第8話 三人

 「あ、あのっ、助けてくれてありがとうございます」


 金髪の美少女は深々とお辞儀をする。

 見た感じ性格は気弱で人見知りといったところだろう。


 「いいよこれくらい。それよりも大変だったな」

 「はい。だからその、もう少しだけここにいてもいいですか?」


 校内にはまだたくさんの野獣がウロウロしているに違いない。


 「それはいいけど、ずっと立っとくのもあれだから、そこの座布団に座って休憩しなよ」

 「じゃあ、お言葉に甘えて」


 彼女はゆっくりと腰を下ろし座布団に正座する。


 「あ、そういえばお互い名前知らないよな」

 「そ、そういえばそうですね」


 俺もテーブルを挟んで座布団に座る。


 「俺は夜川煉牙。2年2組だから関わることはあんまりないと思うけど一応よろしく」

 「あ、私は如月小鳥(きさらぎことり)です。1年1組なのはさっき……」

 「あいつに聞いたよ。それより本当に美人だな」


 俺は如月さんをまじまじと見つめる。

 サラサラの金髪に膨らみのある胸、背は小さいがモジモジした姿が男心をくすぐる。

 美人というよりはかわいい系だな。


 「あ、あの」

 「あ、ごめん!」

 「いえ、あの、そ、そういえばここってオカルト部なんですよね?」

 「そうだけど」

 「私、入部してもいいですか?!」

 「え?!オカルト部に?!」


 如月さんはいきなり真剣な眼差しで見つめてくる。

 どうやら本気でオカルトに興味があるらしい。

 『みんな大好き!オカルト大百科』という分厚い本をスクールバッグから取り出し、さらに熱く語りだす。


 「私、この本に書いてるオカルトを全部試そうと思っているんです。でも、一人じゃ試せないものもあって。だからお願いです!私を入部させてください!」


 お辞儀をする如月さんを見ながら俺は頭を悩ませる。


 「き、如月さん、実は……」


 悲しませたくはなかったが、俺はこの部の真実を話し始めた。

 部員は実質俺一人で、オカルトに関することなんかやったことがないということを。


 「……ということで、ここはオカルト部であってオカルト部じゃないんだ」

 「そう、だったんですね」


 如月さんは残念そうにうつむく。

 しかし、泣いてはいないかと心配したその時、如月さんは俺の両手を握ってきた。


 「でも入部だけさせてください!」

 「え?どうして……」

 「他の部活には入りたくないんです!」

 「如月さん……」


 さっき追いかけられたのがトラウマなのだろう。

 少し迷ったが、俺は如月さんの入部を認めることにした。


 「いいよ、入部して」

 「本当ですか?!」

 「ああ。というか俺が如月さんの入部の決定権を持ってる訳じゃないしな」

 「そ、そういえばそうですね」


 如月さんは恥ずかしそうに下を向く。


 「それに、一人じゃできないオカルトもあるって言ってたし、少しなら手伝ってあげられるかも」

 「ほ、本当にありがとうございます!じゃあ早速お願いするんですけど……」


 如月さんはさっきバッグから取り出したオカルトの本を開き、No.051と書かれたページを俺に見せる。


 「この催眠術に協力してくれませんか?」

 「えっと何々?『絶対にブラコンになる催眠術』?!」

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