第066話 強敵を攻略せよ!
ピンチの時、迷わず人を頼れるのは強さだと、俺は思う。
「ナナ。ここまでの状況、どう思う?」
「圧倒的に手数が足りません。あれを真っ向から攻略するなら、わたくしがあと4人ほど欲しいです」
「なるほど」
手数。手数か。
(俺になくてあいつにあるもの、だよなぁ)
あのぽこじゃか増える疑似手がとにかく厄介なのだ。
俺の手は左右合わせて二つしかないのに、相手は持ち出したい装備の数だけ手を増やす。
(まさしくチートだなぁおい!)
格ゲーどころかアクションゲームでも出てきたら、クソの烙印が押されること請け合いだ。
「他には何か思いつくか?」
「他、ですか?」
今はどんな細かなことでも情報が欲しい。
俺が見落としていることをナナは気づいているかもしれない。
「相手はこちらを侮っておいでですね。まるでわたくしたちを追い立てて、遊んでいるように思います」
それはわかる。
現に今も追撃しようと思えばできるのに、俺たちがごにょごにょ話しているのを好きにさせている。
どうせそう遠くない内に、メリーを助けるために俺たちが動くってわかっているんだ。
あいつ賢すぎない?
「……いかがしますか? 主様」
「そうだな……やりようは、ありそうだ」
わかっていることでも、他人の口から聞かされとまた違うもののように感じられる。
おかげでひとつ、手を思いついた。
「あいつが人間みたいな奴だってんなら、人間相手にしてると思って動く」
俺はヒソヒソ、ナナに自分の作戦を伝える。
フード越しの囁き声も彼女はバッチリ聞き取って、その内容に。
「ダメにございます」
反対された。
「ダメじゃない、これをやる」
「ですが……」
「上手にできたらあとでご褒美をやるからな」
「うゎぅっ!?」
まともに議論している暇はないから、渋るナナには美味しい餌を投げ渡す。
「ハイ決定。んじゃやるぞ」
「ゲヒャヒャヒャ!」
作戦決行を決めたところで、ミミックが笑い声をあげた。
そろそろ待つのにも飽きてきたらしい。どの武器で俺たちを仕留めようかと、疑似手がもぞもぞと動き出していた。
「あるじさま……」
「大丈夫。むしろちゃんとやってくれよ? 俺の自慢の従者なら、な?」
「……お任せください。必ずやこのナナが、お役に立ってみせます」
「よろしい」
メリーを助けられるかどうかは、このワンチャンスにかかっている。
ぶっつけ本番。うまくいくかどうかもわからない思いつきの作戦だが、やるしかない。
「……作戦開始だ!」
「はいっ」
俺は最後にナナの頭をよしよし撫でてから、一人、柱の陰から身を躍らせる。
「ケヒッ!」
待ってましたとミミックが歓喜する。
(めちゃくちゃ背中痛い! でも、やってやらぁ!!)
状況は動き出した。
目にもの見せてくれるぞ、人真似ボックスめが!!
※ ※ ※
そして、今。
「ひぃ~~~~!! た~すけてくれぇ~~~~~!!」
俺は無様に、情けなく、涙声を張り上げながら、逃走していた。
「ゲヒャヒャヒャーー!!」
「ひぃぃ~~~~!!」
俺を追いかけ矢を放ち、槍を投げるミミックの攻撃から、ほうほうのていで逃げ惑う。
「やめて! 助けて! 許してくれぇ~~~~!」
「ゲッヒィーー!!」
心が折れた逃亡者を相手はとっても気に入ってくださったようで、嬉々として追い立て、追い詰めようとしてくる。
「こ、こっちに来るんじゃねぇ!!」
「ゲヒャー!!」
「びゃーーーーーー!!」
と、まぁ。
これが俺の立てた作戦である。
(あいつが人間みたいな奴だと仮定して……なら人並みに、感情ってのもあるとする)
ミミックの行動から理解できる性格は、嗜虐趣味。
つまり、弱い者いじめ大好き、一方的な蹂躙だーいすき! って感情だ。
(だからそれを刺激して、俺に注意を向けさせる)
実際に矢が刺さってて弱っている俺ならば、囮として申し分ない。
今まさに狙われていることからも、この作戦は大当たりだ。
「ひぃぃ! ゲートだ、あそこに逃げ込めば……!」
「ギヒィィィ!」
「うわー! ダメだー!!」
こちらの狙いを露骨に決めて動けば、それを邪魔するように相手は動く。
俺のやることなすこと全部潰して絶望させたいって気持ちが、ありありと感じられるってなもんだ。
(それでも、完全に気を引けたってわけじゃない)
現にあいつは俺に攻撃しつつ、それ以外の疑似手で構える武器を八方に向けている。
ナナからの奇襲を警戒しているのだ。
マジで賢い。
(だから仕掛け時は……今じゃない)
逃げて、追われてしているタイミングじゃダメ。
ならいつか?
「くっ、もう俺を逃がすつもりはねぇんだな!?」
足を止め、ミミックに向き直る。
手に剣を持ち、弱々しく身構えてやれば――。
「ゲヒヒッ!!」
そのか弱い抵抗を粉砕してやろうと、ミミックが接近とともに剣を振り上げる。
打ち合えば待っているのは、死だ。
剣の上手い下手で解決できる状況じゃない。敵の攻撃は剣だけじゃない。
相手の剣戟を乗り越えたところで、さっきと同じ。
連なる次撃で仕留められる。
(だが。その先に勝機が、ある!)
「ゲヒャーーーー!!」
「おおおおおお!!」
振り下ろされる刃を、打ち上げる一太刀で迎撃する。
地力の差か、アイテムの差か、俺の持っている剣の刃は粉々に砕かれた。
だがその一手で相手の剣をいなし、乗り越える。
「ゲヒャヒャ!!」
そして続く攻撃。矢の追撃。
さっきはナナを庇うことに意識が向いていたからできなかったが今度は違う!
「『ぎんの手』!!」
守りの小手を起動する。
俺をハチの巣にしようと放たれた矢の雨が、不可視の障壁ではじかれる!
「!?」
(どうよ!)
二撃目も越え、相手の動きに変化が起こる。
「ゲヒッ!? ゲヒャー!!」
顔がなくても声でわかる。
怒ってるだろお前。
「へっ」
「ギヒッ! ギィィィィ!!!」
鼻で笑ったのが効いたのか、怒れるミミックの中から現れる、新たな武器。
「って、そんなもんまで持ってんのかよ!?」
飛び出てきたのは巨大な戦斧。
疑似手3本で支えるやばそうなブツ。
『ぎんの手』の守りすら切り裂くつもりか、斧を大上段に構えて、ミミックが吠える。
「ゲギヒィィィ!!」
まさしく全身全霊。
俺を殺すことだけに全集中した一撃が、真っ直ぐ俺の頭蓋を砕かんと振り下ろされる!
ここが命の、賭けどころだった。
「ひぃぃぃ!!」
逃げない。
逃げたら、避けたら、防いだら。
きっとこいつは、警戒する。
だから。
「ナナ、パーーーーンチ!!」
「ゲ? ゲブルォォォォオオオオ!!!!」
「……に、ございます」
信じて、託して、頼らせてもらう。
「主様のお命は、このわたくしが絶対に、守ってみせます……!」
ミミックの戦斧が俺の頭をぶっ叩く、その直前。
「ゲヒィィィィ!!? グゲッ!?」
完全な奇襲になったナナの渾身の一撃が、見事ミミックをぶっ飛ばし、壁へと叩きつけたのである。
※ ※ ※
「待ってろメリー! 今そいつを動けなくしてやる!」
《イクイップ》した魔杖を構え、魔法を唱える。
今まで使ったことがない魔法だが、
「《ノロリー》!!」
メリーが使っていた速度低下魔法。
俺の望みに応えて魔法が発動し、ミミックの動きが明らかに遅くなる。
「ナナ!」
「はい! メリー様! 今度こそお助けいたします!!」
畳みかけるようにナナが駆け込み、いよいよその口の中へと手を伸ばす!!
が!
「ギ、キィィィィィヤアーーーーーー!!!」
「!?」
箱の表面にひび割れを作っていたミミックの、突然の金切り声。
瞬間巻き起こる、衝撃波。
その衝撃は接近していたナナを吹き飛ばし、距離を取っていた俺の体をも震わせる。
「キャアーーーーーー!」
ミミックの疑似手が、マイクを持っていた。
「そんなん、アリかよ!?」
マイク!? マイクで衝撃波!?
最後の最後に初見殺しとか、マジで理不尽にもほどがある!!
こんなん、どうやって対策しろってんだ!?
「ぅ……わぅ」
「く、そ……!」
「ギ、ギヘ……! ギヘェー! ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
あまりの衝撃に、吹っ飛んだ先で起き上がれずにいるナナと、傷に響いて動けなくなる俺。
そんな俺たちの姿を確かめるようにキョロキョロしてから、ミミックが嗤う。
勝敗が、決した。
「あるじ、さま……」
「……こな、くそ」
いや、まだだ。
まだ負けてない。
(俺が生きているし、ナナも生きてる。そしてきっと、メリーも!)
こんな理不尽押し付けてくるクソゲーなんぞに、負けてやる道理はない!
「……なぁ、お前。ボスなんだよな。だったらレアアイテムだ。レアアイテムを置いていけ!」
痛みをこらえ、身構える。
俺は俺の目的を達成するまで、絶対に諦めない!
「《イクイップ》」
杖代わりにもなる槍を取り、敵を睨む。
そのときだった。
「ゲヒッ!? ゴバアアアーーーーーー!?!?」
突如として口から火を噴くミミック。
それはミミックにとって予想外のことだったらしく、吐いた火は天に向けられていた。
巻き起こる火柱。
その中から転がるように飛び出てきたのは――。
「ケホッ! ゲホッ!!」
全裸のメリーだった。
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