第082話 起死回生のアイテム?!


 主様が、伝説とうたわれる至竜と戦っていらっしゃる。



「いいいいい今わたくしも参りますすすすす! あるじざまぁぁぁぁぁ!!」


「だぁー! お待ちなさいお待ちなさい待ちなさいナナさーーーーん!!」


「ハッ!?」



 メリー様に首根っこを掴まれ引き戻されると同時に、わたくしは冷静さを取り戻しました。



「ダメよ、白布は今、明らかに狙いを自分に向けさせるように動いてるでしょ!」


「うっ」



 メリー様のおっしゃる通りにございます。

 主様は今、わたくしたちから少しでも、あの竜が離れるようにと仕向けておられて。



「主様……」


「間違っても、さっきみたいに飛び込んじゃダメよ?」


「はい……」



 冷静になった今、あの戦いに自分が入れるとは、到底思えませんでした。



(先ほどのひと当てで、そもそも力の差は明らかにございます)



 主様からの強化も受けずに飛び出したわたくしは、何のお役に立つこともできませんでした。

 竜の試練なるものが始まり、すべてのヒトが試されるという状況において。



(わたくしは……歯牙にもかけられなかった)



 竜が放ったただのひと吠えに迎撃され、無様に地を転がるほかなかったのでございます。




(わたくしは、こんなにも……弱い)



 主様からのご支援が、あの方の助けがどれだけ大きかったのかを改めて思い知らされる。



(主様の頼みに応え、戦い、成し遂げ、強くなったと思っていたのは……なんたる驕りか)



 従者として、あらゆる事態に対応できるよう、自分なりに努力もしてきたつもりにございました。

 ですがそれも、主様の挑まれる大いなる使命の一端を前にしては、塵芥ちりあくたのごときものでした。




「……主様!」



 至竜の猛追から必死の形相で逃げ回る主様は、それでもわたくしたちの方へ狙いの矛先が向かわぬよう、立ち回っておられて。

 その心遣いが、何よりも今のわたくしがどんな立場なのかを如実に語っていて。



「わたくしは、どうすれば……」



 ただ見守ることしかできないと、そう思っていたわたくしに。



「協力してもらえるかしら、ナナさん?」


「え?」



 メリー様が、手を差し伸べてくださいました。



「私たちの力じゃ、きっとあいつの、白布の助けにはなれない」


「それでは……!」


「でも、助けになる何かを見出す可能性なら、ある!」


「!?」



 そう言って、メリー様が指し示なされたのは。



「宝の、山?」


「そう。この宝の山の中になら、白布の力になるレアアイテムがあるかもしれない」


「あ……!」


「私が《神の目》で鑑定しまくるから、ナナさん、あなたは片端からアイテムを集めてきてもらえる?」



 そうわたくしに言いながら、ウィンクすらしてみせるメリー様に。

 この時のわたくしは、ああ……本当ならば感謝を示さなければならないのに。



(……この方に、負けたくない)



 そんな、手前勝手な思いを抱いてしまったのです。



「いい目だわ。さぁ、立ち止まっている暇なんてないわよ!」


「……はい!」



 今は、この気持ちも含めたすべてを、主様のために使います。



「主様。今にあなたの従者、ナナがお助けに参ります……!」



 竜と戦う主様に、今のわたくしができること。



「見つけ出してみせます……起死回生の、レアアイテムを……!」




      ※      ※      ※




 生ー存ー戦略ーー!(どんっでんっべけーどーでべけー)


 脳内でご機嫌なBGMを流しながらこんにちは、DJセンチョウです。

 まだまだこの世界、モノワルドで何者でもないこの俺、絶賛命を懸けた戦いの最中にいます。



善哉よきかな! 善哉!! これほどまでに、我の攻撃を掻い潜るか!!)


「回避以外に選択肢があれば最高なんだがねぇ!!」


(そぅれ!)


「ぎゃあああああーーーー!!」



 きりもみしつつ突撃してくるアルバーを、その迫りくる突風を利用して回避する。

 むしろそうでもしないとあの巨体から逃げられない!



(枯れ葉。今の俺は吹き荒ぶ寒風を前に舞い踊る一枚の枯れ葉なのだ)



 そんなことを思いながら舞い上がった体をひねり、同じように吹き飛んでいる宝の山から平べったい板みたいなアイテムを足場にして蹴り方向転換する。

 我ながら人間離れした動きをしているが、強化魔法と靴装備適性Aによるごり押しである。


 っていうか今の板っぽいアイテムなんだ? ドア?



(そうか! 貴様はレアアイテム蒐集家なのだな!! ならばドラゴンオーブに触れるのは運命であったか!)


「い゛っ!?」



 一瞬。

 ほんの一瞬だけ蹴っ飛ばしたアイテムの方へ意識を向けただけだったのに、俺の目の前に、アルバーの顔があった。


 ドラゴンが口を開く。

 人間一人なんて野菜炒めの具のひとつくらいのサイズ感でペロリすること間違いなし。


 あ、この構図、マミさんじゃん。

 死ッッ!!



(感謝を! 我らに自由を授けた礼に、我が血肉となることを認める!!)


「ばっ……きゃろぉおおおーーーー!!」



 『ビンビン☆マイク』を装備して、俺は全力で叫んだ。

 瞬間、呪言によって発生する打撃力を、俺は誰でもなく自分に向けて叩きつけ。



「ぐぉぇぁ!?」



 内臓に響くダメージを負いながら、目の前で“ガチンッ!”と閉じる健康的なギザ歯を、俺は見た。



(善哉!!)


「善哉、じゃねぇぇぇ!! ……うおえっぷ!」



 完全に遊ばれているのがわかっていても、どうすることもできない。


 何一つとして打開策が思いつかない。

 俺が使えるアイテムコレクションにも、そろそろ限界が来ている。


 そもそも至竜だか何だか、明らかにヤバイ奴相手にここまでサシで生き残ってるの褒めて!



(褒めよう! 褒めよう! 貴様は我が100年の親友、エンリケと並ぶ生き汚さである!)



 やったー! じゃあ見逃してください!



(ダメだ)



 ブレスがぶっ放された。



「どちくしょおおおおおーーーーーあぢぢぢぢぢぃぃーーーー!!」



 全力で逃げた。

 ちょっと焦げた。



(死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!)



 もう何度思ったかもわからないくらい濃い死の気配に、涙もちょちょぎれている。



(あやつは曲芸のような足捌きで逃げ回っていたが、あれはどういうアイテムの力だったのだろうな! ハッハッハ!!)


「ぐおおおおお!! なんだそりゃあ!!」



 靴か! 靴が違うのか!?

 そうだな。俺の靴は長旅や悪い足場に対応できるHRアイテム『旅行者の靴』だもんな!



「適性装備をおくれよ~~~~~!!」


(アイテムが無ければ知恵を絞るのだ挑戦者よ! さぁ足掻け、とく足掻け、そして死ね!)


「うるせぇぇぇーーーー!!」



 こっちを煽るような空中ターンで巻き起こる暴風から逃れながら、この瞬間にも無い知恵を絞り続ける。



(さぁここで問題だ! この絶体絶命な状況でどうやって至竜アルバーを攻略するか?)



 3択――ひとつだけ選びなさい。


 答え①賢いセンチョウ君は突如として反撃のアイデアを思いつく。

 答え②仲間が来て助けてくれる

 答え③とうに詰んでいる。現実は非情である。



(善哉! 意外と余裕があるではないか!!)


「そのナチュラル思考を読んでくる上位者ムーブマジで何とかならない!?」



 アデっさんとかさぁ! もうなんかそういうもんだって受け入れちゃってるよ!



(そして挑戦者よ、このままならば答えは③である! ③! ③! ③! 万策尽きたなら、最期の死に花を咲かせよ!)


「うおおおおお!! 目覚めろ俺の灰色の脳細胞ーーーー!!」



 助けてホームズ! 助けてポワロ! 助けて、名探偵コナ――。



「あるじさまーーーー!!」



 答え、②! ②! ②!!



「こちらを、お受け取りください!!」



 最高の従者が、最高のタイミングで、最高のお嬢様に支えられ、俺に何かを投げつける。


 放り投げたそれを受け取ろうと俺はジャンプし。



(善哉!)



 それを風圧で吹っ飛ばそうとする至竜に向かって、俺は新たに装備した物を掲げる。



(なっ、それは――!!)


「喰らえ! 《フラッシュライト》!!」


「グルガォォォォーーーー!!」



 手にした『光のドラゴンオーブ』を発動体に、強烈な光を放つ魔法をぶっ放す!

 装備した時点で俺の頭の中には、様々な光の魔法の知識が刻み込まれた。


 ゆえに!



「伸びろぉぉー! 《ブライトハンド》ーーー!!」



 風に煽られていたアイテムに向かい、俺は光の手を伸ばす。

 光の手は確かに放り投げられたアイテムを掴み、俺のもとへと持ってきてくれた。


 それは、複雑な模様が刻まれた、金色の腕輪だった。



「白布ー!」


「主様ーー!!」


「……おう!! 《イクイップ》!!」



 あの二人が俺のために見つけてくれたアイテム。

 それを疑うことなく俺は装備する!



「う、うおおおおおおおーーーーーー!!!!」



 瞬間。

 突如として俺の体は膨張し、違う何かへと急速に変化し始めたのだった。


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