第13話 決意、満ちる

……さ、僕も一つ餡ドーナツを食べようかな。

 そう思い、伸ばした手が空を切る。

「あっ」

 何と餡ドーナツが、既に皿の上から消えていたのだ。

「ま、まだ僕食べてないのにぃっ!?」

 こうして小豆餡が、食べてさえ貰えれば異世界の人間にも受け入れられるということを知る。

 つまり和菓子も、十分にこの世界の人間に通じるのだ。

 沸々と、体の内側である思いが熱を上げていく。

 僕はこの世界のチビ姫から勝手にも呼び寄せられ、放逐されたその瞬間からぼんやりとこんなことを考えていた。

 生きて元の世界に戻るためにも、まずは生活費のために何か仕事をしなくてはならないと。

 そしてその仕事は、僕の大好きな――。

「決めた」

「?」と言った目が、この場に居る全員から向けられる。

 怖じ気付き、これから口に出す言葉を引っ込めてしまいたくなった。

 だが、僕は意を決して宣言する。

「僕は自分の店を持って、お菓子の職人としてやっていきます!」

「バカなことは止めておけ」

 もし誰かにそう言われても、やるつもりでいた。

 しかし――。

 奥さんが口を開く。

「まあ、それはいい案ね! これからもこの味が食べられるなんて素敵だわ!」

「いいアイディア」と、エレミーも続いた。

 ご主人もうんうん頷きながら、こんなことを訊ねてくる。

「ならまずは、店舗となる物件を探さないとな! ウチに泊まりに来るくらいだ、どうせそういう物件も金も持ってないんだろ?」

 金はあるが、無駄遣いは避けたいのでそういうことにしておくか……。

「はい、ご主人の言う通りです」

「なら俺の知り合いの不動産屋を紹介してやるよ! きっといい物件を見付けてくれるはずだ! 明日にでも行ってみるといい!」

 まさに渡りに舟! 

 こんなにトントン表紙で話が進んでしまっていいのか? 

 そう若干の不安を覚えつつも、ありがたくその話を受け入れた。

「あ、ありがとうございます! ぜひよろしくお願いします!」

 ここで、これまで一言も喋っていなかった娘さんが、いつの間にやら僕の隣で服の裾を引っ張りながら言う。

「世界で一番のお菓子屋さんになってね」

「……うん、ありがとう。きっとなるよ、一番に!」

 僕はこれから自分の作る和菓子がこの異世界に通用するのかどうか、その挑戦をするのだ。

 その後夕食を済ませ、部屋に戻った後も僕のワクワクは収まらなかった。

 エレミーと二人。

 新天地での生活が今、始まる。

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