第4話 夜の支配者の種族

 気付けば箱の中身は空っぽ。

 いくらなんでも、普通全部は食べないだろ!? 

 ってか美味しそうに食べる姿に見惚れて、うっかり止めることを忘れていたーっ!? 

「あばばばば」

 貴重な元の世界の練り切りが……。

 くらくらと今にも倒れそうな僕に向かって、少女は屈託の無いどこか間の抜けた笑顔と間延びした声で礼を言う。

「どこの誰か知らないけどありがとな。助かったぞー? 本当に死ぬとこだったし」

「……」

 そっか、僕は人一人の命を救ったんだな。

 そんなかけがいの無いものを、この僕が……。

 僕は爽やかな笑顔で言った。

「どういたしまして、困った時はお互い様だよ」

 しかし少女には僕が血涙を流しながら、顔面の筋肉を引き攣らせて無理矢理に笑顔のようなものを繕っているように見えたのだろう。

 その顔がみるみる内に申し訳なさそうなものに変わった。

「なんか、ごめんな? 凄く美味しかったし、高いお菓子だった? 全部食べちゃってほんとにごめん」

 しょぼんと、少女の眉毛がハの字に下がる。

「あ、ああいや!? いいよいいよ、死ぬところだったんだし、気にしなくていいから!」

「だからな、お礼に私がお前を守ってあげる」

……ん? 

 この見るからに年下の女の子が、僕を守るだって? 

 いやいやご冗談を。

「あのさ、お菓子のお礼は別にいいから。僕を守るとか、そんな無理もしなくていいし」

「でもお前細いし弱そー」

「なっ!?」

 失礼な! 

……まあ、確かに見た目通り腕力とか無いしナヨナヨ系男子だけれども。

 でもだからって、こんな小さな子に守られるのなんて――! 

「護衛は本当に結構です」

 僕はそうはっきりと断ったのだが、少女は引かない。

「でも―」

「でもじゃない」

「モンスターとかに襲われたら絶対すぐ死ぬ」

「……モンスター?」

「モンスター」

……ここは異世界だ。

 そういう生物が居てもなんらおかしくはない。

 そっかぁ、モンスターかぁ……。

 モンスターが居るのかぁ……。

「なぁなぁ、それでどうするんだー? 私を連れてくかー?」

 なおもしつこく食い下がってくる少女。

 だがモンスターが居るからといって、やはりこんな子供に身を守って貰うっていうのは……。

 そんな僕の考えは顔に出てしまっていたのか、少女は更にジトリとした目で訊ねてきた。

「もしかして私のこと、弱いとか思ってる?」

 はい思ってます。

 それを正直に伝えれば、この子も諦めてくれるだろう。

 僕はそう考え、少し可哀想だがズバリ言ってやった。

「まあ、強そうには見えないよね……。じゃあ、そういうことだから」

「ねえ本当に強いんだけど? 私、夜の支配者の種族の末裔なんだけどー?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る