第053話 スーパースロットを攻略せよ!後編!!
俺は、スロットを回す。
「S! S! 猫! 鈴! S! 残念っっっ!!」
メダルをチャージし、再び回す。
「猫! コッコ! コッコ! S! ナス! 2回目も揃わない!!」
実況者の声に、ギャラリーの落胆する声が被さっていく。
「今ので2万メダル消えたのか?」
「えぐいのぅ」
消滅したメダルはジャックポットに加算され、516万メダルになる。
「主様……」
「従者の女の子も心配そうです! あと3回で見事絵柄を揃えられるのか!?」
俺は静かにメダルをチャージ、3度目の挑戦。
「S! コッコ! S! コッコ! S! あああー! 縁起は良さそうだが外れだぁ!」
揃いそうで揃わない。
ほんの数分も経たずに飲み込まれてしまった3万メダルに、周りからは震える声も聞こえてくる。
「はは、あんな若造が当てられるわけがないんだ」
「そりゃそうだよなぁ」
「あの坊や、高い勉強料になったわね」
もはや勝機はないと判断した客たちが、もう俺が負けた気になって好き勝手言い始める。
「……主様?」
そんな中に聞こえてきた、可愛い従者の疑問符を含んだ声に。
(よく見てくれてるな、ナナは)
なんて内心ほっこりしながら、一度だけ視線を向けた。
「あ……!」
重ねた視線が、彼女に会心の笑みを浮かばせる。
たったこれだけで、彼女はもう俺の勝利を疑わない。
(……そう、ここまではまだ、準備だったからな)
事前にプレイして確かめた、1レーンスロットの感覚。
装備適性Aの感覚をフルに使って、ひとつひとつのスロット台の癖を調べた。
(結果。作った人が同じだからなのか、全部のスロットに共通する癖があった)
レバーを回して、ボタンを押して、絵柄を並べる。
そんな単純なゲームだからこそ、作り手は色々な工夫を凝らす。
回転速度のズレ、ボタンを押してから止まるまでのタイムラグ。
特定の状態から特定のボタンの押し方をすると、また違ったラグが起こって絵柄がズレる。
そんな細やかな違いを確かめてから臨んだ本番。
3回のチャレンジを通じて、確かめた。
同じスポンサーが発注した同じ製作所で作られたスーパースロットが持つ癖も、同じだった。
(今の俺は、どこをどのタイミングで押せばSになるか、把握済みだ!)
あとは……アレの場所を把握しないとな。
※ ※ ※
「さぁ、4度目のチャージだ! どうなる! どうなるんだ!?」
4度目のレバーロックの解除音を聞いてから、俺はおもむろに台座から距離を取った。
そして。
「おや? 彼はいったい何を……」
ギャラリーたちが不思議がっているその瞬間に、一気に動き出す。
「――《イクイップ》!!」
『財宝図鑑』から補助杖を装備!
どのタイミングで押せばいいのかはわかった。
次に必要なのは、狙ったタイミングで完璧にボタンを押せる、器用さと速度!
「器用向上、《テクニカ》! 敏捷向上、《カソーク》!
即座に今の俺が使える支援魔法を発動、能力を上げる!
「おおっと! これは意外ぃー! 隠し玉だぁ!!」
驚きながらも即応している実況。素直にすごい。
そんな彼の熱演で観客が沸いている間に、俺は再びレバーを引き、回転開始!
「こ・こ・だぁぁ!!」
準備に準備を重ねた必勝の構え!
把握したスロットの癖を突く絶妙のタイミングで、俺はボタンを叩き、絵柄を並べていく!!
「S! S! S! S!」
装備中の『スーパースロット』が、ハッキリと俺に告げる。
(完璧だ!)
最後のボタンを押した、その結果は――。
「……ナス! 惜しいぃぃぃ~~~~!!」
実況の、心の底から惜しんでくれている声が響く。
観客たちも奇跡の瞬間が喉元まで近づいた事実に盛り上がり、そして落胆する。
だが、これは。
(……OK把握)
俺は間髪入れずに5回目をチャージ、そしてレバーを引いて再回転!
ギャラリーたちの反応が追いつかないスピードで、再びボタンを押していく!
絵柄が並ぶ。
S。
S。
S。
S。
そして――!
「……お前だ。《ストリップ》」
呪文の詠唱と共に俺は腕を振るい、もう一方の手でボタンを押す。
直後、がちゃりとスロットは停止して、最後のひとつがその絵柄を晒す。
「「………」」
数秒の沈黙。
直後。
ジャジャーーーーーーーーン!!
カジノ全体に響き渡らんとする爆音のオーケストラが、奇跡の到来を誰よりも早く祝した。
次いでネオンライトの如く輝くのは、ジャックポットの文字盤で。
「……ふぁ、ファイブS! 達成ーーーー!! ジャックポーーーーーーット!! 私たちは奇跡の瞬間を目の当たりにしたぁぁぁぁぁ!!!」
実況の叫びでようやく事態を理解したギャラリーたちがはち切れんばかりの歓声を上げる。
「あるじさまぁー!!」
「おおっと」
飛びついてきたナナを抱きしめながら、俺は手にした物を、持ち主へ放り投げる。
宙に弧線を描いて飛んでいくのは、手の平サイズのスイッチレバーだった。
「!? !?!?!?」
それをキャッチしたのは横側からこちらを見ていたギャラリーの一人。
4回目のスロットチャレンジで、手に隠し持っていたそれを使って、絵柄を“ズラした”女。
つまり、サマやった奴である。
(装備適性Aに支援魔法有りともなれば、装備に行われた干渉にだって敏感になるのさ)
残念ながら、イカサマは俺に通じない!
「ば、ばかな……!?」
何が起こったのかわからないとガタガタ震えていたその女は、黒服たちに背後からそっと捕らわれて、カジノの奥へと連れていかれる。
「違う! 私はミスなんてして……!!」
そんな彼女の必死の叫びは、残念ながら奇跡の瞬間を前に熱狂する会場の中で、あまりに小さな音だった。
(いい夜を)
なむなむ。
「――へい! ニューヒーロー! 奇跡を起こした感想を聞かせてくれ!」
抱きついたままのナナをモフモフしつつよそ見をしていた俺に、不意にマイクが向けられて。
見ればステージを囲むみんなが俺とナナのことを興味津々で見つめていた。
「英雄へのインタビューさ!」
そんな景気のいいことを言う実況者に。
「インタビュー? そんなことよりレアアイテムだ!」
それだけ言って、俺はナナを抱えて壇上から思いっきりジャンプして飛び降りる。
パフォーマンスだと思われたのか、ギャラリーからは黄色い声が上がった。
「うおっしゃー!」
そのまま逃走。
「って、マジで逃げるのかよニューヒーロー!?」
「ふはははは! そこにもう用はないんじゃーい!!」
目的のメダル数は達成した。
だから俺は、迷うことなく交換所へと駆けていき、受付のバニーさんに嬉々として声を張る。
「一番いいのを頼む!」
「ええ!?」
「一番、いいのを、頼む!!」
俺の目に映っていたのは、ショーケースに展示されていたURのレアアイテムだけだった。
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