第058話 ランチタイムはダンジョンの前で!
ダンジョン!!
それは夢と希望が溢れる、約束の地!
ダンジョン!!
ロマンと熱狂、そして多くのゲーマーたちが愛してやまない、冒険の頂!
ダンジョン!!
つまりは宝の山! レアアイテムと出会える、俺の幸せが待っている場所!!
「ダンジョン。ああ、ダンジョン……」
「………」
瓶底眼鏡お嬢様に白い目で見られようとも、俺の中に溢れる、この想いは止められない。
「「………」」
「……話を続けてくれ」
はい。
高すぎるテンションって言うほど長持ちしないよね。
「主様、お勇ましかったですよ」
「よーしよしよしよし、ナナはいい子だなぁ」
「ふわわっ。あるじさまぁ……!」
いい子のナナにはたーっぷりご褒美あげないとなぁー!
「いや、話を続けてくれって言うけど、そもそも話をしてもいなければ、もう到着するわよ」
「おや」
ナナとじゃれあっている間に、目的地へと到着していたらしい。
場所はヒュロイ大森林から南下した丘陵地帯の一角。
大岩がゴロゴロと鎮座している坂の途中。
「メリー様。これが……」
「ええ、これが……」
大岩と大岩の間に隠されるように存在する、白亜の如き真っ白の祠。
開きっぱなしの扉が「ここが入り口ですよ」とこれでもかと主張しているそここそが、メリーが実家から持ち出した地図に描かれた場所。
「――これが、ダンジョン!」
俺ことセンチョウ・クズリュウ。
人生初のダンジョンは――!
「……ん?」
開かれた扉の内側を、よくよく見てみると。
「……いやこれ、ネ〇ーゲートじゃね?」
謎の銀河的うねうねワープゲートが開放されてる風の、先の見えない形をしていた。
※ ※ ※
とりあえず目的地には到着したので、俺たちはダンジョン突入前のご飯タイムである。
広げたシートに並ぶのは、出かける前にナナがめいいっぱい腕を振るって作ってくれたお弁当。
『財宝図鑑』の宝物庫の中に設置した
「主様。はい、あーん」
「あーん。んぐんぐ……」
ナナの差し出す箸先にパクついて、根菜の炒め物を味わう。
シャキシャキとした食感と甘辛い味付けが、空きっ腹を刺激して食欲を増進させる。
「うーん、美味い!」
「それは何よりでございます。わたくし、腕によりをかけて作りましたので」
「料理の教本、買った甲斐があったな」
「そのおかげで、さらに腕を磨くことができました。すべては主様のお導きにございます」
「役に立ったなら何よりだ」
「はい。では次はこちらのミートボールを……あーん、でございます」
「あーん。んぐんぐ……ソースも手作りだよな? 美味いぞー」
手が空いているのでよしよしとナナの頭を撫でる。
「わぅぅ……光栄です。主様が喜んでくださることが、わたくしの幸せにございます」
はにかみながらも撫でる手を受け入れるナナ。
今はフード付きコートに隠れて見えないが、きっと耳も尻尾もパタパタしているに違いない。
「………」
「はい。次はこちらですよー、あるじさまー」
「あいあい。あー……」
「……ねぇ」
「もぐっ」
「はい? なんでございましょう? メリー様」
「……それ、本当に毎日やってるのね」
見ればメリーが、すっかり呆れ顔で俺たちを見ていた。
「ふふ、メリー様が羨むのもわかります。主様へのお世話は至上の幸福にございますので」
「羨んでないわよ! っていうか、白布がご主人様だってのはわかるけど、ちょっと世話焼きすぎじゃないかしら?」
「んぐんぐ」
ガイザンからここまで、2泊3日の道のり。
こうした食事の世話に始まり、寝床の準備、風呂焚きなど、俺たちの旅の快適さを向上させるべく、ナナはたくさん頑張ってくれた。
というか、俺がやろうとしていることに先んじて、ナナが「わたくしが」と率先して行動してくれたのだ。
手間は手間だから俺はありがたくお世話になり、快適な旅を過ごしている。
一家に一人、可愛いライカンの狂信者。
気を抜いたら隣でハァハァし始めるオプション付きでお得です。
「メリー様。わたくしは主様の従者。陽に陰に主様の助けとなる者にございます。その中には当然、食事のお世話なども含まれるのでございますよ」
「赤ちゃんじゃあるまいし、白布は一人でもちゃんと食べられるんでしょう?」
「ふふふ、主様が赤ちゃんのようにわたくしにお世話させてくださるなら、それに勝る喜びはございませんね」
「白布、私ちゃんとこの子と会話できてる?」
「できてるできてる」
俺の生返事に首をかしげているが、メリーの言うことはもっともだ。
だが。
「ナナが少しでも俺に尽くしたいって言うもんだから、好きにさせてるんだよ……あむ」
「好きにさせてるって……これ好きにさせていいものなの? っていうかナナさん。今は私が話しているのだから、卵焼きを食べさせるのはおやめくださる?」
「これは失礼いたしました。つい、主様への奉仕したい想いが止められず……」
「えぇ……?」
むしろ、断るとウルウル見つめられるまである。
なんて言ったら、メリーはどんな顔をするだろうか。
「ほんと……こっちが羞恥プレイさせられてる気分よ」
「そいつは申し訳ない」
でも俺は知っている。
この数日、メリーは恥ずかしそうにしながらも、割と俺たちをガン見していたことを。
瓶底眼鏡越しにも存外視線ってのは感じるんだよな。
「これも……の影響なのかしら」
「え?」
「何でもないわ! ……それにしても、本当に色々と規格外なのね。あなたたちって」
「わぅぅ、えへへ」
「褒めてないわよー、ナナさーん?」
「規格外といえば、メリーも中々のものだと思うけどな?」
「何が?」
「まずその馴染みっぷりが」
仮にもメリーは王都に居を構える名家のご令嬢、それもご長女様である。
それが今、ならず者とほぼ同義である俺やナナみたいな冒険者と、平然と食事を共にしている時点でおかしい。
俺なんて、メリーって呼び捨てしてるのに一度も抗議されてないし。
「ここに来るまでの野営の手伝いや火の番まで、キッチリこなしてたよな」
「メリー様は、中々に旅慣れていらっしゃるご様子でした」
確かに王都からガイザンまでは長旅で、野営の機会もあったかもしれない。
だがそれでも彼女の手馴れっぷりは、ナナの言う通り旅慣れてる人並みだったのだ。
「どこで身に着けたんだ、その技術。それ系の装備適性がある感じでもないし」
「それは……まぁ、そういうのが好きだったのよ。私のお爺様とお婆様がね。色々と教えてもらったの」
興味本位でほじくり出した答えは、意外とシンプル。
「なるほどなぁ。武門の家柄ってことは、モンスター討伐で野営とかもしてそうだしな」
「いえ、それは拠点生成系アイテムを使ってたそうよ。『インスタントハウス』とか」
「お高い奴だ!」
確か闇オークションで流れてた奴が、3LDK風呂トイレ付きで460万gくらいした
モンスター除けの結界とかも付与された優れモノである。
同系統の出したら戻せないHRの使い捨てテントで3000gぐらいするから、中々手が出るもんじゃない。
「はぁー、本当に貴族なんだな。まぁ貴族じゃないと、その装備は揃えられないよなぁ」
お高いアイテムの話をしながら、俺はメリーが今まさに身に纏う装備に注目する。
イカと薔薇が組み合わさった意匠は、超一流ブランドの証。
「作られる量産品すべてがHRクオリティの、クラーケンローズ製」
特に彼女が着ている『魔術師のローブ』に至っては、オーダーメイド効果もあってか
「これはね。母が私のために用立ててくださった物なのよ」
「お母様が、にございますか」
「えぇ、私に何があってもその身を守ってくれるようにって、ね」
そう言ってイカバラのブランドマークを撫でるメリーの表情は、瓶底眼鏡では隠しきれない慈しみの色を持っていた。
「おかげでこうして無事にここまで来れたのだから、感謝しか……ないわ」
「ん?」
今ちょっと、何か違和感があった、か?
「すさまじい装備……なのでございますね」
「正当なブランド物であれば、高い値段にふさわしい性能があるものなのよ」
「なるほど……つまり食器類や料理道具などもブランド品で揃えれば?」
「そうそう。ちゃんとそれだけ、結果に繋げてくれるわ」
「………」
……まぁ、いいか。
「主様、主様!」
「ああ、そうだな。今度買い揃えに行くか」
「はい!」
新たに得た知識をさっそく活かそうとする優秀な従者の頭をよしよししつつ、俺はダンジョンの入り口に目を向ける。
満ち腹で冷静さを得たことで、俺はゆったりと考えを巡らせることができた。
(あのネザー……うねうね銀河ゲートの向こうには、どんな危険があるのかわからない、未知の領域が待っている)
俺はあそこで、何を手に入れられるというのか。
(万が一全然稼げなかったら、最悪メリーの装備を《ストリップ》させてもらって黒字にすればいいか。なーんて、これも一時的に仲間になるキャラの宿命だな。クックック)
先の見えない現実に、俺は静かに、そして冗談交じりに依頼の次善策をイメージし。
「……白布。今、間違いなく碌でもないことを考えてたでしょ?」
「はい。……あ」
即バレしてめっちゃ叱られた。
無念!
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