十六話 不穏な兆し

「うぅ。重いです」

「え、そう?」

「……流石に非力すぎやない?」


 受講者全員が使った裁縫道具や布、糸などを入れた箱を持った三人は、中庭に沿った廊下を歩いていた。目指すは裁縫準備室である。

 講義中に課題に集中せずにコソコソと話していた罰である。

 ……講師は、王族相手でも正当性があればこういった罰を与えることができる。

 だからどうしたという話なのだが、まぁ自業自得である。


「ここ最近寝不足なんですぅ。だから力が……」

「……仕事の量減らしたほうがよさそうやな」

「あ、いえ、そっちじゃないので大丈夫です」

「せやけど。まぁどっちにしろ、人手は欲しい……」

「うん? 私の顔に……え、待って、嫌だよ。流石に、君たちの仕事ってとても大変なんでしょ!? それを――」


 いい人材がいた! と目を輝かせているモニカに、フィオナは両手で持っていた箱を片手に持ち替え、空いた手でワタワタと横に振る。

 モニカが亜麻色の狸尻尾をフィオナの背中にソワソワと近づかせる。


「ええやん。アタシたちまだ会ったばっかりやし、やから仕事を通して絆を深めようやっていう話や。何、労働に見合った対価はきちんと出すんや。いいアルバイトが見つかったと思えばええやん」

「うぐ。それを言われるとな。……でも、私、金勘定とか、商人の決まりとかわからないよ? 人を使うこともできないし」

「問題あらへん。そっちは既に人材がおるんや。アタシより優秀な部下人材が。むしろ、アタシのスケジュール管理とかやってくれると助かるや」

「あ、それ確かにいいです!」


 ――あれ、なんか体よく尻拭いをさせられる気がする……

 ふと、そんな風に思ったフィオナは、しかしながら自分の急な申し出に快く受け入れてくれ、たった半日でこんな会話ができていることが嬉しかった。

 だから、判断が鈍ったのだろう。

 ……本当に判断が鈍っていた……いや、最初からちょっとアレな感じだったし。


「……分かったよ。あ、けど、仕事内容とかキチンと明記してよ! あとでこれもあったとか、そんなこと言わされてるのやだし」

「当たり前や。放課後、キチンとした契約書を持ってくるから、その時に確認してくれや」

「分かった、放課後だね」


 そんな会話をしながら、中庭の丁度南側に来た時、それは聞こえた。


「アナタ! いい加減にルーク様から離れなさい!」

「うぇ?」


 その叫び声はエイミーにとって、いやモニカもフィオナも聞き覚えがあった。

 チベットスナギツネっぽい令嬢が発していたキンキンする声であった。

 それを聞いた瞬間、いや、見た瞬間エイミーはとても嫌そうな声を漏らした。


「ルーク様も! このような平民と――」

「――少し黙ってくれないか。オリアナ」


 そしてオリアナの目の前には、高貴な身なりの男性が四人に、その何というかアレな感じの少女が一人いた。

 少女は男子四人に守られている感じだ。

 ……あれ? 男子?


「うぇぇぇ」

「うへぇぇ」

「二人とも、やめなって! そんな露骨な表情を浮かべたら!」


 キンキンと叫ぶオリアナでもなく、身なりのいいイケメンでもなく、ゆるふわ脳みそに行く栄養がどこかへ全て集約されているのではないかと思う少女を見て、エイミーとモニカはこれ見よがしに顔をしかめる。

 フィオナは慌てて、二人の前に立ち、その表情を隠す。

 そして少しだけ勘違いする。


「もしかしてエイミーってまだオリアナ様の事……」

「それはねぇです。というか、既に向こうから内密の謝罪もあったですし、ちょっとしたお手伝いもしてもらいましたので、むしろ感謝しかないです」

「アタシもや。オリアナ様は典型的な貴族やけど、上も立つ者としてに責務はもっておるや。いい商売相手やし、エイミーの件は、あれもしゃあない」

「しょうがない?」


 フィオナは首を傾げる。

 平民相手だと思っていようがいなかかろうが、弄ぼうとしたのを仕方がないとないというのはどういうことなのだろうか。


「今はみんなあっちに注目してるし、大丈夫やろ。……オリアナ様な。ちょうど半年前まで……内密に付き合ってた人がおったんや。しかも平民」

「んなぁ!」

「しっ! やけど、見ての通り第三王子がアレやし、強い繋がりも欲しいって事で、オリアナ様に第三王子との婚約話が上がったんや」


 口をモゴモゴと押さえつけられているフィオナは、だがモニカの手を無理矢理ほどいて顔を近づける。


「……それとなんの関係があるの?」

「まぁ第三王子との婚約話も持ち上げれば、邪魔やろ?」

「……内密とはいえ、これほどにない恥と捉える人は多いだろうね」

「そういう事や。簡単に言えば、取られたんや。平民の女に。それで、そのあとあのぼんく――おほん、素晴らしい王子様と婚約したわけや」


 殺すよりも、なかったことにするよりも、奪われた方が恨みは強い。

 あとは、誰かが上手い感じにその絶望やら恨みやらを……


「……それをやったのって実家側? それとも……いや、いい。これ以上聞くと厄介なことに……ってか、何でモニカがそれを!」

「それは内緒や」


 ククッと笑ってモニカは、ゆっくりとエイミーの頭に手をのせた。


「そしてや。何とその女とエイミーの髪の色がそっくりやったん」

「……それでも仕方ないは……」


 フィオナはそれでも納得がいかない感じだった。

 しかし、モニカが、未だに顔をしかめて痴話げんかにすらなっていない言い合いを見ているエイミーを狸尻尾で指す。


「まぁ恋心を利用したクズがおるんや。そしてアタシらも、その恋心を商売にしてるんや。だから、エイミーもしょうがないで済ませるんや」

「ふぅん」


 確かにお相子というべきか、エイミーが納得しているならいいか、とフィオナは頷く。

 だが、また首を傾げる。


「じゃあ、どうしてそんな顔を? あれってただバ――ちょっとあれな感じの第三王子とその取り巻きがおいたしただけじゃん」

「それは、あんな頭悪そうな胸だけ女がいたからですぅ!」

「アタシも同感や。逆ハーや。あれ、どない見ても玉の輿の逆ハーで、しかも『貴公子のばら』みたいな悪女や! あれ嘘泣きや。エイミーがよくする嘘泣きより酷いや!」


 『貴公子のばら』とは、それは庶民に人気で、貴族からは不人気な小説である。

 庶民視線から見れば、平民の女の子が高嶺の花である高位貴族のイケメンと大恋愛する話。

 貴族視線から見れば、高位貴族のイケメンが平民の女に取られる話である。

 

 ……実に恋愛小説らしい頭の悪い先品であり、モニカは繋がり故に読まなくてはならなかったのだが、それはそれは本当に苦痛だったと明記しておく。


「ふ、二人とも声を抑えて」


 幸い未だに多くの人々の目は、オリアナとルーク一行の言い争いに注目している。

 だからこそ、エイミーとモニカの怨嗟の声は周りには届いてないが、フィオナは気が気でない。

 

「ってか、フィオナだってムカつかん? あのどう考えても胸だけの!」

「ちょっと、容姿の悪口はダメだって」


 嫋やかな金髪、庇護欲を誘うような涙を浮かべる紫眼に顔立ち。

 胸はメロンか、スイカか。どっちにしろ、でかく、着ている服はそれを強調させるようだ。

 そしてそれ以外にもプロ―ポーションはよく、やはり仕草は上級娼婦すらも顔負けのか弱い少女。

 ……エイミーとモニカからはそう見えている。決して、決して人の容姿と仕草に対して言っているのではない。二人の怨念が籠っているだけである。


「もう! 二人とも、さっさとこの場から離れるよ。二人がこのままここにいたら面倒になりそうだし!」

「……仕方ないです」

「やれやれや」

「ッ!」


 ハーフエルフであるから、バランス能力などに優れているフィオナは器用に箱を持ちながら、エイミーとモニカを引っ張る。

 そして二人は、フィオナったらしょうがないなって感じに首を横に振り、動き出した。

 それに一瞬キレそうになったフィオナだが、冷静に心をなだめて二人を引きずったのであった。


 ……この時のフィオナの行動は、正解であり、もしそのままエイミーとモニカが野次馬としていたら、とても面倒なことになっていたであろう。

 だが、ここの機会を逃したからこそ、フィオナは二人のフォローに必死になって回るのだが……

 まぁ未来なんて誰にも分かりはしないのでいいだろう。



「あ、分かったですぅ!」

「わっ、どうしたん急に」

「そうだよ」


 準備室に道具と届け、フィオナとの正式な契約書を取りに行こうと緑月寮に向かっていたら、エイミーが急に声を張り上げた。

 因みに、宙ぶらりんになったフィオナは、元々いた赤月寮から緑月寮へつい先日異動したのである。

 なので、これからは互いの部屋の行き来が楽になると話し合っていたところだった。


「あのクソ女が何でムカついたかです!」

「んぁ? せやから、どう見てもムカつくしか――」

「――や、それもあるけど、あれ祝福ギフトのせいですっ!」

「ぎ、祝福ギフト?」


 フィオナは突然何を言い出すのかと首を傾げる。

 が、モニカは合点が言ったように柏手を打った。


「なるほど。あのクソアマは眠りと芸術の女神フェールクラから強い祝福ギフトを授かっておったんや」

「そうですそうです」

「うん? どういうこと?」


 フィオナはさらに首を傾げる。


「あそういえば言ってなかったです。私とモニカは、遊戯と機織の女神シュトゥルードゥスから強めの祝福ギフトを授かってるんです」

「……え、そ、それ私に言っていいの!? ってか、モニカ!?」

「大丈夫や。フィオナなら大丈夫や」


 そもそも口に出してこの話題を始めたのを、モニカが止めなかった時点でモニカの了承は得たものとエイミーは受け取っていた。

 もちろん、モニカもそういう意図で会話をつづけたのである。


「え、エイミーもモニカも会って半日も立ってない人にそんな! というか商人なんでしょ! そんな簡単に情報を与えて!?」

「ええんよ。アタシな、人運だけはええんよ。商人としての才能も、人を使う才能もあんまりないんやけどな」

「……えぇ」


 フィオナは、たった一ヶ月であの規模の商会を作り上げた商会長が何を言っているのだと思いながら、ハーフエルフ特有の耳の良さを使って周囲を探る。

 幸い、寮手前だったこともあり、人はいなかったのでよかったとホッと胸を撫でおろした後、エイミーに訊ねる。


 ……だから、エイミーもモニカもフィオナを信頼したのだろうが……


「まぁ、うん。それはいいや。それで、眠りと芸術の女神フェールクラ様と遊戯と機織の女神シュトゥルードゥス様の祝福ギフトがどうしたの?」

「……フィオナは知らないかもしれないけど、神々には相性があるんです」

「……それは知ってるよ。私が誓ってる神様の信仰は下火だから、多少調べてて、だから眠りと芸術の女神フェールクラ様と祈りと豊穣の女神マーテルディア様は聞いたことあるよ」

「そうですそうです。そして眠りと芸術の女神フェールクラ遊戯と機織の女神シュトゥルードゥスとも相性が悪いんです」

「……どうして?」

「同族嫌悪です。両柱とも、欺きを裏で司っていて、そのため仲が悪いんです」


 エイミーは、呆れたようにフラフラと手を振りながら言った。

 そしてそれにモニカが納得したように頷いた。


「へぇー。そうなんや」

「え、何でモニカが頷いてるの!?」

「いや、アタシ、相性が悪いのはしっておったんやけど、理由までは」

「あ、そうなんですぅ?」

「せや。というか欺きを司ってるって初めて聞いたんやけど」

「私もだよ」


 丁度モニカの部屋の前にやってきた三人は、部屋の扉の鍵を開けたモニカの手招きにより、部屋の中へと入っていく。

 そしてそこには書類の山が連なっていた。

 ……我らは書類の山脈を歩く探検隊である。


「へぇー。あんまり知られてないんですねぇ。じゃあ、うちの地域だけに伝わってるんだと思うです」

「そうなん、やっ」


 無理矢理書類の山をどかし、ガラスの戸棚の中を漁っていたモニカが、何とか一枚の紙を引っ張り出した。

 フィオナは少しだけ頬を引きつらせながら、モニカに訊ねる。


「ねぇ、これって私が整理した方がいい?」

「んや、流石にそこまで求めんよ。仕事は商会内でのアタシのスケジュール管理やし」

「えっ! モニカだけずるいです!」

「ずるいって、エイミー。アンタ、あと一ヶ月ぐらいしたら商会の仕事手伝わんなるんやろ。出資者が手伝うと、商会長がいる意味ないって」

「まぁそうですけど……」


 それは確かに当たり前である。

 だから、エイミーは仕方なく項垂れる。


「まぁアタシの経営の相談なんかには乗ってくれんやし、出資者やからな。経営の方針にも口出しはできる」

「……あれ? そういえば、確かに何で私書類仕事なんてやってるんですぅ?」

「しらんや。アンタがやるって言ったんや」

「……過去の私ってば頭がおかしいですぅ。なら、確かにいいです。行動を管理されるのもなんかいやですし」

「っということで、フィオナ。こない感じなんやけど」


 エイミーと話をしながらも、懐から出した万年筆でつらつらと契約書に書き込んでいたモニカは、フィオナにそれを見せる。

 フィオナは、先ほどは一転して鋭い金の瞳をその書類に走らせる。


「……ここ。私が風邪や病気の場合とかの給金は?」

「ああ、それはやな――」


 そうして、即席で書いたものであるから、多少の不備があり、二人は話し合って契約内容を決めていく。

 実直な様子のフィオナも、ケラケラした様子のモニカもどこか行き、二人ともとても真剣な表情で、話し合っていた。

 ……話し合って雇用契約を決められる時点でもの凄い待遇なのだが、しかし宙ぶらりんとはいえ、貴族相手だからと考えれば当たり前である。

 そうして、二十分くらい何度も契約内容を確認し、話し終えた二人は契約を結んだ。

 フィオナは、モニカの秘書になったのである。


 ……頑張れ、フィオナ。



 Φ



「ただいま戻りました。オスカー様」

「お疲れ様。レヴィア」


 今の時期、生徒会はとても忙しい。

 三週間後に控える『ブトウ祭』に、来週にある中間考査。

 中間考査はやらない科目もあるためまだいいのだが、『ブトウ祭』の準備は本当に大変だ。

 武闘会には、騎士大学や魔術大学、子供に学園生をもつ人々も観戦に来るため、観客席の指定や整備などに忙しい。

 また、一か月前から通達して各親の出席などを確かめた後、学園都市と連携してその親の入出管理システムを作ったり――一からではない――と大変なのである。

 それに、既に武闘会の出場登録が始まっていることもあり、その書類をまとめたり、スケージュールを組んだり……

 しかも、武闘会の後にある舞踏会への向けての準備も忙しい。

 全校生徒が入れるホールは学園内にはあるのだが、テーブルをいくつ入れるか、料理人の手配や材料の手配。お酒の手配に飾りつけ、オーケストラや演奏者の手配など。

 今は、前から準備していたそれらの最終確認と実際の指示出しが始まっている。

 各所に手紙を出し、伝手を伝って頼み込みをし、万が一のための予備プランを控えさせる。

 そのため夜遅くなのに生徒会室は明るく、書類や雑貨などが積み重なっていた。

 そして中間考査も終われば、本格的な準備リハーサルが始まる。


「ウィリアム様とケヴィン様はどちらでしょうか?」

「ああ、二人とも公正取引委員会の方に手続きをしにいってるよ。今日含めてあと五日で選手が決定するけど、それでも殆どの人は初日に出すからね」

「なるほど」


 王都から特急で帰ってきたレヴィアは、早速残っていた仕事を片づけ始める。

 頭の中では大八魔導士としての仕事を、身体では生徒会の仕事を同時にこなすレヴィアだが、それは“記憶”による精神能力の強化によってようやくできることであり、常人には不可能だろう。

 オスカーから受け取った書類を速読し、必要な備品の申請や人手の申請などをして、また繋がりのある第二王子派の貴族グループに仕事を割りふったり……

 大抵、生徒会だけでは回らないため、繋がりのあるグループなどに仕事を割りふったりするのだ。

 それこそが、今後貴族社会で生きていくうえで重要な経験になる。

 だから、高位貴族はできれば生徒会の一員になっておきたかったのだが、しかしながらオスカーの代はマーガレットやウィリアムといった他国の要人がいたため、そっちに取られてしまったのが内実である。

 それに高位貴族になればなるほど、オスカーはあまり支持されていないためそれもあるだろう。

 まぁそれでもオスカーの人気と能力はとても高いのだが。


「マーガレット様は?」

「マーガレット嬢は……さぁ? レヴィアと同じで暇を貰うとは言われたけど仔細まではね」

「そうでしたか。……闘気法の規制結界について詰めなければならないのですが」

「ああ、それは書置きを貰ってるよ。はい、これ」

「ありがとうございます。オスカー様」


 書類の束を受け取ったレヴィアは、それを読みながら近くにおいてあった白紙に書き込んでいく。

 書き込みながらオスカーの進捗状況や、今この場にいない二人の進捗状況も机の状態を見て確認する。

 それを見ていたオスカーは、少しだけため息を吐いた。


「……レヴィアは凄いね」

「私は普通です」

「その年で大八魔導士になっているのにかい?」

「はい」


 きっぱりと、卑屈さも驕りもなくただ淡々と事実を言ったまでだと、頷くレヴィア。

 ――私は転生者ですし、前世でもそれなりに経験はしましたから。

 そして心の中でそうやって付け足す。

 大八魔導士になれたのは、プログラムを少しだけかじっていたため魔導言語模倣のことばの理屈がすんなりと理解できたり、最も魔力が成長する子供の時に魔力制御などを訓練していたため、魔力量が高かったり。

 また、魔術言語顕れのことば自体もちょっとかじっていたファンタジーで理解しやすかったし、魔術適性はあったし、“記憶”もあった。

 それに孤児のままでは、搾取される側にはいたくないという強い思いもあった。

 そろっている前提状況が良かったから、自分はこの地位にいるのだとレヴィアは思っている。


「そうなんだ」

「オスカー様。口を動かす前に手を動かしては? もうすぐ深夜になってしまいますので、その前に仕事は片しておかなければ」

「……まぁそうだね。といっても、レヴィアが来てくれたから直ぐに終わりそうだけど」

「生徒会長の印影が必要な書類があとこれだけあります。中間考査もありますので、なるべく仕事は早くすましてください」


 先ほどオスカーから受け取った闘気法の規制結界についての訂正し終えたレヴィアは、素早く円卓の隅においてあった書類をオスカーの前に置く。

 オスカーとしては、それは明日やりたかったのだけど……ていう感じなのだが、どうせウィリアムとケヴィンが帰ってくるまで生徒会室は閉められない。

 なら、さっさと仕事をこなして今後のために余裕を作っておいた方がいい。

 そんな意図から、端麗な微笑みを見せながら判子を渡してくるレヴィアに、オスカーは少しだけ揶揄うように抗議する。 


「レヴィアって僕を敬ってるようで、結構雑に扱うよね」

「対等がお望みではなかったのですか?」


 だが、それも美しく澄んでいる碧眼に封殺されてしまった。

 生徒会室の灯りに照らされる色素の薄い金髪は煌めいていて、背が高いからか影が深くなりちょっと恐ろしい。

 オスカーはここで文句をいうと面倒だなと思い、粛々と判子を使って必要な場所に印影を押していく。


 と、そうしたら生徒会室の扉が開き、紅髪の青年と茶髪の青年が入ってきた。

 

「あれ? 二人ともどうしたんだい?」


 そしてケヴィンは少しだけ不機嫌そうな表情を浮かべ、ウィリアムは板についている苦笑いみたいな笑みを浮かべていた。

 それを見た瞬間、レヴィアはさっさと帰りたいと思ったのだった。

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