穫も得ていた。

 それは、恭平くんが間違いなく、あの場で興奮していたという事。

 なぜなら、腰をグラインドさせる度、恭平くんが私の胸をギュ、ギュっと力を込めて揉んできていたのを、果林は肌でじかに感じていたのだから。


「んふふっ……」


 果林の口から思わず笑いがこぼれてしまう。


「待っててね恭平くん。ケガが良くなったら、今度はしっかりお姉さんがいっぱい気持ちいいことしようね♪」


 この時、果林は確信していた。

 今度は恭平くんの方から、果林を求めて部屋へやって来てくれるという事を。

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