第5話 秘密

 春の言う通りベランダには金髪の女子がいる。顔は半分しか見えないが確かに妹の揚羽だ。


 「あの子って確か煉牙の妹なんじゃ、モゴモゴ!」


 俺は隣で喋り始めた男の口を押さえつける。


 「えっ、明正?」

 「ぷはっ!いきなり何すんだよ煉牙」

 「すまんつい、じゃなくてちょっとこっちに来い!」


 まだドアに顔を近づけている春に気づかれないように、俺は明正を連れて階段まで移動する。


 「明正、お前がここにいるってことは、例の噂を知っているってことだよな?」

 「例の噂?ああ、1年に凄い美人がいるって噂だろ?」

 「ああ、それって揚羽のことなのか?」

 「クラスのみんなも金髪でクールな雰囲気だったって言ってたし、煉牙の妹で間違いないと思うぜ」


 明正は俺と同じ中学だったから、俺に妹がいることを知っている。喋ったことはないが、顔は見たことがあるはずだ。


 「マジか……」

 「なに落ちこんでんだ?」

 「おい明正、俺と揚羽が兄妹だってことは誰にも言うなよ?」

 「ど、どうしてダメなんだ?」

 「考えてもみろ。認めたくはないが、あいつは確かに美形だ。でも俺はどうだ?なんの取り柄もない普通の男子高校生なんだぞ?」

 「言いたいことは分かった。つまり妹と自分を比較されて周りの人間から何か思われるのが嫌なんだろ?」

 「明正……!」


 俺のことは全てお見通しってわけか。

 明正が差し出してきた手をがっちりと握り、俺たちは固い握手をする。


 「れーんーがー!」


 しかし俺たちの固い握手は一瞬の出来事だった。

 春が俺の背中を両足で蹴飛ばしたのだ。


 「なーに勝手に帰ってんのよ!」

 「ぐはっ!」


 何か一言言うべきだったと後悔しながら、俺は教室へと戻るのだった。

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