十二話 契約交渉
「……何や、大事な商談やのにそんなしけた面して」
「あ、来たんです」
学園都市内にあるカフェで本を読んでいたエイミーは、遅れてやってきたモニカを見た。
そんなモニカの後ろには紫の長髪の美少女と緑の髪の美青年が立っていた。
それに気が付いたエイミーは読んでいた本をバックに仕舞い、立ち上がった。
そしてまず紫の嫋やかな美少女に身体を向けた。
「お初にお目にかかります、ティファニー・フォリウム・ゲオーリュギアー様。エイミー・オブスキュアリティー・モスと申します。この度は足を運んでくださったこと大変感謝いたします」
そして右手で顔に縦の線を入れ、そのあと両手で小さな輪っかを作った後、丁寧に頭を下げた。
綺麗で美しく洗練された挨拶だった。
……貴様! 本当にエイミー・オブスキュアリティー・モスか!? という叫び声が聞こえそうなほど、物腰が低く、ついでに頭も低かった。
そしてそんなエイミーのお辞儀を見たティファニー、つまり東諸国連邦の食糧庫とも言われる農業国、ゲオーリュギアー王国の第二王女は
また、隣にいた褐色肌で少し耳が尖っている翡翠の青年も驚いている。
エイミーはそれを知ってか知らずか、ティファニーに下げていた頭を上げ、ハーフドワーフの青年を見た。
「……――火に駆けられしは土の中。生まれ何処は静寂漂う霧の中。此度の出会い、大地の祖にして守り人たる
エイミーは一瞬だけ逡巡した後、左胸を右手で三度叩き、そのあと拳を額に当て、次に一歩左足を下げ、左手を右胸に当てて頭を下げた。
ノーマンはそれにさらに驚いて、翡翠の瞳を見開いただけでなく、
が、それも一瞬。
直ぐに冷静さを取り戻し、エイミーと同じように左胸を…………をして、頭を下げた。
「……お初にお目にかかります、エイミー様。僕の名はノーマン・ウィークス。飛び入りにて参加したいのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、かまいません」
そう、ティファニーは今日の商談相手故に、事前に情報を集めていた。
だからこそ、名前はもちろんのこと、一国の王女であるから祭神も公開されており、ティファニーの
それにティファニーもノーマンも驚いたのだ。
傍観神であり、
普通、相手の祭神は調べられても、挨拶方法を調べるのは意外と骨が折れる。というか難しい。それがマイナーな神なら猶更。
つまり、エイミーは神々に
ならば、そういう者は自分の祭神の挨拶をするのが通例であるし、そもそも神々が良い顔をしないという考えもあるのだ。……間違っているが。
なのに、エイミーは
だからこそ、二人は驚き、しかしそれ以上にもっと二人は驚いていた。
ノーマンはどうにか、この中で一番年上であるが故に、直ぐに冷静を装ってどうにかエイミーに返事をした。
が、しかしまだ十八才であり研究尽くしのティファニーはポカンと呆気に取られていた。
「……失礼ながら、エイミー様。どのようにして僕の故郷と祭神を?」
飛び入り参加であるから、名前は分からなかった。
だが、種族と出身地と祭神は分かったがゆえに、エイミーは即席で神々や
それはノーマンの生まれ故郷で、しかも
また、魔術大学の魔導植物学を専攻し、同じ研究室に所属しているティファニーは、ノーマンがいつも行っていた挨拶がとても限定的であることを知っていた。
だからティファニーも同様に驚愕した。
「その左手の指輪は、静寂の森林付近で暮らす村が成人した者に授ける指輪です。また、靴やズボンに
――ついでに名前を聞いて思い出しましたが、貴方は豪家の者です。……そしてちょっと作為はしたけど、運がいいです!
と、顔の情報は知らなかったが故に、一目見たときは分からなかったが、それでも名前と個人情報は知っていたので、心中で付け足す。
……顔は知らなかった。覚えられなかったというのが正しいか。
「……なるほど」
頷くノーマンは、しかしながら思いっきり目の前の小さな少女に突っ込みを入れそうだった。
そもそも、左の人差し指におさまる花の紋様の指輪を、故郷で授かる物だと知っている人はほぼいない。
故郷に縁がある者くらいだ。その故郷の者はカタフィギア聖国どころか故郷を出ることもほぼない。ノーマンが特殊なのである。
なのでエイミーが故郷の者に出会った可能性は低く、そもここに来る途中、モニカから事前にエイミーがモス伯爵領の出と聞いていている。
故に何故それを知ってる! と突っ込みたくなったのだ。
それにだ。
確かに己の靴には
だが、両方とも一目では見分けがつかないところにある。
確かにエイミーが見ようと思えば、そこにシンボルがあると分かっていれば、気が付くかもしれない。
だが、飛び入り参加してきた初対面相手に対して、それを行うのはほぼ不可能である。
まぁだが、実際にそれを為した事には変わりなく、ノーマンはもちろん、ようやく冷静さを取り戻したティファニーもエイミーの評価を上方修正する。
「……エイミー様は博識ですね。どこでそのような知識を?」
「そうですね。それを話したいのは山々ですが、先に席についてしまいましょう」
「それもそうね」
そして落ち着きを取り戻したティファニーたちを席に座らせた。
いつまでもカフェで立っているわけにはいかないからだ。
そして店員さんに飲み物を注文した後、雑談もほどほどに商談が始まった。
「それで、アフェーラル商会は
「こちらです」
今回、エイミーは新しい事業の出資者である。
そもそもエイミーもモニカもこの事業をやるために商会を立ち上げたのだ。いや、この事業は先駆けでしかないのだが……
そしてモニカは商会長であり、エイミーは特別顧問、且つ出資者、分かりやすく言えば株主と言ったところだろうか。
この世界には株はないが、そんな感じだ。
そしてアフェーラル商会の今の事業、つまり香水や造花、あとは恋愛に限らないあらゆる相談いった事業は、名を売るためであり、未来ある人材と接点を持つために行っている。
特に恋愛相談、これは元々エイミーが学園都市にやってきた時に詐欺師から奪い取った市場なのだが、これが中々にいい。
相談料はそこまで取らない。というか、ほぼ無料である。小銅貨一枚だ。
また、相談相手として、騎士大学や魔術大学で勉学に励む神官見習いや占魔術師を雇っており、信用性も高くなる。
同じところで学んでいる仲間なのだ。ならば下手は打たない。詐欺はしない。
それゆえ、多くの学生が相談に訪れる。
みんな恋愛するし。それに恋愛以外にも学業や人間関係、将来、心など様々な相談を請け負っている。
そのついでに、匂い付きの造花やアクセサリー、香水にちょっとした化粧品を売る。恋愛指南書みたいな奴も多少なりとも売り、流行りを作り出す。
そうして訪れた客の中から、今後エイミーとモニカが本当に始めたい事業に必要な人材を見つけ、契約を持ちかける。
そして、今回契約を持ちかけられたのがティファニーであり、その研究仲間であるノーマンが、騙されていないかの確認のためについてきたのだ。
つまり、今回の契約は新しい事業を始めるうえでも大事な足がかりになる。
「……事前に聞いてはいましたけれど、やはり話になりませんね」
「何がでしょうか? とてもいい条件を用意していますが」
「……それが問題です」
これまでも、そしてこれからもそうではないが、しかし今回だけは、エイミーが交渉を行う。
エイミーがモニカにそれを頼み込んだからである。自分にやらせてくれと。
モニカはモニカで、いつも商談を自分に任せ裏方だったエイミーが何故?と思ったので、興味本位でエイミーに任せている。
今回の契約というか事業はエイミーが殆ど出資していて、失敗しようがモニカの懐は痛まないのだ。
それに、今回の商談が失敗しようと、まだ挽回ができるからというのもある。
それもあり、モニカは中継ぎ役として静観している。ノーマンも問題があるまで静観するつもりらしい。
「そちらの要求が、三年以内に、実現はほぼ不可能と言われている寒さに強い小麦と米の品種を作り出すこと。また可能ならば、聖気を宿した土壌の開発」
エイミーが渡した資料をパラリパラリとめくりながら、ティファニーは優雅にエイミーを見る。
エイミーは静かに黒の瞳をティファニーに向ける。いつものダボったいローブは着ておらず、白のシャツに黒のズボンだけである。
とてもパリッとして見える。
……餃子ではない。
「そしてそのために、広大な実験用農地の提供に、最高で霊金貨十枚の研究資金提供。また、そのほかにも我が国の小麦と米を定価の二倍で常に一定量買い取る契約に、販路の拡充と長期安定のための人材提供。これはこちらが寒さに強い小麦や米を作れなくても、確定……ね」
資料を全て確認し終えたためか、ティファニーは隣に座っていたノーマンに資料を渡す。
まぁ事前に資料は渡されていたので、エイミーはノーマンに情報の周知をさせるために、再度資料を渡したのである。ティファニーもその意図をきちんと汲んでいた。
そしてそれを理解しているノーマンは鋭い目つきで資料を読み進めていく。
「そして何より、もしそれらが作れた場合、品種の販売権利は我が国に譲渡し、その品種の小麦や米をどう売ろうが作ろうが口を出さない」
「はい。研究資金が足りないというならば、あと十枚出せます。また、そちらが寒さに強い小麦と米を主農産物として農産していただけるのであれば、霊金貨二百枚を追加でお支払いし、農業魔術具や牛などの提供や販路整備も可能です」
霊金貨など、普通の個人が出せる出資額ではない。
それこそ、貴族たちが領地経営をする際に使う金だ。というか、本当に大規模な政策や公共事業でなければ、領地経営で出る金額ではない。
まして、霊金貨二百枚など、弱小国の国家予算すら届きそうだ。
それを出す。
小麦だって米だって、ユーデスク王国やカタフィギア聖国、自由冒険組合連合が主導で行った農地改革と農産出安定化により、貧しい国や地域はあれど、分かりやすい飢餓は殆どない。
……いや、一つだけあるが、それはおいておこう。
つまり、寒さに強い小麦や米を栽培したところで大して売れないのだ。売れたとしても、投資額に見合わない。
確かに、数十年から数百年に一度訪れるかもしれない大規模期間の冷夏はある。その時に南大陸の多くの国々の主食であるそれらが不足する可能性もあるだろう。
だが、それだって訪れるかもしれないいつかで、たかだが商会がそのためだけに圧倒的に損する事業を持ちかける?
それって商会ではなく、国がやるべきことでは?
というか、三年以内に寒さに強い小麦や米が作れる?
あり得ない。
裏がありすぎるし、それが説明されない今、契約をしたくはない。
……まぁ寒さに強い小麦や米を作り出す研究自体には、ものすごく興味が惹かれるし、そのための研究環境をすべて向こうが提供してくれるのもおいしいのだが。
しかし、事はティファニーだけでなく、故郷であるゲオーリュギアー王国にも及ぶ。そもそもだからこそ、第二王女である自分に声を掛けてきたのだろうし。
「やはり話になりませんね。こちらに得が多すぎます」
「なら、よろしいのでは?」
「……はぁ。そもそもポッとでの商会に、どこの誰とも分からないただの養子。それがこんな虫の良すぎる契約を持ちかける? 詐欺としか考えられません」
詐欺師の可能性がある相手に詐欺と伝える時点で、ティファニーはエイミーたちをある程度信用している。
そも最初のエイミーの挨拶が好感度を上げた。
己の祭神を敬ってくれるというのは存外気分がよく、またそのために己を調べているという時点で真剣度がうかがえる。
「……確かにそうです。ですが、用意しろと言われたら一週間以内に霊金貨二百二十枚をお持ちしましょう。……とは言っても、自由冒険組合の自由魔導保証書になりますが。判断はその時でもかまいません」
自由魔導保証書というのは、南大陸のいたるところにある自由冒険者組合が発行している保証書であり、超強力で信用の高い保証書になる。
何故なら、
それを差し出せるというのであるなら、その言葉は信用に値できる。
「ッ……それでも、そちらが何故こんな取引を持ちかけるかを説明していただかないと、契約を締結することは無理です」
「……申し訳ございません。こちらの仔細は、今後の商売に大きく関わる故……」
だが、しかし、詳しい事情も話さず、依頼内容と報酬だけいうから仕事を受けてくれと言われても困るだけだ。
「……エイミー様。失礼ながら、祭神をお教えいただけないでしょうか?」
と、今まで資料を黙読していたノーマンが鋭い目でエイミーに訊ねた。
エイミーは頷いた。
「
「……モニカさん。それは確かですか?」
「もちろんや」
「……なるほど」
既にモニカと話し合って、祭神を伝えることは決定していた。
それを知らないノーマンは、しかしながらそんな事より、述べられた祭神に内心で驚く。
ノーマンの出身地近くの静寂の森林は、神々との関りも深く、カタフィギア聖国の民草でもあるため、神々に関する知識は他の一般人より深い。
そしてだからこそ、エイミーとモニカがティファニーを騙そうとはしていないのではと思った。
何故ならティファニーが祭神を聞いて首を傾げ、懐疑の目を向けていたからだ。
信用を得たい詐欺師だったら、祭神は多くの者が知っている善神を上げる。
そも祭神は分かりやすい信用でもあるからだ。
まぁそれだけで相手を信用することはないが、それでも名も知らない傍観神を上げたら、ますます不審に思われる。
だが、エイミーは多くの人が忘れ去ってしまった祭神を上げた。
だからこそ、その言葉に嘘はなく……
――……いや、エイミー様は神々に対して造詣も深い。それに僕の出身地を知っているから、僕から攻略するために……
しかし、ティファニーの事なので、疑り深くなっているノーマンは、自分がそう考えてエイミーを信用するのも織り込み済みでは、と考える。
が、直ぐに否定する。
――なれば、マイナーな善神を上げるはず。少なくとも適当な誓いは一切受け取らない二柱を上げることはないはず……ええい、面倒だ。
だが、美味い話の前に何度疑ったところで、信用元はでず、堂々巡り。
“祭神看破”の恩寵法でも使えれば楽なのだが、しかし
だから、ノーマンは訊ねた。
「……エイミー様。死とはなんでしょう」
何ともまぁ不思議で唐突な問いである。
だが、エイミーは問題なく返す。
「死とは生があること。そして再び生へと還ること」
「流転とはなんでしょう」
「光は必ず闇を、希望は必ず絶望を、そして終があるからこそ永遠を望む。故に、全ては流転し続け、永遠はない。そして永遠がないことも、不変であることも流転し続ける。流転することもなお」
「なれば導きは」
「流転は彷徨う。全ては彷徨う。故に、流転によらない導きを」
禅問答のようにわけが分からないやり取り。エイミーが言ったことには矛盾も多く、モニカもティファニーも首を傾げている。
だが、ノーマンは違ったらしい。
「……エイミー様。モニカ様。不躾で、と言いますか、何度も飛び入りで申し訳ないのですが、ティファニー様はこの契約を受けないようなので、代わりに僕に鞍替えしませんか?」
「なっ!」
驚いたのはティファニーだけ。
エイミーはもちろん、砂糖を転がしながらコーヒーを飲んでいるモニカも眉一つ動かさない。
そしてノーマンは動揺しているティファニーを置いてきぼりに話を進める。
「実は、僕は静寂の森林に接する村々を取り仕切る村長の息子でして」
カタフィギア聖国には貴族はいない。
町は聖都だけであり、そのほかは他国では町と呼ばれる規模でも村という。正しくは聖村なのだが、カタフィギア聖国内の人々は普通に村とよんでいる。
まぁそれはどうでもよく、つまりノーマンは貴族ではないが、貴族くらいの地位ある者の子息なのである。
「それに、静寂の森林は北にありますので、過去の冷夏や冷春を想定した実験も可能です」
この世界は、世界の中央、つまり赤道付近になればなるほど寒くなる。
四百年ちょっと前までは赤道付近が一番暑かったのだが、神魔荒廃大戦にて、滅邪竜を殺すために、
それにより北大陸と南大陸ができ、また、その境に“断罪の峡谷”が生まれた。
そして滅邪竜の残滓や
「またご存じの通り、あそこは静寂の森林から聖気が流れ込むため、瘴気などに強い作物が育ちます。まぁ穀物以外は育ちにくい土地なので、空いているんですよ」
静寂の森林から流れる聖気は、とても低い草や苔など、あとは神々が定めた穀物などは問題ないのだが、それ以外の草木の成長を妨害する。
では、何故静寂の森林が森林たり得るか、疑問が残ろうが、ここでは割愛する。
それよりも聖気が含まれる土地で育った植物には強い瘴気、つまり悪神の神気を妨げる性質がある。
……すっかり忘れていると思うが、エイミーは聖気が含まれた土壌もご所望なのである。
「……確かに。ですが、秋や冬には実験ができません」
「……そちらは問題ないかと。僕がいる地域にはハーフドワーフやハーフエルフが多くいます。また、カタフィギア聖国でもあるので、高位の神官様もいらっしゃいます。しかるべき支援さえあれば、一実験地域程度の気温変更は可能です」
ハーフドワーフは火と土、鉱物の妖精である
そのため、火や土、金に関連する妖精と親和性が高く、彼らに魔法を使ってもらうお願いをすることができる。
それに魔術においても、それらに関連する魔術に高い適性をもつ。
また、ハーフエルフは風と水、植物の妖精である
ハーフドワーフと同様妖精に願いができ、風による気温変化も可能だ。
それにとある神々に仕える神官は、季節の変更すらできる恩寵法を授かっている。
だから、その力を使うための支援、つまり、聖石や魔晶石、あとはそれらの人々を動かすお金があれば可能なのだ。
それに、とノーマンは続ける。
「冬の間は、雪に育つ穀物を育てる研究に取り組ませていただければと」
「……何故でしょうか?」
「……ああ、そうそう。丁度僕の叔父がトレランティア王国付近の統治を任されているんです」
……突然何事だろうか?
前触れもなく、いや、少しだけ周囲に目を向けた後、ノーマンはおかしなことを言った。
あまりの唐突さに、動揺していたティファニーは我を取り戻したくらいである。
だが。
「そういえば、
「そうですか。……それで僕に鞍替えしませんか?」
「……流石にそのままそっくりとはいきませんが、ですがいいでしょう」
「んなぁ!」
エイミーまでもがおかしなことを唐突に言い、そして鞍替えが決定した。
我を取り戻したティファニーは再び動揺して混乱し、モニカは未だにコーヒーを楽しんで静観している。
「……そうですか、仔細はいつ頃になりそうですか?」
「そうですね。一週間もあれば。あ、そうそう。私はあくまで出資者ですので」
「そうですか。では、連絡などはモニカさんを通しましょう」
全てを丸投げされたモニカは、店員さんをよんで会計の手続きへと移行した。
「それでお願いいたします。ああ、それと。こんな契約を引き受けてくださる縁です。商会長が
「……それはそれは。大変感謝いたします」
そして未だに混乱しているティファニーを引っ張ってノーマンは帰っていった。
エイミーとモニカはそれを見送って、ハイタッチしたのだった。
Φ
その日の夜。
大々的には派閥に属すことのない聖女、マーガレットは、緑月寮の一室で密偵から受け取った情報を読んでいた。
「……こちらも織り込み済みですか」
マーガレットは、顔つなぎのためにある王国高等学園に
魔術大学や騎士大学ならともかく、聖女であるマーガレットは既に他国の重鎮とも顔つなぎなどができているし、どんな社交場にも行けるため、顔つなぎは必要ないのだ。
だが、それでも王国高等学園に来たのには理由がある。
「モス伯爵の養子だからこそ探っていましたが……どうして中々」
それはモス伯爵への伝手を、親密な情報が欲しかったからである。
四年前、モス伯爵領が管理している死竜の荒野にて、
しかし、数時間もしないうちにその気配が消失したのだ。
なので聖国はすぐさま、アンデッドを祓うことによって得られる聖石のルートを使って、モス伯爵に調査協力を依頼した。
だが、簡単な調査協力には応じてくれたものの、それ以上は無理だった。
聖石の輸入国でもあるため、強引に調査を進めることはできず、またモス伯爵が何かを隠しているのではと思ったため、マーガレットが王国高等学園に来て、モス伯爵と縁が深い貴族たちと顔つなぎすることになった。
というのは表向きで、マーガレットが留学することによって怪しまれずに密偵を学園都市やユーデスク王国に入れられる。
そこで、密偵が情報を集めるのである。
それを管理するのは聖女であるマーガレットなのだ。
「ユーデスク王国の上層部が
つまり、密偵、
そしてそれは聖国内だけでなく、南大陸全体で見てもとても優秀な諜報部隊であり、彼らに気が付く者は少ない。
それこそ大国であるユーデスク王国の上層部が飼っている影くらいだ。
だが、エイミーはそれに気が付いていた。
それこそ、今日、カタフィギア聖国の北の豪族であるノーマン・ウィークスとの会話で分かる通りだ。
というか、二人とも密偵相手に情報を伝えろと言っていたようなのである。
……自国の豪家の息子がこちらに気が付いていることには疑問は持たない。というか、知っていて当たり前だろうと思っている。
「……
そして全てはエイミーの
最低目標はすべてクリアし、想定内の想定外により、いくつか予想以上の成果も上げている。
なので、学園に入ったことも、自分があっさりトラウマを乗り越えたことも、モニカに出会ったことも、ノーマンがいたことも想定外だったが、
いくつかの例外を除いて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます