第059話 いざ突入!ランダムダンジョン!!



 わちゃわちゃ雑談しながらのランチタイムも終わりを告げ。

 俺たちはいよいよ、うねうね銀河ゲートを越えてのダンジョン攻略に挑む段階となった。



「……うねうねしてるなぁ」


「うねうねしておりますね」


「うねうねしてるわね」



 準備は万端!

 あとは突入するだけなのだが、俺たちの足はそこからとんと、先に進めていなかった。



「「………」」



 それもこれも、原因はこのうねうね銀河ゲートである。


 なんだこれ。

 いや、ゲームならこんなもんって感じで受け入れるけど、現実として突きつけられると、ねぇ?



「マジでこれ入り口なのか?」


「ええ。そのはずよ……初めて見るけど。そもそも私、ダンジョン自体が初めてだし」


「実は俺もなんだ」


「えぇ……」


「突入には、勇気が必要でございますね……」



 本当に入って大丈夫なのかがわからず、俺たちはすっかり尻込み一旦停止。

 さっきまでお互いにドーゾドーゾと譲り合いまくった結果、今じゃ俺たち3人は、ぴっちり密着団子状態になっている始末である。


 ちなみに現在の先頭がメリー、最後尾がナナ、真ん中が俺である。



「っていうか白布。あなた依頼主を先行させてどうするつもりよ!」


「いやいや、これは言い出しっぺの依頼主が安全を保障してくれないとヤバいだろ」


「そういうのの確認も踏まえての護衛でしょ!」


「ここの所有者だってんなら安全かどうかくらいは知っててくれよ!」


「うぐっ。そ、それは……」


「ハイ! それじゃ勇気を出して行ってみよう!」


「ああああー! 待って待って! 待ちなさいってばぁぁー!!」



 ぐりぐり押してゲートに近づけると、メリーが涙目になりながら足で全力ブレーキをかける。



「ね。ちょっともう、ここは格好いいところを見せてくれるとか、ない?」


「んー、まぁ確かに? どうせ最後はみんな入るって意味じゃ、ここでわざわざ争う必要性を俺は感じていないな」


「だったら……!」


「でもな、メリー」


「な、なに?」


「この中で一番いい性能の装備してるのは、お前さんなんだ」


「……へぁぁ」



 こっちを救いを求める顔で見ていたメリーの口から、情けない声が出た。



「合理的理由からも、メリー先頭が正しい。ということで……ナナ」


「はい、主様」



 もはやするべきは定まった。


 ってことで……見せてもらおうか、ブランド装備の性能とやらを!



「待って! 待って! まだ心の準備が――」


「GO!」


「わぅぅぅー!!」



 ナナのライカンパワーと俺の装備適性Aパワー、二人掛かりでメリーを押す。



「あああああーー!!」



 叫び声をあげるメリーが、うねうね銀河ゲートに触れる。



「あああ……――!」



 うねうねの中に潜り込んでいく彼女の口が、まるで沼に沈むかのようにゲートを通ったところで、不意に音がぷつんと途切れる。



「お、やっぱりワープする奴だ」



 なんて言ってるあいだに俺もうねうねに触れれば、一瞬視界が真っ白に染まり。


 直後。



「ああああああーーーー!!」



 再び聞こえてきたメリーの叫びと共に。



「おお……これが、ダンジョン!」



 俺は見知らぬ洞窟の中へ、ダンジョンの中へと移動したことを実感したのだった。




      ※      ※      ※




「め、名家であるサウザンド家の長女になんてことをさせるのよー! このすかぽんたーん!」


「ハハハ、申し訳ねーです、ハハハ」



 さすがにカナリア扱いにはご立腹だったメリーにポカポカされながら、俺は洞窟の只中に立っている。



「どうやら、一方通行だったようにございますね」



 最後にやってきたナナが完全にこちら側に来たところで、うねうね銀河ゲートはスッと小さくなって消えてしまい、俺たちは進む以外の選択肢を失った。



「ってことはやっぱり、次はあそこなんだな」



 そう言いながら俺が視線を向けた先。

 向かいの壁に面したところに、入り口と同じうねうね銀河ゲートが開いた門があった。


 他には座りやすそうな石造りの床があるだけで、俺の前世のゲーム体験からするとここは、最初のセーブ部屋みたいないかにも“心の準備”をするための空間になっていた。



「あそこをくぐると、また違う場所へ行くんだろうな」


「わぅ……これでは先がどうなっているのか、確かめようがございませんね」


「うーん。メリーは何か知らないか?」


「うう……」



 いい加減ポカポカするのをやめさせてから問いかけると、メリーはしばらくうんうんと悩ましげに考えるポーズをしてから、はたと、大事なことを思い出したかのように目を見開いた。



「……ランダムダンジョン」


「ランダムダンジョン?」


「そう、ランダムダンジョンなんだわ! ここって!!」


「説明してくれるか?」


「ええ! もちろんよ!」



 どうやら本当に大事なことを思い出してくれたらしい。


 彼女はこの場所……ランダムダンジョンについて教えてくれた。



「ランダムダンジョンっていうのは、入るたびに中の構造が変わるダンジョンのことよ。ここのように一定の広さの空間……フロアがいくつも連なって出来ていて、各フロアを繋ぐゲートをくぐって最奥を目指していくの」



 さらにメリーの言うことには。


・入るたびに内容が変わるため、地図を用意できない。

・フロアの内容も数多あり、罠部屋、宝部屋、モンスター部屋、休憩部屋などが不規則に連なっており、常にアドリブの対応を求められる。

・一方通行なので、取り逃しや休み忘れの回収は不可。

・ダンジョンごとに最奥の部屋は固定で、高いレアリティのアイテムが手に入る財宝部屋か、強いモンスターが出現するボス部屋かの2択。一応ボスを倒しても宝が手に入る。



「……まさに神の悪戯が生んだ場所、それがランダムダンジョンなの」


「なるほどな」


「メリー様の仰られた通り、高難易度の試練ということでございますね」



 説明を理解し、真剣な面持ちで頷くナナとメリー。


 そんな二人を眺めつつ、俺は頭の中で受けた説明を反芻し……。



(……ローグライクゲーム!)



 イット、イズ、不思〇のダンジョン!!


 もしくはTRPGだとアリア〇ロッドとかで見る奴ー!



「炎の洞窟や氷の砦みたいに、特定装備があれば有利になるみたいな場所じゃない、自分の総合力が試される場所よ。心して行くしかないわ」


「仰る通りにございます。気を引き締めてまいりましょう。ね、主様」


「………」


「あるじさま?」


「え? ああ、うん。そうだな」



 あんまりにもゲームっぽい奴が出てきたせいで、ちょっと動転してた。



「ちょっと、もしかして怖気づいたの?」


「《イクイップ》……いや全然?」


「こら、ポーカーフェイス作りたいからって仮面装備してんじゃないわよ。タイミング的にバレバレなんだからね!」


「HAHAHA」


「大丈夫ですよ、メリー様。主様はこの程度のことで動じたりなんてなさいません」


「本当かしら?」


「………」



 試されるのは総合力、か。



「……ならまぁ、大丈夫だろ」



 仮面を外し、宝物庫にぶち込むついでに『財宝図鑑』と『ゴルドバの神帯』に触れる。

 ふたつのGRゴッドレアアイテムが「俺たちがいれば大丈夫」だと、俺に勇気を与えてくれる。



「今度は、あなたが前を行ってくれるわよね?」


「そうだな。こっから先は、冗談じゃなく冒険者の領分だ」


「最前衛はわたくしにお任せください。殴る蹴るは、得意ですので!」


「メリーは一番後ろを付いて来てくれればいい。ただそれはそれとして、戦いの頭数には入ってるけどな?」



 ガイザンからダンジョンまでの道中は安全そのもので、未だメリーの戦闘能力は未知数だったが。



「ええ、私に任せなさい。武の名門サウザンド家の力を、見せつけてあげるわ」



 そう言って魔杖を構える彼女の自信に満ち溢れた表情と、圧倒的高価で高性能な武器防具を見れば、不安な要素など微塵も感じない。




「それじゃあ、行くぞ!」


「はい、主様!」


「ええ!」



 ここから先は常に未知との戦いになる。


 そしてもう、俺たちに引き返すという選択肢はない。



「ゲート、突入!!」



 気合を入れて、俺は壁際に建つうねうね銀河ゲートに突撃する。


 再び白に染まっていく俺の視界。



(さぁ、鬼が出るか蛇が出るか。できればレアアイテムの宝部屋ばっかりでありますように!)



 最奥で手に入るレアアイテムをメリーに渡す以上、道中の宝こそが頼り!


 俺はゴルドバ爺に祈りを捧げながら、いざランダムダンジョンへと挑戦するのだった。


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