二十三話 強さを求めた瞬間、弱いことを自覚する

「お、オリアナ様」


 灰色の瞳はこれ以上ないほどに絶望に沈んでいて、なのに唇は上がっている。


「アハハハ。もう、もう! ああ、祈りと豊穣の女神マーテルディア様、戦いと慈悲の神シュラセトリディア様。もう、どうすれば……」

「お、オリアナ――」


 部屋の惨状に引いていたオリアナの取り巻き二人が、涙を浮かべてモニカに土下座する。

 そして悲痛な叫びが響き渡る。


「モニカ様。モニカ様の怒りは最もです。ですが、ですが!」

「どうか、どうか、私たちの命で。何でもします。ですから、オリアナ様は!」

「え、あ、え」


 エイミーが沈痛な表情を浮かべ、罪悪感にうなされている。

 たぶん、オリアナたちはエイミーたちが引ん剥いた大男を使ってこの場所に来たのだろう。

 冷静だったらあんな晒し者にせず、学園の影に押し込めていた。なのに、明らかに見つかりやすいような場所に……

 フィオナは、もう自暴自棄になっているオリアナが、自らの首に護身用に持っていたナイフを突き刺そうとして、それを止めている。


「オリアナ様、やめてください!」

「もう、いいのよ。ルーク様も! あの女! コイツらも! アナタたちも! 私に消えてほしいのよ!」

「チッ」


 だが、錯乱状態にいるオリアナを落ち着かせるのはむつかしい。

 なので、フィオナは魔術を併用しながらオリアナの意識を奪った。首トンをしたのだ。

 土下座しながらも、オリアナを見ていた取り巻き二人が。


「命なら、命なら私のを! 後生です、どうか、どうか」

「エイミー様、どうか、どうかお願いいたします。入学初日の件の怒りは最もです。靴も舐めます。地べたも舐めます。泥の飲めといえば飲みます! い、命も差し出します。ですから!」


 エイミーにまで縋りついた。

 実は対人経験が意外と少ないエイミーは、本気の土下座に混乱している。

 いや、命貰ってもこまりますぅ、と冷や汗を掻いているが、どうやってこの状況を治めるべきか――


「オリアナ様から離れなさい!」


 と、そう考えているうちに、学園生徒と思われる女性二人が、剣をもって入ってきた。

 彼女たちはオリアナの学生護衛だ。

 オリアナに直接仕えるメイドであり、オリアナの世話係兼護衛として、オリアナの同級生として王国高等学園に入学したのだ。

 フィオナに剣を向ける意味が分かっていながら、それでもオリアナを守るために剣を向ける忠義のメイド二人に、フィオナは一瞬でその場から跳び去る。

 ……普通、人一人王国高等学園に入れるなど、結構お金がかかるのだが、しかも忠義のメイド二人を育てるなど大変である。

 だから、エイミーもモニカも、そして一応貴族のフィオナもオリアナが家族に愛されているのだと感じる。

 少なくとも、打算的な行動で人心把握ができないオリアナに忠義を尽くす学生メイドたちは、本当にオリアナに慕っているのだろう。


「どないしようか」


 鮮血の暗い部屋は混沌に満ちていた。




 結局。


「あ、アナタは……」

「黙ってくれるですぅ?」

「はい、もちろんですわ!」


 未だ気絶しているオリアナを心配そうにして見ていた取り巻きの一人が、カクカクと頷いていた。

 そこには、十二の魔術陣が浮かんでいて、そして消えた。

 

「エイミー、アンタ……」

「もちろん、モニカもですよ。流石に精神干渉系は」

「もちろんや。禁忌審判が襲ってくるやん」


 自体を落ち着かせたのは、禁忌に指定されているエイミーが行使した精神干渉魔術、〝水面鏡花〟。

 エイミー自身が使える魔術の中でも、最も階級が高い下級魔術に属し、心を落ち着かせる魔術だ。

 それを無詠唱に使ったエイミーに、取り巻きの令嬢や学生メイドはもちろん、モニカも驚愕していた。

 だが。


「……うーん。ねぇ、これって私も言った方がいい感じ?」


 得意の水魔術で、部屋や捉えた令嬢たちを染めていた鮮血を洗い流したフィオナは、アハハと苦笑いしていた。

 そして先ほどエイミーが浮かべた〝水面鏡花〟と同じ魔術陣を浮かべていた。


「……本当に、本当に申し訳ございません!」

「なにとぞ、なにとぞ、どうか!」


 それを見た学生メイド二人が背負っていたオリアナを素早くソファーに寝かし、土下座した。

 精神干渉魔術が使える魔術師二人に手を出したのだ。それも無詠唱魔術を使える相手に。

 いったん落ち着いたとはいえ、顔を真っ青にして言葉を震わせるしかない。


「……なら、オリアナ様をしっかり守るんだよ」

「そうですぅ。よい商談相手なんですから」

「こら、エイミー」


 冗談めかして茶化す二人に、周りは何も言えなくなってしまった。

 と、そんな雰囲気になっていたら。


「あら……ここは」


 体を鋼鉄の糸で縛り上げられたレフィナが、目を覚ました。


「……何よ、何よこ――」

「――は~い。レフィナ様ぁ。動かないでくださいねぇ」

「あと、狸寝入りをしているヴィルジニテ様もだよ」


 その瞬間、冗談めかしながら笑っていた二人がナイフを一瞬で取り出して、二人の首に当てた。


「ひ、ひぃ!?」

「べ、ベル! 何してるの、助けなさい!」


 レフィナは目端に涙を浮かべ、恐怖を顔に貼り付ける。

 また、狸寝入りをしていたヴィルジニテは、オリアナの取り巻きの一人、イフ子爵令嬢のベル・オーガスト・イフに怒鳴り散らす。

 一応ベルの方が位が低いのだ。

 だが、オリアナを心酔しているベルは、キッとヴィルジニテをにらみつける。


「な、なによ!?」

「は~い。ちょっと黙れよ!」

「ッ」


 真っ赤に顔を染めたヴィルジニテに、フィオナはナイフをさらに押し付ける。

 それにより、怒りよりも恐怖心が勝ってしまった。


「あ、フィオナ。そこの魔術師と執事の潰しといてですぅ」

「えー、私がやるの?」

「はいです。私はこっちをやるんで」

「……しょうがないな」


 そう言って項垂れたフィオナは、部屋の隅に捨て置かれている男どもの方へ移動する。

 そして思いっきり頬をった叩いて起こす。


「ッ、お、お前は!」

「黙れ、クソども」

「ッッッッゥゥゥゥウウ!」


 そして、その何とは言えない部分を思いっきり蹴り飛ばした。

 ……ホント何とは言えないが。

 そうして、無残な蹂躙劇が始まってしまった。


「では、こっちはこっちで始めましょうか」

「ひ、ひぇ」

「ぁ」


 それをニヤリと楽しそうに見ながら、エイミーはナイフを弄ぶ。

 それから、レフィナとヴィルジニテの両手を縛っていた鋼鉄の糸を切る。

 

「はん、間抜けですわね、あな――」


 その瞬間二人はエイミーに飛びかかろうとしたが、それはエイミーの祝福ギフトによって止められた。

 つまり。


「――はい、『じゃんけんポン』!」

「へ」


 二人はじゃんけんをさせられた。

 そして。


「勝利者命令ですぅ。――現時点から私の命令全てを絶対順守しろ、ですぅ」

「な、何を――」

 

 あまりの言葉にヴィルジニテは怒鳴り声を上げるが。


「――“黙れ”ですぅ」

「!」


 どんなに声を出そうとしても、口を開こうとしても無理だった。

 それを見ていたベルや学生メイドたちはさらに驚愕し、モニカはめっちゃ怒ってるやんと心の中でごちる。


「ということで、まずレフィナとヴィルジニテは、オリアナ様に一生をかけて尽くせですぅ。それと――」


 そして、男たちの悲鳴をBGMにエイミーは、レフィナたちに次々と命令を下していった。

 それができるのは、支配系の祝福ギフトの中でも最も力が強いことを意味し、そういう人たちは国家のお抱えを意味する。

 いや、お抱えどころではない。彼女の存在一つで戦争が起こるほどだ。

 つまり、エイミーは知ってはいけない存在だ。


 ……が、実際は違う。

 エイミーは祝福ギフトは支配系だが、永遠に命令を聞かせられるほど強い祝福ギフトではない。

 だが、ここにはエイミーだけでなくモニカもいるのだ。

 同じ神様に授けられて祝福ギフトが同空間にあって、そんな彼女たちが傷つけられた事により、緊急防衛が発動したのである。

 それに『空欄の魔術師』としての力をフル活用したのもある。


 まぁ、どっちにしろレフィナたちはもちろん、ベルたちの心を折るには十分だった。

 絶対に逆らうまいと思い、今までのをどうやって償えばいいかとガクガクと体を震わせる。

 そして、ちょうどフィオナが男どもを再起不能にし、レフィナたちが白目を向いてしまい、ようやく事態が落ち着いたころ。


「……あら、わたくしは一体……ッ!」


 ソファーで寝かされていたオリアナが起き上がった。

 そして、今までの事を思い出して、顔を真っ青に染めるが。


「オリアナ様、オリアナ様。大丈夫や。大丈夫。……ほら特別会員権や」

「……アナタは、何故……」


 モニカが抱きしめ、ポンポンと背中を叩いた。

 それから、懐から青白いカードを取り出した。

 それは、アフェーラル商会のお得意様を意味するカードであり、そしてそれを持っていることは、オリアナはアフェーラル商会に付くということを意味する。

 名前を貸してくれれば手打ちにするとモニカは言ったのだ。

 だが。


「……いえ、頂けませんわ。エイミー様への謝罪がこんな形に……わたくしは愚か者ですが、それでも彼女たちを監督しなければなりませんでした。エイミー様にも手を出したのです。家とは縁を切り、相応の対応を――」


 と、モニカの後ろに立っているエイミーを見た瞬間、オリアナは焦燥を浮かべる。顔が真っ青になり、一瞬で立ち上がった。

 そして深々と頭を下げる。


「本当に虫がいいのも承知で頼みます。謝罪は、今後の取り決めは後に回してくれませんでしょうか! 時間が、時間がないのです! 今、わたくしが出ていなかったら、わたくしの派閥の子が!」


 見ていたのはエイミーではなく、その後ろにあった時計だ。

 時計の針を見て、オリアナは自らの心配より人の心配をしたのだ。


「……なるほど、第三王子の……けど、時間がもう」

「ウィリアム様とケヴィン様の試合が長引いておられるのです! ですから、ルーク様の試合にわたくしが来てないなどあったらっ!」


 ――ホント難儀やな。

 モニカはため息を吐くしかない。

 そして、オリアナの手をとる前に。

 

「なら、さっさと行くですぅ。こいつらはもう放っておいても大丈夫ですしぃ、私もあのボンクラを見なきゃならないんですぅ」


 エイミーが、その小さな体では考えられないほどの剛力をもって、オリアナをお姫様抱っこし、部屋を一目散で飛び出した。

 それを見たフィオナは認識阻害系の魔術をかけて。


「じゃあ、私もさっさと行くので、他の五人は人の目につかないように――」

「――この宿の地下に学園に繋がる地下通路があります!」

「え。……え、エイミー。認識阻害とか使わなくっていいって!」


 そうして、部屋を飛び出したエイミーを無理やり連れ戻した。

 そして、六代前のグレイフクス公爵家が学園都市と契約して作った地下通路を使って、学園へと豪速で戻ったのであった。

 恐怖によって気絶してしまったレフィナたちを放っておいて。



 Φ



「ふぅ」


 一呼吸漏れる。

 だが、自分も、そしてオスカーも微動だにしない。

 それが、ちょうど十分近く。


 ――やはり凄いな。

 隙のない構えが十分も続いている。それだけでオスカーの実力が測れるが、そのほかにも、オスカーの身体を流れる闘気法が美しい。

 美しいと思ってしまうほど、繊細で滑らかで豪胆な流れ。

 一心に練り上げられ、解き放つ今を今かと待ち続ける。

 

 だが、それ以外にも。

 ――俺への罵倒すらないとは。

 十分も互いに動かなければ、それはもう罵詈雑言の嵐だろう。

 それに、オスカーへ痛罵はなくとも、散々嫌われまくったウィリアムにはあるだろうと予想していた。

 だが、観客全体が息を呑むように静寂に満ちていた。

 それは、オスカーが持つ力だ。空っぽの人形にはない力だ。


「ふぅ」


 また、一息漏れる。

 体全体を蝕む痛みが、そろそろウィリアムの意識を刈り取りそうなのだ。

 それに呼応するように闘気法の練度も、一瞬一瞬だが、乱れ始めている。

 だからこそ、息を吐き、安定を取ろうとしている。

 ――まだまだ鍛錬が足らないか。

 ウィリアムは、肉体的にも精神的に貧弱だと自覚し、明日の鍛錬を考え――

 

「ふぅ」


 ――そうか、俺は明日を考えたのか。

 そして凪いでいた心が、荒ぶる。けれど、それは決して厭な荒ぶりではなく、むしろ心地のよい。

 だからこそ、この瞬間、人の考えが知りたくなった。


「なぁ、オスカー」

「……なんだい?」


 話しかけてきたウィリアムに、オスカーならず審判も驚く。

 が、オスカーは集中を切らさないようにしながら、ウィリアムの会話に乗る。


「献身とはどういう意味だ?」

「……その心意気を体現している国の王子では?」

「いや、自己犠牲以外で何かないか?」


 オスカーは戸惑う。

 こんな場面で献身を問うてきたのも。そして、騎士の誇りである献身という意味を否定する――


「……一つ、一つあるよ。とても古い意味だけど」

「古くてもいい」


 むしろ、古い意味の方が母は好みそうだと、ウィリアムは心の中で付け足す。

 

「伝道者。己が敬う神の教義を伝える者。神の意思を伝え、紡ぐ事を決意する。そういう意味だったよ」

「……そうか」


 それを聞いた瞬間、ウィリアムの心はスッキリ――しなかった。

 けれど、混乱したわけではない。意味が分からないと投げ出したわけではない。

 藻掻いていたのだ。藻掻く海を見つけたのだ。

 ――神の教義意思を伝える、紡ぐ。神々に命を捧げる事から来ているのか……だが、それはどうでもいい。たぶん、必要なのは動作。伝え、紡ぐこと。

 母は何かをすることを求めた。結果よりもどうしたか、何をするか、することを求めた。

 ――いや、俺は、俺は、たぶん母のよう・・になりたかっただけだ。母になる必要はない。俺は俺なのだ。アイツが言ったように半端者の俺なのだ。……だが、だが、だけど、伝える、紡ぐ。それを騎士が為す。それが騎士を成す。

 剣と盾を見る。

 ――……これは道具。どんなに大切に扱おうと、俺が彼らに人格を持たせようと、いずれ壊れ……いいや、俺たち人間だって壊れる死ぬ。……いや、死ぬのか? 肉体は滅びる。けれど……そういえば、蠍の炎は死んでも残り……そうか、あれも意思か。自己犠牲という意思か。

 そして、母への幻想と死が己を縛っていたことを思い出す。

 ――俺を守って死んだ母。あれは、自己犠牲に値するのか? 俺の命を守るために自分の……いや、いや、それは違う。たぶん、違う。


 ――「ごめんね。本当にごめんね。呪いをアナタに刻んでしまってごめんね」

 冷たい雨が降る中、血の匂いが鼻の奥へと這いよる。

 目の前には黒亜竜の死体。多くの無傷な兵士と、血だらけの母。それに抱かれるウィリアム。

 ――「けど、覚えておいて。私は死ぬつもりはない。自分をアナタに捧げたつもりはない。だって、母よ。アナタのお母さんよ。臆病で優しいアナタの母よ。自らを最も大事だと思っている母よ」

 何を言っているのだ。意味が分からない。もう、どうやっても死ぬ未来しかみえない。足がないじゃないか。胸に大きな穴が空いているじゃないか。

 なんで自分が大事なのに俺を庇って。

 俺が、俺が、俺が興味本位に……

 ――「大丈夫。言ったでしょ。母には母の水があるって。後はアナタが水を見つければいい。ごめんね。私の水は、アナタに這う炎だけは消せないの。自分の炎は、他の人への炎は消せるのに、アナタへ飛び移ってしまった炎は消せないの」

 そうやって、血に濡れた手で俺の頬を撫でて、笑って。

 ――「けれどね。臆病で優しいウィリアム。だから、アナタは命の尊さと儚さを知ってる。意志ありて生きる死ぬ意味を知ってる。だから、臆病な心のまま、向かい合う意志の兜を被ればいい勇気を持てばいい。地べたを這いずってもいい。逃げたっていい。それでも向かい合う勇気を持てば、アナタなんかよりもずっと強かった私の炎なんて消えてしまう。それは大海に放り込んだ種火のように」

 そして頭を撫でられて。

 ――「だって、水とは弱さの強さだから。弱さが創り出す強さなのよ」


 ――そして死んだのか。

 母の死の間際を思い出して。

 ――俺はどんな存在になりたい? 望む? 伝える事献身の廻りとは? ……水は弱さだ。俺は弱い。確かにそうだ。でも弱さが創り出す強さとは? 今の俺にそれを創り出せ……

 ゆっくりとウィリアムは顔を上げた。

 そして、こげ茶の瞳に映った黒髪の少女を見て。

 ――ふむ。それは今決める必要があるのか。一生をかけて藻掻き続けて貫けばいいのではないのか……

 そんな考えが過った瞬間。


「ハァァッ!」

「ッ」


 ウィリアムは、右手に縛り付けていた――と思わせていた円盾をオスカーに向かって投げた。

 包帯で結ばれた円盾が飛んでくるとは流石に思わなかったウィリアムは、一瞬驚いたものの、好機だと思った。

 だって、円盾を投げたせいでウィリアムの体勢は崩れたのだから。

 なので。


「――」


 静寂とも言える覇気と共に、練りこんだ闘気法と共に直剣を振り下ろした。

 瞬間、飛んで来た円盾を切り裂き、天と地を切り開く光の斬撃が放たれた。

 それは会場全体を染め上げる閃光で、つまりウィリアムはひとたまりもない。


 そして、数秒か、数十秒か、幾秒か経った後、全てが晴れた。

 光が、土埃が、全て晴れた。

 そこには――


「シッ」


 倒れたオスカーと残身をとったウィリアムがいた。

 “息吹の廻り”は折れ、柄しかないが、それでも残身をとっていた。

 そして。


「しょ、勝者ウィリアム――」


 勝利者宣言を聞いた瞬間、残身をとったウィリアムも倒れてしまった。

 けれど、決して“息吹の廻り”は離さなかった。


「――きゅ、救護を! 早く、早く!」


 かくして、エイミーは大儲けした。

 


 そしてウィリアムは、空っぽで世界に諦めを宿していたウィリアムは、一生を賭けて藻掻き続ける意志を持つ。意志を体現する行動を持つ。

 藻掻き足掻き、のたうち回りながら苦しみ生きて……そして、死ぬ。

 普通の生物としての、勇気を宿す。



 他人が意味作る人形ではなく、自分で作り上げる人となったのだ。

 それは、エイミーと出会って、自ら一歩を踏み出した瞬間からずっと。

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