第090話 装備を守る力!
「……んん?」
「何も変わって、なくないか?」
“それ”がわからないギャラリーは、口々に疑問の声を上げた。
「……あれは!」
「わたくしにはわかります。主様が、そのお力の一端を開放なされたのだと」
頼れる仲間は、“それ”を見逃さなかった。
そして。
「ラウナベル、何が起こったっていうの?」
「……テトラ。あいつの装備たちをよく目を凝らしてみなさい。魔力を、読み解くのよ」
「え? ……あ!?」
恐るべき
「あいつ、装備魔法って言ったわよね」
「《イクイップ》《エンチャント》……ヒトに、神が与えた魔法のこと、だよね?」
考察し始めた二人に向かって、俺は自らこの力について説明する。
否、正確には……何が起こったのか、その結果だけを、伝える。
「悪いがもう……俺の装備はあんたらにゃ、どうにもできないぜ!」
「「!?」」
俺の体から、俺の装備しているアイテムたちから、碧緑の輝きが放たれている。
これは、魔力を見る目で見なければ、存在の知覚すらできないうっすらとした光。
そんなか弱い輝きが、しかし、この場の何よりも、強い。
「装備魔法……《メンテナンス・ヴェール》」
財宝神ゴルドバから奪った
「さぁ、
俺は真正面から身構えて、勇者テトラに手招きをした。
※ ※ ※
「キミが何をしたのかはわからない、けど……!」
俺の挑発に、勇者は見事に乗った。いや、応えてくれた。
「キミの行く先が変わらない限り! ボクはキミを止めてみせる!」
「あっ! 待ちなさい、テトラ!!」
一切回避する素振りを見せない俺に向かって、真正面から突撃し。
「キミの装備を破壊する!! ――《ブレイク》!!」
こちらの望み通り、
「白布!!」
「あるじさまーーー!!」
斬撃は確かに俺の肩から胸、そして脇腹を通過し、刃が抜けていく。
だがその刃に一切のダメージを発生させる力はないのか、本当にただ、通過した。
そして。
「……そんなっ!?」
「残念だったな?」
俺の装備は、何一つとして破壊されることはなかった。
(これが、
俺の装備を包む碧緑の輝きの膜は、装備に対するあらゆる理不尽な破壊を許さない。
モノワルドにおいて神が定めた正しい損耗、正しい破壊に従ってしか、これらは壊せなくなる。
(そしてこれは俺だからわかる……今の俺の装備は《ストリップ》でさえ、奪えない)
理不尽な略奪も、許さない。
「装備を絶対に守る魔法……それがこの《メンテナンス・ヴェール》の力だぁ!!」
「くっ、ぅわぁぁ!!」
《ブレイク》の掛かった勇者テトラの剣を、『増魔の剣』で跳ね返す!
「テトラー!」
「勇者様が、押し返された!?」
「いったい何が起こってるんだ!?」
状況が変わる。潮目が変わる。
防戦一方だった俺が反撃に転じたことで、この場の誰もがそれを実感する。
「メリー様! 主様が!」
「はいはい。変なテンションだったのも落ち着いて、いつもの顔になってるじゃない」
「はい。いつも通りの、お力強い、わたくしの主様です……!」
相手の切り札は使わせた。
屈辱の犠牲はあったが……それを俺は、乗り越えた!
「さぁ、ここからが本番だぜ、勇者様!!」
「っ!!」
お仕置きまでのカウントダウン、スタートだ!
※ ※ ※
「うおおおおおっ、行くぞーー!!」
「負けるもんかぁ!!」
真っ向勝負で打ち合う。
剣戟を一合、二合と合わせていけば、相手の力量が見えてくる。
(……なるほど。基本的なスペックは、通常のナナよりちょっと強いくらいなのか)
刃を交えてわかるのは、相手の剣の取り扱い方。
おそらく装備適性はCくらい。Bにも届きそうだがまだ至ってない感じに思う。
「真正面から打ち合ったらダメ! 速度重視のヒット&アウェイよ!」
「わかった! 力を貸して、『風精霊のブーツ』!!」
セコンドの妖精さんの助言を受けて、勇者テトラが例のうねうね歩法で距離を取る。
「装備が破壊できないなら、動けなくなるまで叩くだけだよ!」
「……!!」
《メンテナンス・ヴェール》は装備を守る魔法だ。
つまり、別に俺の防御力が上がったりするわけじゃないし、ダメージは普通に通る。
だから装備者である俺をぶちのめして意識飛ばすのが、大正解!
「さっすが、勇者様賢い!」
「バカにしてぇ!!」
《ブレイク》が通じなかった動揺が後を引いているのか、勇者テトラの攻め方に乱れがある。
それでも鍛え抜かれた技術は冴えを失わず、俺の魔法の狙いから外れ続けているのはさすがの一言だ。
だが、それも今となっては、状況が違う!
「悪いが、変な縛りも出し惜しみも、なしだぜ! 《イクイップ》!」
そもそも受け身になってたのが、間違いだったんだからな!
俺は左手に《光のドラゴンオーブ》を再び掴む。
ここはド派手な方がいい!
「いけない、テトラ! 防御魔法!! ……この場の全員に!!」
「!?」
「そらぁっ! 守ってくれよ、勇者様! 《シャイニングレイン》!!」
天に掲げたオーブから放たれる光の玉が、空中で無数に分裂する。
「うわあぁぁぁぁ!! 勇者魔法! 《エクストラプロテクション》!!」
「どっせぇぇぇぇぇい!!」
勇者の張った『ぎんの手』によく似た広域の障壁に向かい、言葉通りの光の雨が、いつか見た矢の雨と同じ軌道を描いて降り注ぐ!!
「ひぃぃぃぃ!!」
「うわー! だめだー!」
「あの男、頭おかしいんじゃないのぉ!?」
「あるじさまー!」
「ばかばかばかばか、あんぽんたーん!!」
ギャラリーも大はしゃぎで結構!
しっかり意識も上に向いているようで何より!
「さぁ、仕上げだ!」
光の矢の雨が降る中、敵すらまとめて守るでたらめな障壁の下で、俺は動く。
「く、ぅぅ!!」
ターゲットは魔法の維持で手一杯! しっかりと足止めされている!
「!?!? テトラぁぁ!!」
妖精さんが気づいたみたいだが、もう遅い!!
狙いはバッチリ、定まった!!
「お仕置きの時間だ……! 《ストリーーーーーーーーップ》!!」
「!?!?」
魔法発動!
俺の切り札が、勇者の装備を剥ぎ取った。
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