第069話 オープン・ザ・ボックス!



 『青い財宝の小箱』の中から出てきたのは、紫色の小箱。



「ほほう、これはこれは。こちらは『紫の財宝の小箱』でございます」


「そのまんまだな」



 手に入れたその次の瞬間に、俺は『財宝図鑑』の宝物庫へと持ち込んで、アデっさんに鑑定をお願いしていた。



「効果もそのまんまでございますよ。『青い財宝の小箱』……青箱と同じく、使用することでランダムなアイテムひとつを入手できる、消費アイテムでございます」



 ただ少しだけ違うのは。



「こちらの箱から出てくるアイテムの方が、よりレアリティの高い物となるのでございます。なぜならば……」


「なぜならば?」


「……こちらのアイテム、レアリティがURでございますゆえ」



 確変でございます。

 そういい笑顔とサムズアップをアデっさんに向けられて。


 俺は、ナナたちの元へと舞い戻った。




      ※      ※      ※




「ふぅーむ」


「これは、『青い財宝の小箱』と同系統のアイテムにございますでしょうか?」


「ああ、これは……」


「ん、ちょっと待ってくれる?」



 俺がナナの質問に答えるよりも早く、メリーが右目の《神の目》を使う。

 出てきた説明は俺がアデっさんから聞いたものと同じ……ではなく、より詳しかった。



「これは、最低でもSRアイテムが出るみたい。運がいいと、この世界にひとつしかない……LRすらも出る可能性がある……ですってぇ!?」


「ほぁ、それは……素晴らしいですね、主様!」



 《神の目》すげぇ! いや、アデっさんの説明が雑だっただけかこれ。

 ただ、少なくともメリーの瞳は神の使徒であるアデっさん並みの鑑定力があるってことだな。


 俺が『鑑定眼鏡』を手に入れたとして、同じことができるかどうか。

 確認のためにも早期の入手を期待したい。



「その小箱を売るだけで、200万gは固いわね。オークションなんかだともっと値段が跳ね上がるかもしれない……そう、1000万gだって超えちゃうかも」


「へぇ」


「すごい。本当にお宝を手に入れちゃったのね」



 やや呆けた顔でメリーが言う通り、これは間違いなく大当たりに分類される品だと俺も思う。



(何しろこれには夢がある。自分がとんでもないお宝を手に入れられるかもっていう、夢が)



 もしもこれが闇オークションで流れてたら、俺は間違いなく自分の全財産で勝負していた。

 それを賭けるに足る希望が、この箱にはある!


 それだけの価値がある物ならば……。



「メリー」


「何度も言わせないで。それはあなたの物よ、白布」


「む」



 予想されていたのか、俺が何を言うよりも先に釘を刺されてしまった。

 まぁ、こっちもそうなるだろうってわかっちゃいたけどな。



「……ふむ」



 じゃあどうするか。

 そんなのはもう、決まっているのだ。



「よし、開けよう」


「本気にございますか、主様!?」


「そうそう、そうこなくっちゃ!」



 俺の宣言にびっくりするナナと、満面の笑みを浮かべるメリー。



「ああ、もちろん本気だぜ。ナナ。俺がこんなロマン溢れるチャンスを逃すと思ったのか?」


「……いいえ、いいえ。決してそのようなことは。ですが」


「ですが?」


「その箱から、次はいかなるとんでもない物が飛び出してくるのかと、わたくしは今からもう、ドキドキでどうにかなってしまいそうなのでございます」


「お、おう」



 ナナの中で、俺がハズレを引くという可能性は0ということになっているらしい。

 メリーもうんうん頷いているが、爆死の可能性は未だにあることをどうか忘れないで欲しい。



(いやまぁ、ここまで来たら……LRを目指す以外はないがな!)



 箱に手をかけ、《イクイップ》。



(当たるも八卦、当たらぬも八卦だっていうのなら)


「吉兆、引いてやろうじゃねぇか!」



 ここで、レアアイテムコレクターの運命って奴を占ってやる!



「うおおおおお、出てこいゴッドレアアアアアーーーー!!」


「ゴッドレアなんて出ないわよー!?」


「財宝神様、どうか主様に勝利を……!!」



 『紫の財宝の小箱』を……開ける!!


 次の瞬間!



「うおっ」


「きゃっ」


「わぅっ」



 ラストフロアすべてを満たすほどの強烈な輝き!



「!?」



 そんな真っ白に染まった世界で、俺の手に何かが握られる!


 細くて、凸凹していて、すべすべな、コレは――!!




「……ど、どうなったの!?」


「あるじさまぁ……!!」



 輝きは収束し、最後にはただ、俺の手に財宝だけが残される。



「ちょっと、白布?」


「主様? ご無事にございますか?」



 誰よりも先にそのアイテムが何なのかを確かめた俺は。



「……くっ」


「は、外れだったの?」


「くっくっくっく! くっふっふっふ! はーっはっはっはっは!!」


「なっ、あ、あるじさま?」



 高笑いを抑えきれなかった。



「い、いったい何を当てたっていうのよ?」


「その手に持っていらっしゃるのはなんでございますか、主様?」


「ああ、悪い悪い。これな……今の俺的には、神アイテムだ」



 そう言って、俺は二人に入手したアイテムを見せる。



「それは……」


「鍵、にございますか?」


「そう。鍵だ」



 俺が手に入れたアイテムは、ナナの言う通り、鍵だった。


 だがこれは、ただの鍵じゃあなかった。



「……URアイテム。『マスター・キー』! 聞いて驚け、効果は……“あらゆる鍵の掛かった扉の鍵を開錠する”だ!」



 俺が手に入れたアイテムは、とんでもなく高性能な、鍵だったのである!




      ※      ※      ※




 俺が手に入れた超チートアイテム『マスター・キー』!



「……って、それ確率で破損するじゃない! しかも適性C以下だと1回で終わりとか!」


「はい」



 には弱点があった。



「鍵装備適性がAの俺が使っても、60%くらいの確率でぶっ壊れるZE☆」


「ほっとんど使えないじゃないの!?」



 メリーのツッコミが冴え渡る中、しかし俺にはすでに、光明が見えていた。



「その1回をパーフェクトな場面で使えばいいってことよ」


「どこに使うっていうのよ」


「そりゃもちろん……ドラゴンの宝物庫だろ」


「えぇ……あっ!」


「メリー様の仰られていた、東にあるという開かずの扉……に、ございますね」


「そうその通りだ! えらいぞナナ~」


「はわわわわ、あるじさまぁ~~」



 もう隠す必要がないナナのフードを外した状態で、めいいっぱいもふもふしてやる。

 やっぱりフード越しより直接垂れ犬耳もふもふするのが最高だな!



「……って、正気なの!?」

 

「正気も正気。ドラゴンの貯め込んだ財宝、ごっそり貰いに行こうぜ!」



 ウィンク&サムズアップ。



「正気の目をしてないじゃない!?」


「ソンナソンナ、トンデモナイ」



 ドラゴンの巣とか聞いた時点で、俺にはもう宝の山にしか思えてませんヨ?



「メリーが当てにするほどの宝が眠っている場所の情報、さらにそこに繋がる扉を開けられるかもしれないアイテムの登場。これはもう、俺の運命力を信じる以外ないね」


「さすがでございます、主様……!」


「いやいやいや! そこだって私、無茶なの承知で言ったんだから! っていうかナナさん!? あなたも自分の主が危険な場所に行こうってんだから止めなさいよ!」


「?」


「どうして? って顔で首を傾げられても私が困るのよ! 可愛いわねぇ!?」


「まぁまぁ落ち着いてくれ、メリー」



 ツッコミしすぎて肩で息をしているメリーを、どうどうとなだめすかす。


 実際のところ、俺はこれ、悪い手じゃあないと思うんだ。



「俺はレアアイテムが欲しい。だからドラゴンの宝物庫なんて場所があるなら絶対行く」



 財宝レアアイテムの山へと至れる鍵が手に入った以上、これはもうマスト案件だ。

 命懸けだろうと行かないという選択肢がない。


 それに。



「メリーも、実家を救うためには大量の金が要る。そうだろ?」


「それは……そうだけど」



 さっき『紫の財宝の小箱』について語っていたメリーについて、気づいたことがある。

 彼女が1000万gと口にしたとき、それでも彼女の表情は明るくなかった。


 メリーの欲しているお金は、それ以上なんだと確信した。



「だからメリー。俺から提案させてくれ」



 これは、俺に良しな特大チャンスを持ってきてくれた、応援したくなる女の子への、お礼だ。



「俺たちとパーティー組んで、ドラゴンの宝を山分けしないか?」



 もっと旅をしたいと、そう思ってくれた彼女に。



(失敗=即バッドエンドは確実の……けれど、成功すれば逆転できる、チャンスになる!)



 楽しい楽しい、狂気に満ちた難易度特級クエストへの、お誘いを。



「そ、れ、は……」



 迷う顔をしていても無駄だぜ。

 俺は知っている。



「一緒に、冒険の続きをしよう。メリー!」


「共に参りましょう、メリー様」


「……!」



 メリーは、差し出したこの手を、絶対に掴む。


 なぜなら彼女は、俺が愛して止まない――。



「……いいわ。私も連れてって。その、無茶で無謀な冒険に!」



 絶対に諦めない、ド根性お嬢様だからだ。


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