第049話 お仕置きと、大宣言!前編!!
俺の壮大なハッタリを前に新たに忠誠の誓いを立てたナナ。
そんな彼女が浮かべていた桃色蕩け顔が一転、今は顔面蒼白、血の気が引いていた。
いきなりのことに、俺はさっきまでの諸々を放り捨てて声をかける。
「ナナ! どうした、大丈夫か!?」
「あるじさま……」
呼び掛けに応えて彼女が視線を向けるも、そこに生気は感じられない。
「わ、わたくし、なんということを。主様の使命に必要なお金を、わたくしのわがままのために、余計に……」
「……あ」
すぐに何のことか、俺は理解する。
お金関係で彼女がやらかしたことといえば、ひとつしかない。
「ベッドを壊したことだな?」
「……はい」
「なら、何の問題もない」
「え? あっ……」
俺の方からナナを抱き寄せ、可愛い垂れ犬耳に向かって囁く。
「金額的にはとっくに黒字だ。ナナのおかげでな? それに、話を聞いた今ならわかる」
「んっ」
「怖かったんだよな?」
「……!」
ナナとのキャンプスキット会話でわかったことがある。
それは、彼女が故郷にいた頃は、愛される環境にいたってこと。
(だからこそ、孤独が苦手に、寂しがり屋になってたってこと)
あのやらかしの時、ナナには寄る辺がなかった。
さらわれて、闇市で売られて、そこから救い上げてくれた相手が、距離を置こうとした。
それがどうしようもなく嫌で、衝動的にやってしまった。それが今ならわかる真実だ。
「あんな物があるから、独りになりそうになった……だもんな?」
「わ、わぅぅ」
図星を突かれて、恥ずかしさからか真っ青だった彼女の顔に再び赤みが差す。
(今にして思えば、罰の与え方まで事前に用意してたのも、そこも踏まえて孤独になりたくなかったから、だったんだよな)
間違いなくやり過ぎてたけど、理由を知れば現金な俺はいじらしさすら感じてしまう。
それだけ彼女に必要とされているのだと、実感する。
(今はまだ、ナナがこの世界で独りになることは出来ないだろう。あの時、雑に放流するなんて選択をしなくて、心底ホッとしたぜ)
なんだかわからないなりに感じてた危うさを、今ならもっと鮮明に理解できる。
いや、今もなんか隙あれば救世の使徒様教を広めようとしそうな気配はあるけどね!?
それはそれとしてって話。
今、ナナを一人にしちゃいけない。
(一見奔放に見えるナナの振る舞いは、今は、俺が傍にいるからできるんだろうな)
孤独が苦手なナナが、俺がいるから大丈夫だと言った。
だから、どんな形であっても、俺が傍にいることに意味はある。
っていうか、誰にも文句は言わせない。
なぜなら俺が、ナナの救世の使徒様なんだから。
「ベッドの失態なんて、もうとっくの昔に取り戻してくれてる。むしろ今更その責任を感じて気後れされる方が困る」
「ぁぅ……」
「むしろ一生懸命頑張ってくれるナナには、その分報いてやらないといけないと思う」
「……わぅ」
俺なりの方法で、ナナが喜ぶ形で、孤独から遠ざける。
「俺の知る限り、ナナが一番喜んでくれるのは、俺がナナに何かお願いをすること」
「……そ、そうでございます、ね」
「というわけで……添い寝ご奉仕をお願いしようか? 今はあんな物もない、同じテントの中なんだしな?」
「は、ひぅっ、はい。あるじさまぁ……」
俺から願い事を口にすると、ナナはわかりやすく顔を真っ赤にしてうつむいた。
受けに回ったナナはどこまでも従順で、愛らしい少女だった。
っていうか、正直に言うと、ムラッと来るものがある。
(俺はこんな可愛い子を、誘われるがままとはいえ、2度も……)
………。
森の中、二人きり。
「……どうぞ、ナナを抱き枕にでも、寝入りの子守唄を捧げるオルゴールにも、いかようにも扱いください」
こちらを見つめる潤んだ瞳に込められているのは、明らかな期待の感情。
それだけで、言葉以上の何かを求められているのは明白で。
「ナナが、一番喜ぶこと……」
「………しおきを」
「?」
「……おしおきを。同じ過ちを犯さぬよう、しっかりとわたくしに、刻み付けてくださいませ」
「………」
……ははっ。バーロー。魅了耐性向上の指輪があっても耐えられるかこんなもん!
「だったら、あんな失敗は些事だったって、ナナに教えてやらないとな?」
「へぁ、あ……あるじさま……?」
ナナと一緒に依頼をこなした日の夜。
俺は彼女と改めて距離を近づけ、自分の目的を思い出し、そして。
「お望み通り。たーっぷりお仕置き、してやるからな?」
「……………………はい。わたくしの、あるじさまっ」
全力全開で、ナナが幸せになるお仕置きをしたのだった。
※ ※ ※
連環都市同盟第13の町、ガイザン。
その一角、ダンディなおやっさんが経営する冒険者の宿。
「おいおい、手ぶらで帰ってきたぜ。やっぱあの依頼は荷が重かったんだな!」
「そりゃそうだ。装備を破壊するモンスター相手に、動きがいいだけで勝てるもんかよ!」
「へへっ、何が白布だ。どうせ大した奴じゃな、あ、すいません睨まないで下さいお嬢様」
戻ってきた俺たちを迎えたのは、あの日と同じ面子からの歓迎の言葉。
そいつらに満面の笑みを向けながら、俺とナナはおやっさんの待つカウンターへと急ぐ。
ナナの前回の振る舞いと、今回の睨みが効いたのもあって、妨害はゼロだった。
「おう、お帰り。お前ら、5日も顔を見なかったから、てっきりここの事なんざ忘れちまったんだと思ってたぜ」
「ハッ、おやっさんの顔と声は中々忘れられないっての」
相変わらずダンディなバリトンボイスのおやっさんに軽口を返しつつ、俺は不敵な笑みを浮かべる。
それだけで察してくれたおやっさんは、店の他の客を見回して、俺に頷いてくれた。
OK、
「ナナ」
「はい」
俺の呼びかけに即座に返事をしたナナが、事前の打ち合わせ通り目立つよう、ダンッと音を立てて床を踏みしめカウンターの椅子の上へと飛び乗る。
突然のことになんだなんだと彼女に視線が集まれば、ナナはフードを目深に被り直して声を張った。
「この成果が、目に入らぬか!!」
ナナが腕振り示したカウンターテーブルに向かって、俺は『財宝図鑑』をかざす。
「おい、お前。何を……?」
「悪いなおやっさん。ちょっと度肝を抜かれてくれ」
さすがにここまでは予想してなかったのか声を出すおやっさんに先に謝り、俺は宝物庫からそれを取り出した。
「さぁ、これが。本物の冒険者の仕事って奴だぜ! 野郎共!!」
瞬間。
光を放つ『財宝図鑑』から溢れ出すのは、パラスラフレシアの花弁!
討伐の証であり、同時に高級食材でもあるそれを、俺はテーブルの上にドバーーーッ!っとぶちまける!!
「なっ! あの本、収納系のアイテムだったのか!?」
「そんなレアアイテム聞いたことねぇぞ!?」
「ってかおい、あれ見ろ! パラスラフレシアの花弁が……!!」
ドバーーーッ!! っと出しまくってその数、花弁5枚×200体……じゃ、終わらない!
「ぶぁっ!? カウンターテーブルじゃ収まらねぇ!」
「あ、あれ全部本物なのか!?」
「う、嘘だろ!?」
ハッハッハ! 見たか!
っていうか、あんなに楽に稼げる狩りを、一日で終わらせるわけがねぇのさ!
「おい、白布。お前……どんだけ狩ってきやがった!?」
「それは、どうせおやっさん自身が確かめるだろ? でもま、こっちでもちゃんと数えてきたから安心してくれ」
さぁ、さぁさぁさぁさぁ野郎共!
怯えろ! 竦めぇ! 自らの可能性を試さないまま店で燻り続けた自分たちを顧みろぉ!
俺とナナが、二人でパラスラフレシアを狩ってきたのは、3日間。
森の生態系を侵食するレベルで大量繁殖していたこいつらをバリバリに狩って、狩って、狩りまくってきたその総数!!
「持ってきたパラスラフレシアの花弁の数は5千枚。つまり、討伐してきたこいつらの数は……区切りよく、1000体だ!」
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