第18話 貞操の危機⁉
遡る事三十分前。
ピンポーン。
恭平はインターフォンの音で目を覚ました。
「んんっ……」
目を開けると、部屋はまだ薄暗く、まだ早朝であることが一目でわかる。
今日は土曜日のはず。
学生は夏休み中であり、土日休みの人であれば休日である。
「こんな朝早い時間に一体誰だよ……しかもよりにもよって土曜日の朝っぱらって……」
ピンポーン。
続けざまにインターフォンが鳴り響き、恭平の脳を強制的にたたき起こしてくる。
「はいはい……今行きますよっ! あいててててて……」
反動をつけて起き上がろうとしたら、背中にピキっと痛みが走り、思わず顔を顰めてしまう。
そう言えば、昨日鳴海ちゃんを助けて、背中の骨を骨折したんだった。
昨日に続き二回目のド忘れ。
次からはスマホのアラームが鳴った時に『骨折中』とか思い出せるように通知が来るようにしておこう。
少し痛みとしびれを伴う背中を手で押さえつつ、恭平は玄関へと向かった。
恭平は大きな欠伸をしながら玄関のドアを開け放つ。
「ふぁい……こんな朝早くからどちら様でっ……うおっ⁉」
刹那、突進してくるように誰かが洋平の胸元へと収まる。
恭平は咄嗟に手を広げて、懐へと入り込んできた人影を反射的に抱き留めた。
ふわりと髪の毛が靡き、柔らかな香りに、むにゅりと沈み込むような生々しい感触が恭平を支配する。
「えっ……え⁉」
未だに状況が出来ぬまま、恭平は胸元に収まっている人であろう人物を見下ろす。
眼前に映ったのは、ショートボブを揺らし、ぱっちりとした目を開き、艶めかしい上目遣いを向けてくる果林さんだった。
「か、果林さん⁉ な、何してるんですか⁉」
「恭平くん、おはようー」
ぽわぽわとした口調で呑気に挨拶してくる果林さん。
どうやらまだ寝起きのようで、顔がふにゃふにゃとしているものの、なぜか頬が赤く上気している。
さらに、果林さんは胸元のぱっくり開いたピンクのネグリジェに身を包んでおり、恭平に密着してきていた、
極めつけは、ぐにゃりと恭平の胸元にぶつかって変形した果林さんの豊かな胸元。
柔らかい感触と、くっきりと見える谷間がこれでもかと強調されていて、恭平の眠気は一気に冷めてしまう。
「なっ、何してんすか⁉」
思わず大声を上げてしまう恭平。
すると果林さんは、艶やかな唇に人差し指を当てて小声で話しかけてくる。
「しぃーっ。静かに、他の人が起きちゃうでしょ」
「えぇっと……これは一体どういうことですか?」
今度は声のボリュームを下げてひそひそ声で尋ねると、果林さんはちょこんと首を傾げた。
「えっ、それはもちろん、恭平くんの朝のご奉仕に来てあげたのよ」
「……はい?」
果林さんの言っている意味が分からず、恭平はぽかんと口を開けて呆けてしまう。
「恭平くん、今背中をケガしているでしょ? だから、男の子のアレが出来ないと思って、私が代わりにシゴきに来てあげたのよ♪」
当然のように言ってくる果林さんに対して、恭平はないないと手を横に振った。
「いやいやいや、意味が分からないですから! 確かに背中は怪我してますけど、別に一人でしようと思えばいつでも出来――じゃなくて! 別に下の世話をしてもらう必要なんてないですから!」
「えぇ、そんなぁー、せっかく早起きしたのよ? 恭平くんがお姉さんに管理されながら、可愛い顔して悶えてるところ、いっぱい見たかったのにぃー」
「駄々をこねても駄目です! 全く、朝っぱらから家に押しかけてきて何言ってんですか」
果林さんが朝っぱらからフル暴走で、恭平は対処に困ってしまう。
「ねぇお願い……ちょっとだけでいいから……ね? 先っちょだけでいいから触らせて?」
「ダメです。お引き取り下さい」
「そんなこと言ってる割に、今ピクンってなったわよ?」
「き、気のせいです……」
「本当かなぁー? どれどれぇー?」
「ちょ、何触ろうとしてるんすか⁉」
瞬時に恭平が後ずさりすると、果林さんはぷくーっと頬を膨らませる。
「むぅっ……突撃!!」
すると、果林さんがサンダルを脱ぎ捨て、そのまま恭平の部屋へ無断で上がり込むと、頭からタックルして突っ込んでくる。
「う……っ!」
果林さんの頭突きが恭平の鳩尾にロックオン。
恭平は耐えられず、果林さんに頭と両腕で押され、ぐんぐん部屋の奥へと押し込まれていってしまう。
「えいっ!」
「うわっ、いってぇ⁉」
ドンと両肩を押されたかと思えば、恭平はそのままベッドへと押し倒されてしまう。
ベッドに背中を打ち付けた瞬間、強烈な痛みが恭平を襲う。
「ふっふーん。捕まえた」
恭平が痛みに悶えていると、果林さんはゆっくりとベッドの上へ上がり、恭平の太ももを挟む形で
「もう、恭平くんが逃げるのが悪いのよ。私だって、あんまり恭平くんを痛みつけるようなことはしたくないんだから」
「うぅ……っ!」
身体に力が入らず、果林さんのされるがままになってしまう恭平。
にやりと微笑み、恍惚な表情で恭平を見下ろしてくる果林さんは、ちろりと舌なめずりをする。
まさに、男を貪ろうとするハンター(獣)の目だ。
恭平は必死にもがこうとするものの、コルセットで胴体を固定しているため、上手く身体を動かせない。
「ふふっ……そんなに暴れないでも。今からじーっくり、ねーっとり。私がいっーぱい、恭平くんのオカズになってあげるからね♪」
「や、やめてください果林さん。俺はこんな形で――」
恭平の言葉を遮るようにして、果林さんは恭平の手を掴むと、そのまま自身の豊かな胸元へと引き寄せてられていってしまう。
そして、恭平の手は果林さんの弾力ある乳房へぐにゅりと腕が吸い付くように誘われた。
「ちょ⁉」
「ごめんね恭平くん。私もう我慢できないの……ほら、私の胸から感じるでしょ? ドクン、ドクンって緊張しているのが」
胸越しに、奥にある果林さんの心臓から、素早く脈を打つ鼓動が直に伝わってくる。
「ごめんなさい。はしたない痴女で幻滅しちゃったかしら?」
「えっと……だいぶ困惑しております」
「ふふっ、口ではそう言いながらも、こっちは正直みたいね♪」
「げっ……」
果林さんの跨る視線の先には、おはようございまーす! と主張しているズボン越しのムスコさんがいて……。
「もう、ココも我慢できないみたいだし。いっぱい気持ちよくしてあげるわね」
「いや、ほんと待って下さい……!」
必死に抵抗しようとして、恭平は手に思いきり力を入れてしまう。
「アーンッ♡」
刹那、強制な喘ぎ声が部屋に響き渡る。
「ご、ごめんなさい……つい手に力が」
「んふふっ……もーう、強引なんだから♪ そんなに慌てないでも、時間はたっぷりあるわよ。大丈夫、果林お姉さんが手取り足取り、教えてあ・げ・る」
妖艶な笑みを浮かべて、恭平の下腹部へ果林さんが手を伸ばそうとした時だった。
ピンポンピンポン、ピンポン、ピポピポピポピポピポ
物凄い勢いでインターフォンが鳴らされる。
『ちょっと恭平、アンタまさかあの女に襲われてるんじゃないでしょうね! 大丈夫⁉』
ドア越しから、鳴海ちゃんの声が聞こえてきた。
どうやら、恭平の様子を見に来てくれたらしい。
「あらー残念だわ」
そう言いつつも、果林さんは一向に恭平の上からどいてくれる気配はない。
「あの果林さん? そろそろどいていただけますか?」
すると果林さんは、人差し指を唇に当て、にやっと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ふふっ、問題ないわ。鍵開けっ放しだから、じきに気づけば入ってこれるわ。だから、私たちが育んでいる所、思う存分見せつけちゃいましょう」
「いや、駄目ですよ! 離れてください!」
咄嗟に恭平が手を離そうとする。
がしかし、ガシっと果林さんに両腕を掴まれてしまい、再び強引にたゆんと柔らかい胸元へと戻されてしまう。
「や、やめてください果林さん!」
恭平は必死に胴体を動かして果林さんから抜け出そうとするものの、上手く身体を動かせない。
「あらあら、もしかして、動かしたくなっちゃった? 安心して、お姉さんが動いてあげるわね」
いいように事をとらえた果林さんは、恭平の尖がっている部分に腰を下ろし、擦るようにしてグリグリと上下に動かし始めた。
「アーン……そこっ、いいっ♡」
「ちょ、何やってるんすか!」
腰が引き何とか果林さんの攻撃を交わそうとするものの、思いきり擦りつけられ、恭平の吐息も一瞬洗い物へと変わってしまう。
「ふふっ、その調子よ。もっとよくなっちゃえ♪」
「誰か……早く助けて……」
息苦しくなる中恭平が助けを求めた時だった。
ドアが無造作に開かれ、バタバタと人がなだれ込んでくる。
部屋に入ってきたのは、鳴海ちゃんだけではなく、こまるちゃんに朋子さん、さらには来羽まで全員勢ぞろい。
そして、入ってきた四人は、恭平と果林さんのみだらな現場を目撃して、今に至る。
あっ、終わった。
今まで築き上げてきた信頼が一気に落ちていくのを肌で感じる。
恭平の顔がどんどんと青ざめていく中、最初に声を張り上げたのは鳴海ちゃんだった。
「ちょっと! 何してるのよこの抜け駆け女! 早く恭平から離れなさい!」
鳴海ちゃんは顔を真っ赤にしながらこちらへ駆け寄ってくると、果林さんを強引にベッドの上から引きずり下ろした。
「いやん♡」
艶めかしい声を上げつつ、ベッドから転がり落ちる果林さん。
その様子を呆然と眺めていると、鳴海ちゃんのぎろりとした視線が恭平へ向けられる。
「アンタも! ボケッとしてないでとっととそれどうにかして!」
「えっ……?」
視線を下腹部に向ければ、果林さんに擦られたせいでシャーキーンどころかカッチーンとそびえ立っていた。
「うわっ……ご、ごめん!」
恭平は慌てて近くにあったタオルケットで下半身を隠す。
「ちょっと、この女説教してくるから、恭平は部屋で待ってて」
「えっ……私は別に何も怒られるようなことは――いやぁぁぁぁー=!!」
鳴海ちゃんに首根っこを掴まれ、果林さんは引きずられながら外廊下へと連れ出されていく。
状況があまり理解できずに恭平が唖然としていると、今度はこまるちゃんがこちらへ近づいてくる。
「恭平、大丈夫? 平気?」
「あっ……うん。俺は平気だけど……これは一体どういう状況?」
恭平は部屋に残されたこまるちゃん、朋子さん、来羽をそれぞれ見つめる。
「こまるは、恭平と一緒にゲームしよって誘いに来たのです!」
「私は、恭平君が全然頼ってくれないから、朝ごはんを作りに来たのよ」
「私は、この前のお礼が言えてなかったのと、怠けた生活習慣を正そうと恭平をランニングに誘おうかと……」
偶然にも、三人それぞれ恭平に用があったらしい。
「そ、そうだったんだ。ご、ごめんね。なんだか気まずい感じになっちゃって」
「構わない。誰を家に連れ込もうと、人それぞれ好みというものがあるからな」
「いや、どう見てもこまるには恭平が襲われているようにしか見えなかったです!」
「果林ちゃん。あんなに肉食系だったとはね……ちょっとびっくりだわ」
三人またそれぞれ違う反応を示してくれる。
少なくとも、誰も恭平の事を最低最悪の男だと捉えている人がいなくてほっとする。
恭平が胸を撫で下ろしていると、外廊下から鳴海ちゃんが戻ってきた。
「えっと、鳴海ちゃん……これには色々と訳があって……」
「大丈夫。全部あの女が吐いたから。背中をケガしていることを良い事に、恭平の身動きを取れなくして襲おうとか、卑劣にもほどがあるわ。アンタこそ大丈夫? 背中の怪我悪化してない?」
どうやら鳴海ちゃんは、すべて責任は果林さんにあると考えているらしい。
恭平を軽蔑するどころか、擁護までしてくれている。
「う、うん……今のところは平気だよ」
「なら良かった……。ほら、いったん全員外に出て。こんな朝早くからみんなで押しかけたら、恭平に迷惑でしょ?」
鳴海ちゃんの言葉に乗っかるようにして、朋子さんが声を上げた。
「そ、そうね! ご近所さんにも迷惑だわ。ほら、みんな外に出て頂戴」
朋子さんに促されて、こまるちゃんと来羽も外へと出て行く。
「それじゃあ恭平君。お騒がせしました」
そう言って朋子さんが玄関の扉をパタリと締めると、嵐のような時間が終わりをつげ、恭平の部屋は静寂に包まれた。
「結局、どうなったんだこれは?」
よく分からないけれど、一つ言えるのは、恭平の貞操は何とか守られた。
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