第087話 勇者からの提案!
立ちはだかったが戦う意思は見せていない勇者テトラを前に、俺たちはなんとなく彼女の言葉に耳を傾けていく。
勇者テトラは、俺たちに……いや、主に俺に向かって事の次第を説明してくれた。
「勇者の役割は、世に危険なレアアイテムが出回らないように回収して、財宝教の宝物殿に預けることなんだ。竜の試練に関わる『光のドラゴンオーブ』は、間違いなく、世界へ与える影響の大きい危険なレアアイテムだから。だから……ボクに託して欲しい」
「そうよ! アンタみたいな普通のヒトが持ち歩くには危ないの!」
「むっ、主様は普通のヒトではなくもがが」
ナナ、ステイ。ステイ。
「レアアイテムハンターを名乗るキミなら、いや、キミだからこそ。アイテムの危険性もよく分かっていると思う。だから……」
「だから、財宝教に……勇者を有する最強の組織に回収させろ、か。なるほど」
俺が聞く姿勢を見せたことで、テトラの表情が途端に明るくなる。
あー、本当にいい子だなぁ。
「そう、そうなんだ! きっと六竜の試練についても財宝教は力を尽くすし、各国の協力も得てこれから全世界的に行動していくと思う。だからキミには……」
「そうそう、だからアンタはここらで大人しくお縄に――」
「キミには、ボクたちに協力して欲しいんだ!」
「って、えぇ!? 何言ってんのテトラ!?」
「彼の助力を得られれば間違いなくレアアイテム回収の仕事も、六竜の試練にだって有利に働くと思うよ。それに彼の行動力は味方にいてくれた方が絶対にプラスになるよ、ラウナベル!」
「いやまぁこの理解不能な行動力とか突破力とかは便利かもだけど、そもそも世界を混乱に陥れたのはこいつ――」
「ねぇ、白布さん! ボクは本気だよ! これから一緒に世界を股にかける冒険をしない?」
「ちょ、話を聞きなさいってば、テトラー!!」
なにやらこっちの見ている前で楽しい漫才が展開している。
だが、そこで提示された話は、存外悪い話でもない気がした。
(すでに至竜アルバーの脅威は去った。後は自分たちの身の振り方だが、財宝教という後ろ盾が得られるなら、アイテム集めの役に立つ可能性は大いにあるもんな)
勇者お墨付きみたいなのを貰えれば、レアアイテムが隠されているちょっと難しい場所にも入りやすくなるかもしれない。
それに、ナナがアリアンド王国から追われないようにできるかもしれない。
「主様?」
「どうするの、白布」
「ふむ……いや、マジで悪い話じゃないよな」
ハッキリと俺が口にしたことで、いよいよテトラが喜色満面になった。
「ホント!? だったら……」
「まぁ、断るけど」
断るけど。
※ ※ ※
「え? なんで?」
せっかくの誘いをフイにした俺に向かって、勇者テトラは本気で意味がわからないって顔をした。
断った瞬間、問答無用で切りかかってくる感じじゃなくて何よりである。
だから、ちゃんと答えよう。
「理由は三つある!!」
「っ!」
「一つ目の理由は、この場の口約束ってのがまぁ、疑わしいっていう常識の話だ」
いかに相手が信じたくなるような純粋無垢っぽい勇者様からの提案だとしても。
それに素直にホイホイ従って言いなりになるなんてことは俺にはできない。
「二つ目の理由は、財宝教っていう組織を俺が信じていないから」
「なっ!? 世界のみんなが信じてるんだよ!? っていうか、この世界の創造神様を信じる組織だよ?」
「いやまぁそれはそう」
財宝教は実在する財宝神ゴルドバを崇拝する宗教だ。
その使徒である天使だってモノワルドには存在しているし干渉もしているわけで。
少なくとも前世世界で顔を見れなかった神様たちを信仰する宗教よりは、実体がある。
「だが、神が実在しようがそれを崇めてようが、組織を運営するのは人だからな」
「うっ」
「財宝神様が直接的に管理運営してるってんなら話は別だが、その組織のトップは違うだろ?」
確か今は、人の良さそうなお婆ちゃんがトップだったと思う。
ブロマイド見たから知ってる。無料配布だったし。
「現地で頑張ってるお前さんみたいな勇者様とか、司祭様とかを個人的に信じる分にはいいけどな。組織ってなるとどうしたって、一枚岩にはならないもんだ」
聞けば財宝教という組織、主神派・使徒派・勇者派と派閥にわかれているらしい。
この時点でもう、前世世界を思い出して、色々と想像できちまうってもんだ。
「ってことで、まだまだ俺にとっちゃ財宝教って“組織”は胡散臭い何かだ。今すぐにどうこうってのはお断りしたい」
「そんなこと……!」
「落ち着きなさい、勇者テトラ」
「!? ラウナベル……」
「おっ」
俺の言葉に食って掛かろうとした勇者を、妖精さんが止めてくれた。
導きを担当するってのは本当らしい。
「まだあいつは三つ目の理由を言ってないわ。一度話を聞くことを選んだなら、心に余裕をもって受け止めるの。いいわね?」
「……うん」
「で、三つ目の理由は何? 答えてくれるんでしょ?」
ラウナベルに促され、俺は頷き、口を開く。
「三つ目の理由。それは……」
俺は背後に立つナナとメリーに、こっそりと指で合図を送った。
「俺が
瞬間、俺は『光のドラゴンオーブ』を天に掲げて魔法を唱える。
「《フラッシュライト》!!」
刹那もなく強烈な光が辺りを包み込み、こちらの騒ぎに近づいてきていた人々の視界を再び奪う。
そのわずかな時間に俺は振り返ると、二人に声をかけた。
「飛ぶぞ!」
『竜変化の腕輪』を起動する……いや、起動しようとした。
「白布!!」
「!?」
メリーの叫びに俺が振り返ると。
「はぁぁぁぁぁ!!」
剣を構えた勇者が、今まさにその刃先を振り下ろさんと、声を張り上げていた。
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