第16話 明日の予定 Side~女性住人視点~
果林は家に帰宅し、部屋の明かりをつけ、よろよろベッドに倒れ込んだ。
「あーあ……せっかく恭平くんのお世話ができると思ったのに」
朋子さんから恭平くんがケガをしたという連絡を貰い、果林は気が気じゃなかった。
早退しようとも考えたけれど、何とか心を鬼にして定時で仕事を終わらせ、一目散に帰って来たというのに、恭平くんの部屋には既に先客がいて、既にお世話をされてしまっていた。
恭平くんとお話しできたのは嬉しかったけど、お世話できないのは残念でならない。
「いや、諦めちゃだめよ」
果林はめげずに起き上がる。
そして、ぎゅっと握り拳を作って炎を燃やした。
「きっと付け入る隙があるはずよ! 何かこう、あの子には出来ないようなことが……」
確か恭平くんは背中をケガしたはず。
であれば、アレもきっときついんじゃないかしら!
果林は妙案を思いつき、口角がにやりと上がってしまう。
「なんだ。意外と簡単なことじゃない。んふふっ……待ってて頂戴ね恭平くん。必ず私が君のお世話をしてあげるから」
そうと決まれば、行動あるのみ。
果林は早速準備へ取り掛かるのであった。
◇
「ん“ぁ……眠い……」
食べ終わった幸福感が訪れ、こまるは寝転がりながらお腹を掻きつつ、スマホをポチポチといじっていた。
机の上にはカップ麺の空きカップが置きっぱなしだけど、あとで処理すればいいや。
そんなことを思いながら、またジャンクフードばかりの生活に、こまるは飽き飽きしてしまう。
こまるが思い出すのは、恭平がお手軽に作ってくれたあの温かい手料理。
「あぁ、恭平の手料理が食べたいなぁー」
ついそんな独り言を、他に誰もいない部屋でこぼしてしまう。
こまるが起きたのはお昼過ぎ、それから勇気を振り絞って恭平の部屋を訪れたのだが、残念ながら不在。
渋々部屋へと戻り、色々と作業をしてから、ベッドの上でごろごろして恭平の帰りを待っていたら、いつの間にか眠りに付いてしまい、目が覚めたときには夜の9時を過ぎていた。
もう家には帰って来ているだろうけど、今から呼び出すのは流石に申し訳ないと思い、こまるの計画は、明日から遂行する予定になっている。
「はぁ……早く恭平と一緒におしゃべりしたいなぁ……」
両足を交互にパタパタとさせ、恭平と会えることを楽しみにしながら、スマホゲームに課金するこまるであった。
◇
夕食の片づけを終えてから、鳴海は自室へと戻ってきた。
正直、隣のお姉さんがこっそり恭平の部屋に突撃しないか不安だったけれど、恭平がお風呂に入ると言い出したので、流石に男の裸を見る趣味はないので、そそくさと帰って来たのである。
「はぁ……今から自分の分のご飯作るの面倒臭いな。何か余ってなかったっけ?」
鳴海は冷蔵庫を開いて残り物が余ってないか確認する。。
残念ながら、残り物は残っておらず、調理しないと食べれそうにない食材ばかりが入っていた。
「明日から、アイツの家で私の分も作っちゃおうかな」
恭平が美味しいと言ってくれたのがつい嬉しくて、恭平の容態が良くなるまで毎日夕食を作ると約束してしまった以上、ケガをさせてしまった身として口にしたことを破る訳にはいかない。
「仕方ない、今日はアレを食べちゃおう」
鳴海はキッチン下の棚を開き、非常用に常備してあるカップ麺を一つ取り出した。
湯沸かしポットに水を入れ、スイッチを入れてお湯が沸騰するのを待つ。
「にしても、アイツってやっぱモテるのかな?」
待つ間に考えてしまうのは、やはり恭平の家に駆け付けた隣人のお姉さん。
確か果林とか言ってたっけ?
あれは確実に、恭平を男として完全に狙っている目だった。
それを見たら、鳴海はなんかモヤモヤしちゃって、気づいたらムキになって攻撃的な口調になっちゃったんだよね。
「アレ? なんで私、アイツなんかの為にイラっとしてんの?」
改めて自分の言動を顧みて、恥ずかしくなってきてしまう。
「いやいや、アイツがどの女と関わってようと、私には関係ないじゃん! なんであんなことしちゃったんだろう私」
そう自分に問いかけてみるものの、明確な答えが出る事は無かった。
ただ、念のため、あのお姉さんが夜這いしていないか確認する為、朝一で恭平の部屋を訪ねようと思う鳴海なのであった。
◇
「ふぅ……」
部活を終えて家に帰宅した来羽は、エナメルバッグをドサっと床に置いた。
「さて、明日に備えて身体のケアをしよう」
アスリートにとって、運動後のケアが何よりも大切。
まずはクールダウンも兼ねての軽いストレッチと筋トレをしてから、シャワーを浴びるいつものルーティーンへと入る。
「そう言えば、隣の部屋から異臭がしなくなったな」
恭平に頼んで調査してもらったところ、隣の住人が部屋の中にゴミをため込んでいたのが原因だったらしい。
来羽はその後部活があったため、家を出てしまったのだけれど、あれから恭平が協力して隣の部屋の掃除をしてくれたらしく、もう異臭は漂ってこなかった。
「そう言えば。お礼を言ってなかったな」
死体調査に乗り出してくれたのも、隣の住人の部屋を片して異臭問題を解決してくれたことも、まだお礼を言えていない。
「明日の朝、一言礼を言いに行こう。そうだ! ついでに朝のランニングにも誘ってみるか。いくら夏休み中とはいえ、ずっと怠けてるのも身体によくないだろうからな」
この前は断られたけど、軽い運動程度だったら了承してくれるのではないか。
そんな淡い期待を抱き、来羽は明日、恭平へお礼を兼ねてランニングへ誘ってみようと思うのであった。
◇
「もう……! どうして頼ってくれないの⁉」
ついに堪忍袋の緒が切れ、朋子はドンっと台パンしてしまう。
時刻は夜の十時を回ったところ。
「何かあったらいつでも頼って頂戴って言ったのに!」
朋子が知らないのも無理はない。
だって礼音は、既に鳴海に頼ってもらっていたのだから。
「私ってそんなに頼りない女に見えるのかしら……」
朋子は自暴自棄になり、グデーンと机に突っ伏してしまう。
確かに時々ポンはしてしまうけれど、誰よりもここの住人の事を考えているし、心の支えになってあげたい。
それに、恭平君はまだまだ若い大学生の男の子。
もっと、お姉さんにいっぱい甘えてくれてもいいのに、どうしてあんなにしっかり者なのかしら?
普通男の子って、家事は女に任せっきりで昼間からパチンコでお金を儲けて、そのお金で酒を飲み、帰ってきたら女を抱き、シメに窓際でクールに一服するものじゃないの?
朋子が知っている男性と違い、恭平君の性格は正反対。
ギャンブルもしなければ、家事も一人でこなし、お酒も飲まなければタバコも吸わない。
それどころか、女っけ一つない。
もしかして、女性自体に興味がないのかしら?
そう不安になってしまうほど、朋子が今まで知り合ってきたような男性像とはかけ離れているのだ。
だからこそ、彼がどうしてそんなことが出来るのか気になってしまう。
「はぁ……こうなったら、お節介だと思われても、明日私から彼の部屋を訪れるしかないわね」
こうして、今日は諦め、明日に備えることにする朋子であった。
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