第070話 次なる旅へ!
ランダムダンジョンで『マスター・キー』を手に入れた日から、1週間が経過した。
帰りも道中何事もなく帰還し、次なる冒険に向けての準備期間に入った。
「なんじゃ、てっきり装備だけ奪って戻ってくると思っとったわい」
「それ以上に価値のある物を手に入れられたんでな」
ドバンの爺さんの応接室を拠点に、買い出しをしたり、相談をしたりの日々。
ダンジョンで回収した物を売り捌いたりもしては、金の出入りが激しい時間を過ごす。
中でも特筆するべきは、宿に帰ってすぐにした、レアドロップの確認作業。
………
……
…
「これとこれとこれは、やっぱ残しだな」
ミミックから奪った武具は、どれもマジ物の一級品だった。
中でもあいつが好んで使っていた長剣と大盾、そしてマイクはSRアイテムである。
付与した魔法の効果が数割増しで得られる『増魔の剣』。
『ぎんの手』ほどじゃないが範囲拡大した防御も得られる『銀白の大盾』。
呪言とかいう声自体に不思議な力を持たせる技術を扱える『ビンビン☆マイク』。
まぁ、それよりも。
「この戦斧。よなぁ」
あいつが必殺の武器として使ったクソデカ戦斧。
その名も『ギガントアクス』。レアリティは驚愕のUR!
狭い屋内では取り出すことも出来ない、3m級のやべぇ斧。
この扱いをどうしたものかと考えて。
…
……
………
「おーし、やるかっ!」
そして今日。
時間を作り、広い場所で装備適性に任せてぶん回してみたところ。
(あ、これ振り下ろす以外やっちゃダメな奴)
と、俺の装備適性Aが、必殺のトドメ以外の使用を禁じるほどのアイテムだった。
単純に、持ちにくいのだ。
いかに装備適性があろうとも、絶対的なサイズ差の前には限度があるらしかった。
(その辺装備適性Sにもなると、色々と奇跡が起こると聞いちゃいるが……)
少なくともこのアイテムを普段使いするのは、現状俺には難しい。
「ここぞって時には、バッチリ使ってやるからな」
手に入れたアイテムはなるべく使ってやりたい心情を我慢しつつ、『ギガントアクス』君には今しばらく『財宝図鑑』の展示品として頑張ってもらうことにする。
※ ※ ※
「あるじさま~」
「お、ナナか。どうしたー?」
クソデカ戦斧君の逞しさを堪能し終えたところで、尻尾をふりふりナナがやってきた。
「お弁当をお持ちしました」
「ありがとう。いい子いい子」
「わぅぅぅ、わたくし、幸せにございます!」
垂れ犬耳もしっかりもふもふ。実にいい。
「どうやら、アイテムの効果はバッチリ出てるみたいだな?」
「はい。わたくしのことを奇異の目で見る方はいらっしゃいません」
現状ガチ目の厄ネタである、ライカンという種族のナナ。
その特徴である耳と尻尾をもろ出しにしてもバレないのは、彼女の装備する足輪のおかげだ。
「おやっさんには感謝しかない」
「はい」
ナナが装備しているのはHRアイテム『見せかけの足輪:ヒューマ』。
事情を知ってる冒険者の宿のおやっさんが、伝手からこっそりと手に入れキープしてくれていた物だ。
その名の通り、装備者が特定の種族に見えるようになるアイテムである。
これを見破るには鑑定魔法か、隠密看破能力を持ったアイテムを使うしかない。
もっとも、見せかけだけで尻尾もあれば耳もあるので、触ればモロバレだがな!
(まぁ、身体能力に優れるナナが、そんな不覚を取る可能性はほぼないだろう)
実際装備してからここ数日、ナナがバレた様子はないし、問題ない。
(何より足輪自体を長めのブーツで隠せるのがデカい)
裏で出回ってる品なのもあってお値段20万gとお高いが、それだけの価値はあるお得な買い物だった。
ちなみに俺がナナの耳と尻尾を見れているのは、ナナが俺に隠すつもりがないかららしい。
ドバンの爺さん曰く『見せかけの足輪』にそんな機能はないらしい。
「主様への想いが、このアイテムにも伝わったに違いありません。あぁ、主様……!」
「……さすがは俺の従者だ!」
俺は深く考えることをやめた。
ナナは着々と、常識に囚われない成長をしている。
※ ※ ※
さらに数日後。
「あ、白布」
「おー、メリーも買い物か?」
「そうよ」
日用品の買い出しに来た店で、メリーと遭遇した。
彼女とは旅立つ日まで、それぞれの泊まっている宿で過ごす別行動をしている。
例の不運が少しだけ心配だったが、メリーが泊まっているのはおやっさんの宿だと聞いて安心した。
さすがはハイスペックなお嬢様。人や物を見る目が鋭い。
「……そういや、瓶底眼鏡やめたんだな?」
「ええ。お母様からいただいた眼鏡はもう破壊されてしまったし、これからは……この目の力はフルで使おうと思うから」
《神の目》は、眼鏡を装備しない方がより効率よく使えるらしい。
そしてこの準備期間中、メリーは積極的にこの力を使い、力の扱いに慣れようとしているのだと教えてくれた。
「私はこれまでこの力を忌み嫌っていたけれど、どうしても切り捨てられないなら、それはもう私の一部として受け入れるしかないのよね」
俺と違い、望まぬ形でギフトを与えられたメリーにとっては、呪いだったその力。
だがそれは今、少しずつ、彼女自身の力へと変わろうとしていた。
「私は、私のためにこの力を使う。この力を、支配してみせる」
望まぬ時に発動しないように。望んだ時には最大限に利用できるように。
「私はこの力を使って、全力で幸せになってみせるわ」
「それがいい。それが一番、覗き見野郎にはクリティカルヒットするからな」
メリーには存分に、その力を与えた奴の期待を裏切ってもらいたい。
何しろその反逆行為は、アデっさん公認である。
『実に良いと思いますでございます。あいつ気に入った女の子にばっかりギフトを授けるド変態でございますので。たまにはションボリさせてやりましょう』
とのこと。
やっぱギフトやらを授けるのは天使の仕事らしい。
モノワルド、管理者側から結構な干渉をされているようだ。
「……うん。私が幸せになる近道には、やっぱりあなたが必要ね」
「え?」
「これからもよろしくってことよ。いいわね?」
「はい」
「よろしい!」
いい、笑顔です。
冒険を通じて、俺はメリーの信頼を勝ち取っていた。
できることなら、彼女が笑顔で凱旋するところまでは見届けたいところである。
「さ、せっかくだし買い物にも付き合ってもらうわよ!」
「了解です。お嬢様」
「メリーでいいわよ、いまさらそう呼ばれても気持ち悪いだけなんだから」
「へいへい」
「ぐへへお嬢さん。お嬢さんがちょっと奥の部屋に来てくれたら、安くするよぉ」
「ぎゃー! 結構よ!!」
「………」
うむ。
せめて虫除けくらいにはなろう。
「ちょ、いい加減になさい雑貨屋のディベルこと本名ナルド! あなたの浮気遍歴から何から全部ここで叫んでやるわよ!? 上の奥さんにも聞こえるようにね!! まずは2か月前の――」
「ひぇっ、なんでそんなことを知って……!? お、お許しを~~!!」
「………」
《神の目》こわっ!?
※ ※ ※
そんなこんなで、いよいよ旅立ちの日がやってきた。
「気をつけて行ってくるんじゃぞ」
「おうよ。ドバンの爺さんも達者でな」
集合場所であるドバンの盗品屋の前で、別れの挨拶を済ませる。
「主様の命は、わたくしが身命を賭してお守りいたします」
「そんな事態になる前に、逃げられるようにはしておきたいわね」
「だな」
旅装束に身を包んだ俺たちは、誰が見ても立派なパーティーだ。
俺個人としては、両手に花で中々に悪くない。
……ちょっとだけ、ミリエラのことを思い出したが。
(まぁ、あんだけ盛大にポイッてされちまったからには、そろそろ踏ん切りをつけないとな)
俺のために頑張ると言って去っていった彼女は、今はどこで何をしているのやら。
その言葉を大真面目に受け取って、信じていいのかどうか、実は未だに答えが出てない。
「ほれ、辛気臭い顔しておらんで、とっとと旅立たんか」
「大丈夫でございますか、主様? どこかお体の具合でも?」
「ちょっと。無理してるなら日程変えてもいいのよ?」
「いや、大丈夫大丈夫。行こう行こう」
思わず考え込んでいたところを心配されてしまった。
(うおおおお、気を引き締めないとな!)
少なくとも、俺の目指す未来のためには、立ち止まっている暇はないのだから。
「竜の山の麓には、ドラゴティップという村がある。そこを拠点にするといいぞ」
「ありがとさん。いい物が手に入ったら、いくらか流してやるからな」
「期待しとるからの。白布」
次なる目的地は、財宝を貯め込みまくりのドラゴンがいる、山の中にあるという開かずの扉。
「んじゃ、行ってくるぜ」
「行って参ります。ドバン様」
「お父様の使いの人が来ても、秘密にしといてね」
「ほっほっほ。ちゃーんと成果を上げてくるんじゃぞ! ワシの大事な金づる共!」
現金な爺さんに見送られ、俺たちは次なる冒険へと向かい、ガイザンの町を後にする。
「ドラゴンのお宝かぁ。やっぱ金銀財宝にレアアイテムがガッポガッポだろうなぁ」
「件のLRアイテム『ドラゴンオーブ』もあるかもしれませんね」
「それを見つけられたら、私の家も一発で立て直せるわね。まぁ、すべては命あってのって話だけれど」
いい靴装備の俺たちは、安い馬車に乗っていくより徒歩でいい。
「待ってろよ、俺のレアアイテム!」
「新しい場所では、どんな出会いが待っているのでしょうね。主様っ」
「どうか、お宝を無事に手に入れて、サウザンド家を再興できますように……!」
ドキドキやワクワクを胸に、俺たちは行く。
青い空、白い雲。
今日も、俺の旅路は、素晴らしい天気に恵まれていた。
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