第052話 スーパースロットを攻略せよ!前編!!



「さて、それじゃそろそろどこかの席に着こうか」


「色々な遊戯がございますし、目移りしてしまいますね」


「だな」



 そろそろ何かやってみようということで、俺とナナはカジノの中をウロウロする。




「ツモ、でございます。点数は2000オール」


「おお」



 麻雀。



「……とぅ! ど真ん中にございます」


「ナイスブル!」



 ダーツ。



「わぅ。5、J、10でバーストにございますね……」


「親の18に対して俺は19、仇は取ったぞナナ!」


「あるじさまぁ!」



 ブラックジャック。


 物見遊山に色々なゲームを楽しみ、他の殺伐とした雰囲気の中でほのぼのとした時間を過ごす。

 初心者丸出しだったおかげか、俺たち……特にナナは、お店側にずいぶんと優しくしてもらえた。


 特に。



「か、勝ちました! 主様! 弱いツーペアでございましたが、運が良かったです」


「おー、やったな」


「流石でございますな、お嬢様」



 賭けたメダルが少数だったのもあっただろうが、ポーカー卓のマスターだった老年のディーラーさんには、ほぼほぼ孫っ可愛がりされる感じでナナが勝たせてもらった。



「カジノ、楽しゅうございますね。主様!」


「そうだな」



 これが初心者をカジノ中毒にさせる準備だって口にするのは、野暮なのでしない。

 この笑顔をわざわざ曇らせる必要はないのだ。


 純粋に楽しんでるナナに対し、勝ちを狙った俺の勝率は五分五分といったところだった。

 実を言えばもっと勝とうと思えば勝てたんだが、後々の本番のためにも悪目立ちを避けるため、抑え気味に立ち回っていた。

 その辺りの勝たないための立ち回りなんてのが出来るのも、装備適性Aのすごさである。




 そして。



「……ふむふむ、なるほど」


「ああ、惜しかったですね。主様」



 やいのやいのと遊びまわってる俺たちが今プレイしているのは、1レーンスロット。

 簡単に言えば、回転する絵柄をボタンを押して止め、3つの絵柄が揃えばメダルが増えるというゲームだ。


 座った席の筐体を《イクイップ》して、俺はとりあえず数回プレイする。



「よし、次」


「わぅ?」



 隣の席に移動し《イクイップ》してまた数回、移動し《イクイップ》してまた数回、と同じ作業を繰り返し、当てたり当てなかったりを重ねていく。



「……おや、主様。さっきよりも当たりの数が増えてまいりましたか?」


「ん? ああ、そうだな」



 ナナが気づいたところで、俺も確認完了。


 最後にSの文字を3つ並べて大当たりの音を響かせ、『カジノカード』のメダルの数が増えるのを見届けてから、俺は席を立ち、目的の場所へと向かう。



(すでに注目、されてたみたいだな)



 店員の中の何人か、そして常連らしき客のいくらかの、鋭い視線を感じる。

 可愛いナナではなく俺を見つめる、警戒と、期待の視線。



「さぁ、本番だ」



 向かったのは店の中央に設置された特別ステージ。

 遊んでいるあいだに何度も何度もアナウンスされた、この店の目玉ゲーム。



「ぐあぁぁぁぁ!! ボクのメダルぅぁぁぁあ!」



 叫びを上げて膝をついた青年が、ステージから降ろされて。



「さぁさぁ! 次なる挑戦者はいないかぁ? ここ“底なし沼”最大レートの1プレイ1万メダルの『スーパースロット』!! オールSを出せばジャックポット! 今なら514万メダルがアナタの手にーー!!」



 図ったかのように再びアナウンスされたそれに。



「はいはいはーい、挑戦しまーす!」



 堂々と、名乗りを上げる。



「来たか!」


「出たぞ挑戦者!」


「さぁ新たな犠牲者だ!」



 周りのどよめく声と注目に、俺はゾクゾクとした心地よさを感じながら。



「はーい、ようこそ挑戦者! ステージの上へ!!」



 このゲーム専属らしき実況者に導かれ、ナナを連れて壇上へと登る。



「新たな挑戦者に拍手を!」



 歓声とともに響き渡る怒涛のような拍手が俺に、ここが勝負所であることを自覚させた。




      ※      ※      ※




「さぁ、簡単に『スーパースロット』についてご説明しましょう! これはハイリスクハイリターンの発展型1レーンスロット! 通常の物と違い5つの絵柄を揃える必要がございます!」



 実況者の説明を聞きながら、俺はこれから挑む敵を見上げる。

 そう、見上げるほどの大きさの1レーンスロットがそこにはある。


 デカデカと5つの絵柄を表示するスロット台と、それらに対応する5つのボタンが置かれた台座。

 台座の横には大きなレバーがついており、それを引くことで新たなゲームの始まりを告げる仕組みだ。



「1万メダルをカードから読み取りベッドすることで、レバーは回せるようになります! あとはタイミングよくボタンを押して、5つの絵柄を揃えるだけ! 単純にして明快なゲームです!」



 シンプルイズベスト。

 わかりやすいことこの上ないルール説明に、ギャラリーが盛り上がる。


 レバーを引いてボタンを押す。たったそれだけで1万メダル……1万gが消し飛ぶのだ。

 さっきまで遊びまわっていたゲームたちとは文字通り桁違いの掛け金に、俺は息を呑む。



「このゲームは特別に《イクイップ》以外に自己強化系の魔法の使用もありとなっております! 己の動体視力、素早さ、精神力、なんだろうが上げて挑まれて結構です!」



 実況者の言葉からは、絶対の自信が感じられる。

 その自信の理由は客席からの声で理解できた。



「このゲーム、前に魔杖適性A、学帽適性Bの“予測の魔女”でもダメだったんだろ?」


「ええ。先読みしてもちゃんと押せなきゃダメ。かといって身体能力特化でもダメよ」


「ゴーグル適性Aの“鷹の目”が支援魔法もらってもダメだったらしいからな」



 ギャラリーから次々と語られる、敗北者たちの話。

 それらはまるで、俺に対して「お前もダメだ」とでも言うような口ぶりだった。



「さぁチャレンジャー! 挑戦回数は?」


「5回だ」



 再びのどよめき。

 もうすっかり、何を言っても勝手に回りが盛り上がる状態みたいだな。



「カジノカードを確認します……OK、しっかり入っております! 台座の前へ! あ、お連れの方はそこで待機をお願いしますね!」


「了解。ナナ、見ててくれ」


「……はい。ご武運を、主様」



 ナナに見守られながら、俺はスロットを動かす台座の前に立つ。

 カードの読み取りセンサーに『カジノカード』を触れさせれば、ガチャリとレバーのロックが外れる音がした。



「……《イクイップ》」



 呪文を唱える。

 瞬間、最も適切な装備適性が適応され、俺は『スーパースロット』を装備した。



「さぁ! 準備万端! ゲームスタートだぁ!!」



 実況が張り上げた大声に、この場の誰もが声を上げる。

 新たな挑戦者が勝者となるのか敗者となるのか。


 その瞬間を今か今かと待ちわびていた。


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