第054話 ようこそUR!ようこそ新たな出会い!
俺は今、この手に宝を持っている。
「フッ……フフッ……フフフフフフッ!!」
風呂から上がってあとは寝るだけ。
そんな状態でベッドに寝転がりながら掲げた右手には、重さをほとんど感じない銀色の小手が装備されている。
「フッフッフ……ハーッハッハッハッハ!!」
「ご機嫌にございますね。主様」
そんな俺を、部屋の椅子に腰掛けたナナが、寝間着姿で嬉しそうに見守っている。
「ああ、嬉しい。超嬉しい!」
「お言葉からも、喜びが溢れてございます」
「そうもなる! なぜならこれは!」
俺が今、この手に装備している小手こそが!
「
人生初のURアイテム!
それは俺にとって、目を開けていられないほどにキラキラと、輝いているように見えていた。
※ ※ ※
「おめでとうございます、千兆様。初めてのURアイテムゲットでございますね」
カジノでメダルと『ぎんの手』を交換した時のことだ。
俺はいつか……
「そちらは『ぎんの手』。装備者を1日3回、あらゆる攻撃のダメージから守護する装備でございます」
「マジか!?」
「マジでございます。小手装備適性Aか精霊銀装備適性Bがあればその効果を得られますので、千兆様におかれましては『ゴルドバの神帯』と合わせてお使いください」
「了解だ! はぁ……UR装備。UR装備かぁ……」
自分の力で手に入れた高レアの装備に、俺はすっかり満足感でいっぱいになっていた。
「あらゆる攻撃って、具体的にはどのくらいの攻撃だ?」
「とりあえず、巨人のマジワンパンを真正面から受け止めてノー、ダメージ」
「マジのマジ?」
「マジのマジでございます。同レアリティの装備による攻撃であれば、ほぼ受け止められないものはないと思いますでございますよ」
「ひぇ~」
手にしたアイテムの効果を聞きながら、多幸感に身悶えする。
ついでとばかりに『ぎんの手』に頬ずりすると、それを見ていたアデっさんから「お見事! 素直にキモいでございます」とご感想をいただいた。
「とにかく一歩、前進したんだ。この調子でバシバシ、レアアイテムを手に入れてやる」
「はい。一日も早く『財宝図鑑』を完成へと導かれてください」
「そうするとゴルドバの爺さんに都合がいい?」
「モチロンでございます。あの方は貴方が世界を制した後のモノワルドを早く見てみたいと仰られてございました」
「ほーん、なるほど」
つい最近、世界は狙われているなんてナナにハッタリかました手前、何か言われるかと思ったが、そんなことはなかった。
(神様的にはノータッチなのか、無関心なだけなのか……まぁ、スルーされてるならいいか)
「ええ、今は余計なことは考えず、ずんずんと前に進まれるのが良いかと思いますでございます」
「うーん、相変わらずの読心術」
「もう、世界は動き出しております。その波に乗られるのが、一番手っ取り早いでございますよ。千兆様」
「………」
こう……時たま、アデっさんは意味深なアドバイスをしてくれるんだよな。
だから俺は、装備の鑑定をお願いする以外でも、ちょくちょく彼女に顔を見せてたりする。
今回のアドバイスも、それとなく心に留めておこう。
(ここでは前世の音楽が聴けるっていう特典もあるし)
ちなみに今、美術館のようなここに流れているのは、ウマがぴょいする奴である。
雰囲気台無し。
なお、これは俺のリクエストではなく、記憶を読み取ったアデっさんの趣味であることをここに強く記しておくものである。
「優勝した時に流れる音楽でございますよ? まさに今、ピッタリでございますでしょう?」
「今の気分的にはス〇エニゲーの勝利BGMのがよかったなー」
パパパパープーパーペッポピー。
愛バのところに被さって、ファンファーレだけが鳴り響いた。
「URを手に入れられた特典で、宝物庫が拡張、千兆様の基礎能力も向上いたしました」
「へ?」
「今後もレアアイテムを集めて図鑑の内容を充実なされば、それだけで千兆様はお強くなれます。奮って頑張られてくださいね」
「そういうのもあるのか! ……って、おあー!」
「タイムアップでございますー」
「いや、それ全部アデっさんの気分次第だろーがーーーー!! がー! がー……」
唐突に思わぬ追加情報を与えられたところで、俺は宝物庫から追い払われる。
「……ハッ!?」
「いかがなされました、主様?」
「いや。150万メダルの重みを感じ取っていただけだ」
「なるほど」
「おめでとうございますお客様~、どんどんぱふぱふ~」
(レアアイテムを手に入れると俺はそれだけで強くなる、か……)
かくして。
ますますレアアイテムを手に入れる動機が増えて、モチベーションもアップしまくりだった。
※ ※ ※
翌朝。
青い空、白い雲!
俺は手に入れた『ぎんの手』をさっそく見せびらかしに行くべく、ナナを連れてドバンの爺さんの盗品屋へと向かった。
(まぁ察しのいい爺さんのことだから、俺がまた派手にやったってのは把握してるかもな)
そんな風に考え事しながら店の近くまで来たところで、ふと、ナナに服の裾を掴まれ足止めされる。
「主様」
「うぇ? なんだ?」
「あちらをご覧になられてください」
「あっち? んん?」
ナナが指差した場所……爺さんの店の壁に、一人の
誰かを待っている様子のその子は、遠目に見てもわかりやすい、魔法使い装備だった。
「ツバ広帽子にゆったりとしたローブ、手には長めの魔杖……いかにもな魔女スタイルだ」
「こんな時間に誰かを待っている、というのは、中々に怪しゅうございますね」
「だな」
ドバンの爺さんの客だったら、とっとと店の中に入ればいい。
なのにわざわざ入り口で誰かを待っているわけだから、狙いは客の方である。
完全装備で誰かを待つなんて、きっと碌な理由じゃない。
「……裏口の方から行くか」
「はい」
なので予定を変更。
正面から堂々と入って見せびらかす作戦から、こっそり裏から入って見せびらかす作戦へ。
「こそこそ行くぞ」
「はい、主様……あ」
「あ?」
いざ裏に回ろうと、店の横手に入ろうとしたところで。
「………」
一匹の野良猫が、樽の上からこちらを見ているのに気がついた。
お猫様はゆっくりと口をお開けになると、そのままスーッと息を吸い込み……。
ブシッッッッッ!!!!
おくしゃみあそばされた。
「「………」」
あっちの女の子がこちらを見るのには、十分な音だった。
「……あ! “白布”!!」
「げっ」
女の子が、俺の腰に巻いた『ゴルドバの神帯』を指差して笑みを浮かべる。
インドア好みの度の厚そうな眼鏡を彼女はかけていたが、そのイメージの割に活発な印象を受ける溌溂とした声だった。
「あなた、あなたが白布ね!」
重ねて呼ばれる俺の通り名。
彼女の目的が俺であることは明白だった。
「あの方。こちらへ来られるおつもりのようですよ、主様!」
「わざわざここを調べて会いに来てるって? 絶対面倒くさい奴だろ!」
今の俺の予定は、ドバンの爺さんに『ぎんの手』を自慢して、もっとレアアイテム情報よこせとせっつくことなのだ。
予定外のことに関わっている暇はない。
「……逃げるぞ、ナナ」
「はい、主様」
即座に反転、俺たちは謎の魔法使いの女の子からの逃走を図り――。
「ちょ、待ちなさい! 私、レアアイテムの情報を持っているのよ!!」
「話を聞こう! お嬢様!」
「あるじさまーー!?」
さらに反転、俺は女の子のもとへと駆け寄っていくのだった。
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