第083話 怪獣大決戦!


 体が、熱い!

 最強のサウナで1時間以上ぐつぐつに熱されたみたいに全身から汗が噴き出す。


 俺の体が俺のものじゃなくなっていくみたいな感覚と、手足の先が伸びていくような感覚が同時に巻き起こり、気持ち悪い。


 だがそれ以上に体の内側から燃え上がるような、魂の火にガソリン突っ込まれてるみたいな強烈なエネルギーを感じて、すべての感覚を上書きしていく。



(俺は……一体……?)



 しゃべろうとしたら、しゃべれなかった。


 思ったよりも口が重くて、少しだけ開いた隙間から、変な吐息が出た。



「主様ー!」


「白布ー!」



 見下ろせば、ナナとメリーがいた。

 妙にちっちゃく見えたが、よくよく目を凝らしてみると、ぐぐぐっとズームされてく感覚とともにその姿をハッキリと捉えることができた。

 声に関しても同じだ。聞こうとした音がよく聞き取れる。


 この万能感。

 魂から湧き上がるエネルギーと一緒で、なかなかに心地いい。



(……善哉!!)



 前よりもクリアな音で、至竜の念話を受け取った。

 見ればさっきよりちょっとだけ小さくなった感じの至竜アルバーが、こちらを見てめちゃくちゃいい笑顔で笑っていた。


 ん? なんで俺、あの唸り顔を見て笑顔って確信できるんだ?



(よもやよもや。数ある宝物ほうもつの中からそれを選び取るとは、あそこの者たちもまた、良き挑戦者であったか!)


(? どういうことだ?)



 疑問符を浮かべる俺に、アルバーが「なんだ、気づいていないのか」と、魔法で大きな鏡を作り出す。


 そこに映し出されていたのは。



「……ぐるる?」



 一匹の、ドラゴンの姿。


 俺が首を傾げると、そのドラゴンも同じように首を傾げて……。



(って、これ俺ーーーーーー!?!?)



 そこでようやく、ナナたちから受け取ったアイテムの効果を、俺は知るのだった。




      ※      ※      ※




「主様ドラゴン! に、ございます!!」


「白布! あなたならそのアイテム、使いこなせるってわかってたわ!」


「ぐるるるーー!?!?」



 どういうことー!?



(善哉。そのアイテムの名は『竜変化の腕輪』!!)



 あ、そっちが説明してくれるのね。



 URアイテム『竜変化の腕輪』。

 それは装備者の竜装備適性に合わせて体を変化させるレアアイテム。

 D以下であればなんかちょびっと鱗が生える程度だが、Cあたりから腕が変化したり翼が生えたりと様々な恩恵が得られるようになるらしい。



(そして、竜装備適性A以上があればそのように、ドラゴンそのものの姿を得ることもできるという代物だ)


(なーるほど。んじゃそっちの声がクリアに聞こえるのもその恩恵か)


(然り)



 ここに来ても俺のチートアイテムによるスーパー装備適性が活きたということか。

 っていうか姿形変わったのに、元の俺がちゃんといる感覚もあるんだよな。


 たとえるならそう、モ〇ルファイター。

 プロレスするガン〇ムの奴。


 ドラゴンの中にいる俺は、ちゃんと『ゴルドバの神帯』を装備しているんだろう。




(なんとなくだが、人間の姿にちゃんと戻れそうな気もする。だったら……)



 やるっきゃないよな!?



(来るか……!)


(そっちの体のどっかをぶち壊せば勝ちなんだよな? なら、その翼へし折ってやる!)


(善哉! それでこそヒトの傲慢!!)



 俺とアルバーは向かい合い、睨み合う。

 ドラゴンになったおかげか、人間だった時よりもプレッシャーを感じない。



(だが、変わらず感じるこの……死の気配は……!)


(行くぞ、同胞もどき!)


(!!)



 はっけヨい!!

 そんな掛け声で始まりそうな、お互い低姿勢での正面衝突が戦いの合図になった。



「ぐるるおおおおー!!!」


「グルルオオオオー!!!」



 似た叫びをあげてぶつかり合う俺とアルバー。

 ぶちかまし合いの大衝突。


 打ち負けたのは、俺の方だった。



(ごぁっ!? ったぁぁぁぁ!?!?)


(体捌きの年季が違うわ! 年季がなぁ!!)



 大きく腹を見せて仰け反った俺に、再び突進をかますアルバー。



「ぐぎゃおおぅぅ!!」


(未熟未熟! 未熟千万とはこのことよぉぉ!!)



 あっけなくぶっ飛ばされた俺は、背中で宝の山を押し潰しながら大の字に倒される。


 ドラゴンになったってのに、完全にパワー負けしてるなこれ!?



「主様ーー!!」



 っと、ヤバい。

 ナナたちの近くに飛ばされてた。



「白布! あっさり負けてちゃダメじゃない! へっぽこ!!」


「ぐるる……」



 メリーにべしべし叩かれる。

 まったく痛くないが、おかげで気合は入った。



「主様、頑張ってください!」


「ファイトよ! 白布!!」



 声援を受けながら俺は身を起こし、ついでに竜になって使えるようになった風の膜を張る魔法を二人に張って身の守りを与える。

 なんとなくだが、自分は風のドラゴンなんだという感覚があった。



「ぐるるるる……」



 仲間の安全確認ヨシ!

 唸りをあげてアルバーを見れば、相手は律義にこちらが態勢を立て直すのを待ってくれていた。

 完全に余裕ぶっこいていらっしゃる。



(さぁ、次は吐息比べと行こうではないか)


(……上等!!)



 ブレスの吐き方も、今の俺にはわかっている!


 大きく息を吸ってぇぇ!!



「……ごはぁぁぁぁ!!」


「ブルワァァァァ!!」



 俺の暴風を撒き散らす風のブレスと、アルバーのすべてを焼き尽くす炎のブレスが衝突した。



(うおおおおおお! 吹き散らせぇぇぇ!!!)


(おお! 我の炎のブレスが破られるだと!?)



 ブレスの威力は吸い込んだ肺活量がものをいう!

 アルバーの吐いた紅蓮の炎を切り裂いて、俺の吐き出す風のブレスがその顔面を狙う!



(獲った!!)


(では、“ちゃんとした”ブレスで相手をしよう)


(へっ?)



 次の瞬間。

 炎の代わりに光輝をまとった、キラキラとした力の奔流がアルバーの口から吐き出された。



(我、光のドラゴンぞ?)


(あ゛ーーーー!! ずっりぃぃ!!)



 悪態を吐く暇しかないほどのわずかな時間に、俺のブレスは光の奔流に呑まれ、次いで俺の体もアルバーの光のブレスの餌食になった。



「ぐるぁぁぁぁぁぁ!?!?」


「あるじさまーー!!」


「白布ーー!!」



 再び吹っ飛ばされる俺を見て、ナナとメリーが叫びを上げる。


 どう見ても、俺が劣勢なのは明らかだった。



(さぁ、これで終わりか? 同胞もどきよ)


(ぐ、なんてこった……)



 同種になれば勝ちの目もあるかもしれない。

 それが甘い考えだったと痛感する。



(……これが、至竜か!)



 数多のドラゴンたちの頂きに立つ存在、至竜。

 ドラゴンになったからこそ余計にわかる、その力の高みに。



(だからって、諦めてたまるかよ!)



 それでも賭けた唯一の勝機にすがり、俺は闘志を燃え上がらせるのだった。




      ※      ※      ※




 そして。



「ぐ、が…………」


「グルルル……」


「あるじさまぁ!!」


「白布ーー!!」



 はい。

 見事なまでに完封されました!


 ブレスも、体当たりも、引っかきも、魔法の打ち合いも、しっぽアタックも。


 ぜーんぶダメ。



(はぁー、やってらんねぇですわ。こんなクソゲー)



 今も頭を叩き伏せられて、宝の山にずっぽりと首から先を突っ込んでいる。



(勝負あり、だな?)


(そもそも勝負になってねーと思います)


(いやいや、中々に楽しめたぞ。挑戦者よ)



 すでに健闘を称えるモードになっているアルバーに、ふてくされてる俺はもう相手が偉い竜だろうが関係なくため口で返す。



(いやマジで、ズルじゃん。あらゆる面でそっちのスペックの方が上とか。せめて風のドラゴンなんだからスピードで上回るとかないの?)


(格が違うなぁ。六竜の風ならば、確かに我よりも早く空を飛べるであろう)


(ですよねー)



 そう、格が違うのだ。

 なりたてドラゴンもどきとドラゴンの頂点は、パンチの仕方覚えたばっかりのボクシング部一年と世界チャンピオンくらい差があった。


 どうあがいても絶望。



(ああ、楽しかった。本当に、こんなに楽しかったのは100年ぶりだ)



 満足げな思念を響かせ、アルバーが告げる。



(ゆえに、その健闘を称えて最期は華々しき舞台で散らせてやるとしよう)


「……!!」



 死刑宣告。

 ボッコボコにやられてしまった俺には、それに抗うだけの力はない。



「ルルル……!」



 アルバーが喉を鳴らす。そして魔法は行使された。



「《レイシフト》!!」


「待…ぅ……しゃ……!!」



 発動した魔法は、俺たちをどこか違う場所へと運ぶ魔法。

 そこに何やら混じった声を聞いたが、その声の主を確かめる間もなく。



(……ここは?)



 眩い光に一度閉じた目を開けば、そこはドラゴティップの村の、ドラゴンロードの上。



「ドラゴン?」


「は? え?」


「う、うわっ。ドラゴン様だ」


「あれがアルバー様? ドラゴンがもう一匹?」


「え、わ、わわわ!!」


「逃げろーーー!!」



 今まさに日常を生きている村の人々が、観光客たちが、突然の出来事にパニックを起こす。



(聞け! 我が名はアルバー! これよりこの同胞もどき、侵入者の処刑を執り行う!)



 そんな人々に向けて思念を飛ばすアルバーの言葉を聞きながら。



(……これ、ワンチャンあるんじゃね?)



 俺は密かに、この状況に希望の芽を見出していた。


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