第11話 グータラ計画~Sideこまる視点~(途中視点変更あり) 

 恭平の家での夕食を終え、こまるは203号室へと帰宅する。

 部屋の明かりを付け、改めて辺りを見渡す。

 果たして、ここは自分の部屋なのかと疑ってしまいたくなるほど綺麗に整頓されている。

 実家の時は、両親が毎日掃除をしてくれていたとはいえ、学習机の上やベッドの上などはある程度散らかっていたので、ここまで綺麗な部屋に住むのは初めてかもしれない。

 やはり、恭平には掃除センスがあると思う。

 そして驚いたのが、恭平の作ってくれた手料理。

 時間がないということで、炒飯に麻婆豆腐というラインナップだったけど、料理の腕は確かだった。

 麻婆豆腐は市販の麻婆タレを使用していたものの、豆腐がタレと絶妙なバランスで絡み合い、あとからくるピリッとした辛さも食欲をさらにそそられた。

 もしもこまるが挑戦していたら、タレ自体を焦がしてしまい、豆腐の原型すらなくなっていただろう。

 炒飯は米一粒一粒がパラパラしており、塩コショウの味付けもバッチリで、口に含んだ瞬間に広がる香ばしい香りがこまるの舌をうならせた。

 お店でテイクアウトしてきたものだと言われても気づかないレベルのクオリティの夕食に、こまるは大満足。

 そして何より、出来立ての温かい手料理を誰かと一緒に食卓を囲んで食べれたという幸福感。

 料理の出来ないこまるは、一人暮らしを始めてから昨日まで毎日ウーバー〇―ツという不健康な生活を送っていたので、一人で食べている時の食事はまさに無の境地。

 ここ最近では、ただ搔き込むだけの作業と化していたこまるの食事に、恭平が温もりをくれたのだ。

 部屋を綺麗に掃除してくれて、手料理もふるまってくれるのなら、お金を払って恭平を家政婦として雇ってしまおうかとさえ考えてしまう。

 さらに驚いたのは、恭平が赤火レイカのレッド隊であるということ。

 夕食時に話しそびれちゃったけど、今度レイカちゃん談義で一緒に盛り上がれるといいな。


「……あっ、そっか!」


 そこで、こまるは妙案を思いつく。

 恭平とレイカちゃん談義で盛り上がってさらに親睦を深めれば、そのまま一緒にゲームしたり遊んだりするようになって、世話を焼いてくれるようになるのではないかと。


「これだ!」


 この作戦であれば、わざわざお金で恭平を雇わなくても部屋の掃除をしてくれて、料理まで提供してくれる。


「恭平が毎日私の部屋に来るような口実を作っちゃえばいいんだ!」


 さてはこまる、天才なのでは?

 自分で思いついた発想ながら感心してしまう。

 だが……ふとこまるの頭をよぎったのは、恭平の隣に住んでいるグラマアスボディーの女。

 名前は確か……果林とか言っていたっけ?

 果林は完全に、恭平を食べようとしているハンターの目をしていた。

 もしこまるの知らぬに、果林が恭平をあの魅惑的な身体で迫ったとしたら……。


「ダメ、私の計画が丸つぶれになってしまう……!」


 こまるの計画を敢行するためにも、まずはあの果林とかいう女をどうにかしないと!


「よし……やってやるぞ!」


 こまるはぎゅっと拳を握りしめ、気合を入れる。

 全ては、こまるグータラ計画の為に!

 こうして密かに、こまるグータラ計画が始まろうとしていた。



 ◇



「ふぃーっ……疲れた」


 恭平がベッドへ寝転がると、どっと一気に疲れが押し寄せてきた。

 こまるちゃんの汚部屋掃除を一日中やっていたせいで、腰が悲鳴を上げている。


「しばらく汚部屋の片づけは勘弁したいところだな」


 明日からこまるちゃんがしっかり部屋を綺麗に使ってくれることを願いつつ、そのまま眠りに付くため目を閉じる。


「アッ……ンッ……ッ」


 すると、壁越しから女性の艶めかしい声が聞こえてきた……ような気がした。

 身じろぎ止め、恭平はじっと耳を澄ませる。


「んっ……あっ……はぁっ……あっ♡」


 聞き間違いではなかった。

 間違いなく壁越しから、女性の身悶えるような声が漏れてきている。

 壁の向こう側……101号室にいるのは果林さんのはず。

 恭平はごくりと生唾を飲み込み、寝転がったままそっと壁際へと耳を近づける。


「あっ……これぇーっ……。アッ……あっ、あっ……ダメッ、気持ちいぃっ……♡」


 眠気が一気に覚め、恭平の脳からドーパミンがドバドバと出始める。


「あっ……ダメッ……声出ちゃう♡ でも、止められないよぉ~……」


 固唾を呑んでその嬌声な声を盗み聞きする恭平。


「ダメ……ッなの……♪ こんなに大きな声出したら……聞かれちゃう……のにぃ……ッ♡」


 どう考えてもお楽しみ中であろう果林さんの嬌声な声。

 自然と恭平の妄想が捗ってしまう。


 ベッドの上で、下着越しに手でサスサスといじる果林さん。

 甘ったるい声を上げながら、壁の向こうにいるであろう恭平に聞こえてしまうのではないかというスリルを味わいつつ興奮している姿を……。


「あっ……そんなっ……激しぃ……♡」

「うっ……ヤベッ……」


 恭平、すぐさまスタンドアップ!

 ベッドから一旦離れて、深呼吸を繰り返す。


「鎮まれ……鎮まれ……」


 そう自分に言い聞かせながら、普段しないスクワットや腕立てなどを行い、ようやく心を落ち着かせることが出来たものの、無駄に運動したせいで汗まみれになってしまい、もう一度シャワーを浴びる羽目になるのであった。

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