第8話 ツンデル

 通された部屋でベッドに腰を下ろし、一先ずまったりとしていた僕とエレミーだったが、流石にチェックインが早過ぎたために暇だった。

 なので僕はダメ元でご主人の所へ行き、あるお願いをする。

「あの、すみません」

「なんだい?」

「もしよろしければなんですが、僕にキッチンを使わせていただけませんか?」

「あ? 何のためにだ?」

「実はさっきお店で食材を買ったんですけど、それで……」

「それで?」

「お、お菓子を作りたくて……」

……どうだ? 

 やっぱり初めて会ったばかりの人間に、キッチンなんてそう簡単に貸してくれないよな……? 

 半ば諦めていたが、ご主人の反応は悪くなかった。

「ほう、菓子を作るのか。男なのに珍しいな」

「あ、はい。それとですけど、もしよければ皆さんの分も作らせて下さい。娘さんも喜んでくれると思うのですが……?」

 チラリと顔色を窺う。

 やはりご主人の感触は悪くなさそうだ。

「そういうことなら夕食の支度まではまだ時間もあるし、ここにある道具も自由に使っていいぞ! ただし、使った道具はしっかりと洗っておいてくれよな!」

「あ、ありがとうございます!」

 娘さんのことを出したことがだめ押しになったのだろうか、結果的にご主人はキッチンを貸してくれることに快くオーケイしてくれたのだった。

 そんな訳で僕は異世界に来たというのに相も変わらず、早速これまで通り趣味の和菓子作りに取り掛かる。

……いや、よくわからない場所に来てしまったからこそ、いつものペースを取り戻したくてこんな酔狂な真似を始めたのかもしれない。

 まあそんな自己分析はとりあえず置いておいて、目の前の作業に集中しよう! 

「よしっ!」

 まずはキッチンにあった鍋の中に先程買っておいた豆を入れ、たっぷりの水でぐつぐつと煮る……つもりなのだが、よく考えたら竈の使い方がわからない! 

 なんだこれ!? 

 当たり前だけどIHでも、ましてやガスコンロですらないんだけど!? 

 薪に火を点ければいいんだろうけど、その火の点け方がさっぱりわからないのですが!? 

 ライターは!? 

 マッチは無いの!? 

 うん無いよね! 

……はい詰んだ。

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