第068話 お宝の正体!



 前回までのあらすじ。


 大・逆・転!


 以上!




「……………………え?」


「よーしよし。上出来だったぞ、ナナ!」


「いいえ、いいえ。すべては主様の御力にございます……さすがは主様!」


「……どういう、こと?」



 どういうこともこういうこともない。



「俺たちの、勝ちだ!」


「完全無敵の、勝利にございます」


「え、えぇーーーーー!?!?」



 ミミック。お前は本当に強かったよ。

 だが、可哀想に……俺との相性は、最悪だったんだな。


 っていうか、アームドモンスターて。



「《イクイップ》ができるモンスターがいたなんてな。知ってたら最初からやってたものを」



 くっそぅ、ゴルドバ爺も人が悪いぜ!

 モノワルドに、こんな俺にとってお誂え向きなボーナスモンスターがいたなんてな!


 まだまだ知識不足だった!



「ねぇ、ちょっと!」


「だがまぁ、奴のおかげで……大量装備、ゲットだぜ!」


「やりましたね、主様!」


「ちょっとって! もう! ちゃんと! 私に! 説明なさいよーーーー!!」



 メリーの叫びがフロア中にこだまする。


 その暢気な言葉の反響は、激闘の決着を、何よりも強く証明していた。


 俺たちは、どうにかこうにか、ラストフロアの試練を乗り越えたのである。



「はっはっはァイダダダダダ!」


「あるじさまー!?」



 クリアランクD、辛勝ってところで。


 もっと頑張りましょう。




      ※      ※      ※




 ようやく安全が確保されたラストフロアで、俺たちは傷の手当てとともに色々な話をした。


 俺の旅の目的、ナナの身の上話、そしてメリーの、星の入った目について。

 全部を話せたわけじゃないが、それはきっとお互いさまで。



「……まさかあなたも、ギフトを持っていたなんてね。白布」


「メリーと違って、俺には過酷なんてものは与えられてないけどな」



 ナナに介抱してもらっているあいだ、俺はメリーから質問攻めにあい《ストリップ》について説明した。

 本当のことを包み隠さず話すわけにもいかないから、とりあえず《イクイップ》された装備を奪えるってところだけを雑に伝える。



「……装備適性Aなうえにギフト持ちなんて、伝説の大英雄か勇者か、はたまた救世の使徒かって話の盛り具合ね」


「ふふふ、当然にございます。なにしろ主様こそが救世のもごご」


「ま。世の中持ってる奴は持ってるってことだな」


「傲慢ねぇ」



 うっかり口を滑らせそうになったナナをモフって黙らせとっさに言い訳したが、メリーはそんな不自然な動きを気にも留めずに、くすくす笑って受け流した。


 クソダサ瓶底眼鏡を失ったメリーは、今や完璧な美少女である。

 片目に星のマークが浮かんでいるのも、いかにもファンタジックで強い。



(しかし《神の目》か。正直どこまで見られてるのかわからんから超怖い)



 聞かされたギフトを警戒する、俺の胡乱な視線を感じてか、メリーが口を開く。



「大丈夫よ。あなたのことはすべての装備適性がAだったってこと以外見てないわ……と言っても、信じてもらえるかはわからないけど」


「いいや、メリーがそう言うならそうなんだろう。だってメリーなんだから」


「なによそれ、ふふっ」



 努力型お嬢様は正々堂々が好きだから、基本嘘はつかないし、つけない。

 俺は詳しいんだ。



「ただ……その力を持ったのが俺だったら、超使いまくるけどな」


「そんなことをしたら、あいつが、力を与えてきた奴が喜ぶじゃない」


「いや、どっちにしても喜ぶだろうよ。そういうタイプの奴はな」



 俺にはわかる。そいつは間違いなく、人がギリギリで足掻く様を見るのが好きな愉悦部だ。

 俺は詳しいんだ。



「そういう奴が一番悔しがるのはな、与えた力を想定以上に上手に使って、幸せになることなんだ。だからメリーはむしろ、もっとガンガンその力を使って得をするべきだ」



 どっちかっていうと、力を使わないで状況を乗り越えるとかいうハードモードを選ぶ方が、そいつの好みに合致しちゃうからな。


 だから、はっきりと言っておく。



「幸せになれよ、メリー」


「ぁ……」


「とりあえずは、あれを手に入れて、な?」



 さっきからチラチラと、俺の視界に入っていた物を指さす。


 それはミミックが吹き飛んだ場所に落ちている、小さな箱。


 それを目にしたメリーの瞳が、一気にきらめきを増した。



「あ!」



 まだまだ修復中の『魔術師のローブ』から脇やら太ももやらを大胆に晒しながら、彼女はそれに駆け寄り、拾い上げる。



「お母様! メリーはやり遂げました! 無事、探していた宝を、見つけられました!!」



 拾った小箱を掲げて、遠く王国にいるだろう母へと祈りを捧げる。



「で、それはなんなんだ? メリー」


「どうか、教えてくださいませ。メリー様」



 彼女が探し求めていたお宝。

 その正体について俺はようやく知る機会を得る。



「これは、これこそが、サウザンド家を救う巨万の富を生むアイテム!」



 満面の笑みで、メリーがその答えを口にする。



「『青い財宝の小箱』……箱を開くことでランダムなレアアイテムがひとつ手に入る、消費アイテムよ!」


「………」


「私はこのアイテムで、サウザンド家を救ってみせる!!」


「………」


「出すわよ! 最高級URアイテム!!」


「……Oh」



 息巻くメリーとは裏腹に、俺のフラグセンサーはビンビンに危機を訴えていた。


 っていうか、それ。



「ガチャじゃん」



 ガチャじゃん。




      ※      ※      ※




 それから。



「なぜ、なぜなの……」



 手に入れた『青い財宝の小箱』を開けたメリーがどうなったかは、言わずもがなである。



「なぜなのよぉぉぉーーーーーー!?!?!?」



 悲しみのスターダストをまき散らすメリーがその手に持っているのは『毒耐性の指輪』。

 そのレアリティは……HR。



「ひいひいお爺様秘伝の“絶対当たるソング”を歌って踊ったのに、どうして!?」


「それは、そう」



 必勝法があると胸を張ったメリーが歌って踊り始めたときは、マジかと思ったんだが……。



(現実は非情である)



 ○○したらガチャが当たる教は、いつの時代もどんな世界でも、気休めなのである。



「どうしよう……これじゃサウザンド家を復興できない……」


「うおっ」



 どんな罠やモンスターの被害にあっても折れなかった、メリーの心が折れかかっていた。



(そうか。メリーにとって家は一番大事なもので、そのご先祖さんからの保証があったからこそ、ここまで頑張ってこれたんだな)



 メリーのひいひいお爺様。

 絶対当たるソングなんて罪作りなもの、よくも作ってくれたものだ。




「うぅ……もうおしまいよ、終わりだわ……」



 へたり込んでガチ泣きしそうなメリーを前に、どうしたもんかと考えていると。

 ちょいちょい、っと。ナナに服の裾を引っ張られた。



「主様、あちらを」


「ん? あ……」



 彼女が示した場所には、崩れた柱の隙間に隠されるように『青い財宝の小箱』が落ちていた。


 その数、2つ。



「どうやらこのアイテムは、フロアに挑んだ人数分手に入る物だったみたいだな」



 つまりこれは、俺とナナのためにあるアイテムということになる。


 ということになるんだが……。



「……ナナ」


「主様のお望みのままに」


「ん、ありがとう」



 ナナにはあとでいっぱいご褒美をあげよう。




「おーい、メリー」


「……なぁに?」



 俺は2つの『青い財宝の小箱』をメリーに投げ渡す。

 アイテムの記録は『財宝図鑑』に登録したから問題なしだ。



「え? え? え!?」


「多分俺とナナの分だが、依頼的にはメリーのものってことにしてもいいはずだ」


「ワンモア、にございますよ。メリー様」


「ぁ……」



 俺たちの言葉にメリーが笑顔を浮かべ、けれどすぐに目線を下げ、首を左右に振った。



「ダメよ。これはあなたたちが手に入れるべきもの。私は私のチャンスを正しく消費したわ」


「ですが……」


「人は時に情けをありがたく受け取りもする。けれど私は、サウザンド家の、貴族としての誇りにかけて、これを受け取らない」



 再び顔を上げたメリーの瞳には、強い決意の色が見えた。

 家の名を出された時点で、俺は彼女がどうあっても受け取ってくれないだろうと悟る。



「はい、返すわね」



 しっかりと両足で立ち上ったメリーに、箱を返される。

 へこたれていた彼女はもういなかった。



「お金に関してはどうにかするわ。そうね、ここからさらに東にあるっていうドラゴンの宝物庫にでも行ってみようかしら。開かずの扉なんていう鍵を失った扉があるそうだけど、どうにかしてみせるわ」


「メリー様……」



 それが空元気だということはわかっているが、俺たちにできることはない。


 できることといえば……。



「……箱、開けるか!」



 景気づけに、ガチャ爆死することくらいだ!




      ※      ※      ※




「いいの? 開けないままで売れば20万gは固いのに……」


「そんなの今の俺からすればはした金だ。ならば夢を見ないでなんとする!」


「主様がそうなさるのでしたら、わたくしも従うのみにございます」



 正直20万gだと売ることも一考する値段なんだが、そこはロマン優先。

 レアアイテムハンターとして、未知のアイテムが手に入る可能性に賭けたい。


 相談した結果、箱はナナから先に開けることになった。



「それでは参ります……えいっ!」


「これは……!!」



 ナナの箱から出てきたのは、本だった。

 それも、料理の教本である。



「『名コック・カワゴシのお料理さしすせそ』……レアリティはSRよ!」


「や、やりました。主様!」


「でかした、ナナ」


「おめでとう、ナナさん」


「わぅぅ~。これでもっと腕を磨き、主様の喜ぶお料理をお作りしますね!」



 おそらく最高の当たりを引いたと思われる。

 少なくともこれで3回回して全滅ということはなくなった。


 あとは俺が、派手に爆死すればいいだけだ。



「よーし、次は俺の番だ! ナナよりいいアイテム、引いてやるぜ!」


「頑張ってください、主様!」


「ええいこの際よ、最高のアイテム引いちゃって!!」



 キラキラナナとやけくそメリーに応援されながら、俺は箱を開けようとして。



(あれ? ちょっと待て。消耗品でも、普通に《イクイップ》ってできたよな?)



 料理品や、飲み薬、使えばなくなる道具でも、装備して使うと効果が高まる。


 ならこの箱も、装備して使った方がいい結果が出るのでは?



「試してみるか……《イクイップ》!」



 『青い財宝の小箱』を装備してから、俺は箱の留め具に手をかけ……。



「うおおおおお、なんか出ろーーーー!」



 カパッと開いた、次の瞬間。



「……あ?」



 俺の手の平には、紫色の小箱が乗っかっていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る