第048話 世界は、狙われている?!
意識を取り戻す。
目の前に、めちゃくちゃかわいい垂れ犬耳美少女の顔がある。
よし!
「ナナ!」
「はひゃい! あるじさま!」
俺は視線をそらさぬままナナの両肩を掴み、むしろこっちこそ穴が開くほどに見つめ返す。
「ひえっ、あ、あるじさまの視線がナナを射抜き……これは、ご褒美にございますか?」
「聞いてくれ、ナナ。俺がどうしてレアアイテムを集めなければならないのかを」
「あっ、そうでございました。ですが肩を抱くのはそのままでお願いします、主様」
「わかった!」
俺はご希望通りにナナの両肩を抱いたまま、話を続ける。
狭いキャンプテントの中、強く見つめ合うなんてロケーション。さっきまでの俺には楽しむ余裕なんてなかったが、今は違う。
(今の俺はもう、ナナの問いにバッチリ答えることができる!)
必要なのはチマチマした嘘の積み重ねではなく、大胆で派手な……ハッタリ!
「ナナ、俺が世界に混沌をもたらしかねないにもかかわらず、レアアイテムを集めるその理由は、だな……」
「その、理由は……?」
「この世界……モノワルドの、危機だからだ!!」
「!?」
俺は大きく深呼吸して、真剣な目をしてもう一度、口を開く。
「世界は、狙われている!!」
「な、なんとーー!!!」
俺の言葉に、ナナは垂れ耳がボフンッと跳ねるほどに驚きを露わにした。
「この世界が、モノワルドが、狙われているのでございますか!?」
「ああ、そうだ。近い将来……いや、遠い未来……いや、世界は狙われている!」
「なんと!」
「ナナ、これは緊急事態なんだ。いつか来るかもしれないその時のため、俺は準備をしなければならない」
「主様、それで……敵はいったい」
「そう! 敵だ! 敵がいつかやって来る! そのためには力が必要! そのための『財宝図鑑』!!」
「!?」
ずっと俺のターン!
アデっさん、技を借りたぜ!
「『財宝図鑑』を完成させ、大いなる力を練り上げなければ勝てない敵が来る。だから俺は、レアアイテムたちを、どんな手段をもってしてでもコンプリートするのだ!!」
そう、これこそが俺の考えた策!
いつか来る……かもしれないやべぇ奴がいるってことにする大作戦!
(強大な力を一点に集めるなんてのに正当性を持たせるには、そうしないと勝てない敵を作るのが一番だ。幸い俺が演じている役割は、ヒト種なんてでかい物をまとめてプラスに導く救世の使徒。だったらこのくらい派手な敵がいるってことを口にしても、許される!)
もっとも、その敵が来るのは一年後か十年後、はたまた百年後、千年後かはわからないがな!
そう、俺が明言さえしなければ、それがいつのことかなどいくらでも変えられるのだ!
確かめようがない真実の前に、暴かれる嘘なし!!
「世界の危機……確かにその前には、対抗するべき力が必要……で、ございますね」
「だろう? 俺にこのアイテムが託されたのは、間違いなくそのためだ」
いや、アイテムコンプを視覚的にわかりやすくするためだと思うけどね!
「世界の危機を前にしては、ライカンを含むすべての種族が力を合わせねばなりませんね」
「そうだ。だからナナが望む救世だって、俺の道の先にある!」
アイテムコンプさえしてしまえば、その辺だって好きにできるだろう、多分。
「本当に、本当に主様は、そんな大業をなさろうとしていらっしゃるのですか?」
「ああ。そのためならば、俺は善行も悪行も、等しく目的のために果たしてみせよう!」
そう、すべては俺のアイテムコンプリートという偉業の前の、コラテラルダメージ!
力強く拳を握り、俺は最後の一言を告げる!
「俺の救世は乱世の果てに現れる、巨悪と戦うことこそが真の本番であると!」
「……!!」
――どうだ! 決まったか!?
まるででっかい演説でもやり終えたかのような達成感を得ながら、俺はナナを見る。
「………」
ナナは、俺の後ろに後光でも見えているのかってくらい、眩しそうに見つめていた。
そんな彼女の視線に負けないよう、俺も真っ直ぐ彼女を見つめ返して、頷いてみせる。
「……主様」
ゆっくりと、俺の手を離れ首を垂れて、膝をついた姿勢を取るナナ。
「改めて、ここに誓いたく存じます。このナナ、これより主様の使命を手伝いし従者として、この身果てるまでお仕えし、主様の望むがままの存在となることを!」
「ナナ……!」
「ですのでどうぞ、わたくしにお命じください。我が手足となって、その力を搾り尽くせと!」
「ああ、頼りにしている!」
「24時間おはようからおやすみまで、食事やお風呂、褥や厠のお世話まで、すべてわたくしに任せると!」
「ああ、それは要相談でな!」
「わぅぅ」
カッコいい誓いから始まって、最後にしょんぼりしてしまったナナを見ながら、俺は。
「よしよし」
「はぁぁ、あるじさまぁ……」
万感の思いで、心に描く。
(…………計画通り!!!)
俺は難局を乗り切ったことを確信し、歓喜に打ち震える!
(これでナナは、俺のあらゆる行動の先にこの使命があると信じてくれる。そしてこの使命の真偽がわかるのは、ずーっとずーっとあとの話だ)
俺はこのハッタリを嘘とは思わない。
なぜならば、確かめようがないから!!
未来のことなんて、それこそGRクラスのアイテムでもなきゃわからないだろうさ!
「俺が行く道は茨の道だ。それでも、ナナは付いてきてくれるんだな?」
「もちろんにございます。主様。この身はあなた様の望むがまま、不要と断じられるその時までは、命枯れ果てようともお傍に侍らせてくださいませ」
「ああ。その命、俺が預かる」
うん。いつか
とはいえここまで来たらもう、ずっと俺の傍に居てもらいたいものだけどな。
「はぁぁ。これ以上の幸せは、わたくしにはございません……」
気づけばしなだれかかってきたナナが、めっちゃこっちを見てた。
お目々ぐるぐる、お口はぁはぁで、瞳の中にはハートマークすら浮かぶ勢いだ。
「主様、わたくしの主様ぁ……」
「……あれ?」
前より彼女の狂信度が上がってる気がしなくもないが、一時的なものだろう。
ほら、さっきまでの俺、マジで救世の使徒様っぽかったしな!
「ナナ。使命を果たすためにもまずは、いい装備を揃えてもっとでかい仕事をこなしてさらに金を稼ぐ。そして購入できそうなお役立ちSR、URアイテムを集めながらLRに手を伸ばしていく。道は長いぞ?」
「はい、はい……あ」
不意に、ナナの顔面が蒼白になった。
さっきまでふわふわ桃色だった顔が、そりゃもう見事に真っ青だった。
……いや、一時的なものとは言ったけど、そこまで露骨に変わったら心配するよ、俺!
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