第7話 孤独死……⁉
ピンポーン
朝、インターフォンの音で恭平は目を覚ます。
スマホの画面で時計を確認すれば、時刻はまだ朝の八時前。
宅配にしては早い時間帯だし、一体誰だろう?
ピンポーン
そんなことを思っていると、追い打ちをかけるようにインターフォンが連続で鳴り響く。
恭平は渋々ベッドから起き上がり、眠い目を擦りながら玄関へと向かう。
「はーい。どちら様ですか?」
覗き窓を確認せず、欠伸をしながら恭平が扉を開けると、玄関先に立っていたのは朋子さんと来羽という珍しい組み合わせだった。
「おはよう恭平君。もしかして今起きたところかしら?」
「おはようございます朋子さん。はい、今起きたところです……」
ふにゃふにゃとした声で恭平が答えると、来羽がはぁっとため息を吐いた。
「全く、いくら夏休みとはいえたるんでるんじゃないか? 平野も少しは朝早くに起きて鍛錬でもしたらどうだ?」
「おはよう来羽……悪いけど、俺は朝が苦手なんだよ」
また大きな欠伸をしながら受け答えをすると、やれやれといった様子で来羽が再びため息を吐いていた。
「にしても、二人一緒に揃って朝早くからどうしたんですか?」
恭平が尋ねると、朋子さんと来羽が顔を見合わせてから、困ったような表情を向けてくる。
「実は……私の隣に住んでる203号室の部屋から異臭がするんだ」
「えっ……異臭?」
恭平が首を傾げると、今度は朋子さんが話の続きを引き継ぐ。
「そうなの。来羽ちゃんに相談されて確認しに行ったら、部屋の近くに行くと生臭い臭いが漂ってくるの。それで、何度かインターフォンを押したんだけど、一向に出てくれなくて……」
そう言えば、恭平が越してきてそろそろ一週間が経過しようとしているが、203号室の住人だけは見かけたことがない。
「ちなみに、203号室にはどんな方が住んでいるんですか?」
「確か、恭平君と同い年くらいの若い女の子よ。先月引っ越してきたのだけれど、全然外に出ている様子もなくて……。もしかしたら孤独死してるんじゃないかって心配してるのよ」
「こ、孤独死ですか⁉」
「えぇ……だって異臭もするし、引っ越してきて以来一度も顔を見ないのよ。明らかにおかしいでしょ?」
「た、確かにそうですね……」
「そう思ったら私怖くなっちゃって……スペアーキーを渡すから、恭平君に家の中を見てきて欲しいの」
「えっ……俺がですか⁉」
「急なお願いでごめんね。でも、私も来羽ちゃんも死体を見るのだけは怖くて……もし本当にそうなら、警察にも連絡しないといけないし」
「そ、そうですね……。分かりました。そう言うことなら引き受けます」
「本当に⁉ ありがとう恭平君!」
朋子さんは恭平が引き受けることになり、ほっと胸を撫で下ろす。
隣では来羽が感心した様子でふむふむと頷いていた。
「流石平野。こういう時こそ、男の役目だぞ」
「結局、来羽も怖いだけだよね?」
「わっ……私はただ、異臭で迷惑しているだけだ。死んでいようがいまいが関係ない」
「さいですか……」
まあ何がともあれ、恭平は203号室の住人の生存確認をすることとなった。
恭平は一旦部屋に戻って顔を洗って寝癖を直して着替を済ませてからもう一度外へと出る。
「お待たせしました。では早速、生存確認していきますか」
まず恭平は、203号室へ入る前に、裏手のベランダ側の窓へと回り、部屋の明かりがついていないか確認しに行くことにした。
しかし、残念ながらベランダ側はカーテンで閉じられており、中の様子を覗う事は出来そうにない。
諦めて正面へと戻り、階段を上がって203号室の玄関先へと向かう。
すると、来羽の言う通り、203号室の玄関前に立つと、微かにツーンと鼻にくるような異臭が漂ってくる。
一応念のため、恭平はインターフォンを押して扉をノックした。
「ごめん下さい。いらっしゃいますかー?」
しかし、部屋の中から物音は一切聞こえない。
「反応ないですね……」
「もしかして、本当に死んじゃってるのかしら?」
顔をこわばらせる朋子さんをよそに、来羽は顎に手を当てて何やら考え込んでいる。
「扉を開けた先には、部屋のベッドに横たえて、変わり果てた姿となった少女の死体が……。謎の死を遂げた少女、この部屋で一体何が……」
「そんな物騒なこと今は言わないで来羽ちゃん!」
まるでミステリーサスペンス風の口調で語る来羽に対し、朋子さんは怯えた様子で肩を震わせている。
「それじゃあ恭平君。後は頼んだわよ」
朋子さんは震えた手で、203号室のスペアキーを手渡してくる
恭平はスペアキーを受け取り、もう一度203号室に向かって声を掛けた。
「こちらから鍵開けますからね! いたら返事してください」
しかし、返答は帰ってこない。
恭平は意を決して、鍵穴へ鍵を差し込み、がちゃりと施錠を解除する。
恐る恐る扉を開けた途端、ぷーんと先ほどまでとは比べ物にならない異臭が漂ってきた。
「うっ……」
その強烈な臭いに、恭平は思わず鼻を手で塞いでしまう。
恭平は一旦外で息を吐きだしてから、肺へ一気に空気を吸い込み、そのまま息を止めて一気に部屋の中へと入る。
部屋の間取りは恭平の部屋と全く同じだが、室内はまるで別世界のようだった。
床には大量のごみ袋が散乱しており、テーブルの上には大量の食べ残しが放置したままで、シンクには洗われていない食器類が置きっぱなしの状態になっている。
まるでゴミ屋敷のような惨状に、恭平は立ちくらみを覚えてしまうものの、何とか踏みとどまり、息を止めながら靴を脱いで、部屋の奥へと進んでいく。
すると、部屋の奥の方から微かな光が漏れていた。
恐る恐る部屋の奥へと進んでいくと、光源の正体は、パソコンのスクリーンのライトだと分かったのもつかの間、隣にあるベッドに、赤髪の少女が横たわっていて――
恭平は思わず息を飲む。
しかし――
「ぐぅーっ……ぐぅーっ……」
少女が大きないびきをかいていたことで、生きていることが確認できて恭平はホッとする。
いびきをかいている少女は、シャツ一枚に下着姿という格好で、不健康そうな真っ白い肌を曝け出しながら、口を開けて眠り呆けているのであった。
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