第9話 生命の力が無いそうです……

 僕が絶望的な表情で頭を垂れると、それを覗き込みながらエレミーが言った。

「もしかして使い方わからないー?」

「うわっ! エレミーいつの間に!? 部屋に居たんじゃ……?」

「暇だから来た」

「なるほど」

「ねえ、竈の使い方わからないの?」

「あ、うん、実はそうなんだ」

「火を点ければいいんだよ」

「その火の点け方がわからないんだけど……」

「魔法で点ければいい」

「……は?」

 理解の追い付かない僕を置いてきぼりにし、エレミーが竈に手を翳す。

 すると次の瞬間、ボッと薪に火が点いたではないか。

「……は? は?」

「簡単」

 そう一言呟き、エレミーはしたり顔を浮かべた。

「いや簡単じゃないんだけど!? 僕魔法使えないんだけど!?」

 不思議そうな顔でエレミーがおうむ返しする。

「魔法が使えない?」

「うん」

「魔法は生命の力を使うことで生まれ、誰でも簡単なものなら生まれつき使えるもの。つまり魔法が使えないということは生命の力が無いってこと」

 そこまで言ったところで、エレミーはその表情を暗くした。

 彼女は続ける。

「だからナギは……しっ、死んでる?」

「いや生きてるよ!?」

「見たらわかる。だから魔法は使えるはず。なんで使えない?」

「それは僕が来たのは魔法の無い世界……じゃなくって、僕は魔法が使えない一族の出身なんだよ!?」

「……ふーん」

 思いきり訝しげな視線をこちらに寄越しながらも、エレミーは言った。

「ならそこに置いてある火打ち石を使えばいい」

「えっ」

 彼女が視線を向けた先へと振り返る。

 するとキッチンの端の方に、二つの白み掛かった水晶のような石が置いてあった。

「あっ、それ火打ち石なのか……。実物見るのは初めてだから知らなかったな……」

「ナギはなんにも知らないねー。不安」

「くっ……」

 見るからに年下の少女に憐れみに満ちた目を向けられるなんて……屈辱! 

 でも言い返せない。

 僕は黙って作業へと戻る。

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