第089話 発現!新魔法!!
アイテムは損傷し、破壊されることがある。
だがSR以上のレアアイテムであれば、損傷を回復し元の形に戻ったりする物も出てきて、破壊消失といった事象からはほぼほぼ無縁になるという。
俺の装備していたURアイテムの『ぎんの手』も、手入れいらずで多少の傷なら翌日には綺麗サッパリなくなってるような、そんな優秀なアイテムだった。
だがそれは、今。
「えっ?」
俺の目の前で砕け散る『ぎんの手』。
光の粒子になって世界に溶けていくそれが、今生の別れだというのはすぐにわかった。
(《イクイップ》することで感じられていた装備の強化効果が……消えた?)
ついさっき、愛用していた補助杖が破壊されたときに感じたものと同じ感覚。
体から力が抜け、続く相手の攻撃をどう捌けばいいのか、鮮明に浮かんでいたイメージが消し飛んだ。
ただただ俺の瞳は剥き出しになった腕を見つめ、その向こうの勇者の顔を見る。
ハイだったはずのテンションが、一気に冷えて、落ちた。
「………」
勇者テトラの申し訳なさそうな、けれどそれ以上に、こちらへと強く向けられる敵意の目。
ああそうだ。今はこの子と戦闘中で――。
「主様!!」
「白布!!」
「!?」
咄嗟に、バックステップを踏んだ。
「たぁ!!」
下から振り上げられた剣の一撃が鼻先を掠め、俺の前髪を何本か持っていく。
「まだまだぁ!」
「!?」
相手の攻撃を“受けちゃダメだ”。
そう本能で悟った体は続く刃を避け、再び大きく距離を取り、勇者と間合いを作る。
「うっそ! 今の連撃を凌ぎ切るの!? もしかしてあいつ、靴装備適性もA以上だったりする?」
「剣も、補助杖も、籠手も……どれも一流の使い方だった。ラウナベル、彼は強いよ」
追撃はない。
どころか、相手の足が初めて止まっている。
(今、使えば……勝てる)
間違いなく今こそ《ストリップ》の使い時。
だっていうのに……!
(力が、入らねぇ……)
どういうわけかプスンと力が抜けていて、俺の体は、使い物にならなくなっていた。
そんな俺を、一つの思考が染め上げ、支配する。
(俺の、俺のレアアイテムが、破壊されちまうって?)
もしもそれがその言葉通りの効果なのだとしたら、こいつは間違いなく……俺の天敵である。
「ボクも、出来ればこんなことはしたくないんだ」
天敵が、俺に剣先を向ける。
「でも、キミが世界を混乱に導く可能性があるのなら、そう在ろうとするのなら……キミが大好きなその装備たちを、全部、壊させてもらう」
「!?」
その言葉には彼女の、勇者テトラの本気が120%、込められていた。
※ ※ ※
「いいぞー! 勇者テトラー!」
「かっこいいー!」
歓声が上がる。
声を上げたのは観客の村人たちだろうか。
でも、ああ、なんかそれ、妙に遠くに聞こえるな。
なーんも、頭に入ってこない。
「主様だってカッコいいですよー!」
「おっ、嬢ちゃんは白布推しか! 応援してやれよ!」
「はい。主様はわたくしの最推しにして単推し、人生をかけたライフワークにございます」
なんかこっ恥ずかしいやり取りも聞こえた気がするが、やっぱり頭に入ってこない。
(そんなことよりなによりも……このままじゃ俺のレアアイテムたちが壊されちまう)
今まさに直面している危機に、俺の心が絶望している。
(……いや、俺の
俺の手にあったはずの『ぎんの手』は、もう跡形もない。
装備効果が消失していることからも、完全に破壊されてしまったと考えるしかない。
(相棒……)
ダンジョン攻略の時も、ミミック戦でも、旅の途中でも、至竜との戦いでも、俺の、俺たちの身を守り続けてくれた信頼のおける防具だった。
「戦意がなくなった? ……なら、大人しく投降して――」
「駄目よテトラ! アレはそういうんじゃない、警戒して!」
いやまぁ、どんな物でも壊れるときは壊れるもんだ。
靴はもう何足も履き潰したし、ナナにあげた装備や、補助杖だってそうだった。
(だがそれらは、装備としての役割を十二分に発揮し終えた果ての、破壊だった)
今回は、違う。
(勇者魔法? 《ブレイク》? 問答無用でアイテムを破壊?)
なるほど。
そんな魔法がありゃ、確かに勇者は世界の治安を守れるし、人々の守護者にもなれる。
実際にダメージを与えるものじゃないから、『ぎんの手』の守りもすり抜けた。
いや、そもそも神の采配でその辺スルーできる魔法なのかもしれない。
(いずれにしても……だ)
役目を果たせず、相棒は……『ぎんの手』は破壊されてしまった。
それも、お手軽簡単ポンッと唱えられた、勇者の魔法とやらで。
(使い潰すくらい使われた果ての破壊なら、納得もいくが、これは……)
レアアイテムを集めて使う、俺の生き方に対する……冒涜だ!
「………」
冷えきった心に、火が点る。
※ ※ ※
「……! テトラ! 動きなさい!」
「!? っ!!」
「それはなぁ……許せねぇよなぁ!?!?」
道具は、レアアイテムは……使われるために俺の手に集まっているのだから!
お手軽魔法で強制破壊なんて狼藉は……見逃せねぇ!!
(何よりそんなことされちゃ……アイテムコンプが、できなくなるだろうがぁぁ!!)
心が、吼えた!
「
その瞬間。
俺の叫びに呼応して、腰に巻いていた『ゴルドバの
「……えっ?」
「なに、ラウナベル。どうしたの?」
「……うそ」
碧緑の淡い輝きが俺の全身を包み込み、心の底から力を湧き上がらせる!
いや、心からじゃない。これは……俺の装備たちから伝わってきている力だ!!
(『ゴルドバの神帯』から……新しい魔法の知識が流れ込んでくる!!)
魂が猛る!
俺は思いのままに、その呪文を唱えた!
「装備魔法! 《メンテナンス・ヴェール》!!」
俺を包む淡い輝きが、光の柱となって俺の体から舞い上がり、そして――。
「………」
俺の身に着けている装備たちに、大きな変化が起こっていた。
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