第043話 実録!エッチなモンスターは実在した!?



「あるじさぼあっ!」



 油断大敵ナムアミダブツ


 高い枝に身を潜めていたパラスラフレシアの不意打ちの消化液が、真下のナナに思いっきりぶっかけられてしまった。



「ナナーーーー!!」



 叫びを上げる俺だが、しかし。



(実のところ、そんなに心配はしていなかったのである)



 内心では特に焦るでもなく、むしろじっくりと消化液を浴びたナナを観察する。


 理由なんて言わなくてもわかるだろ?

 でも説明しちゃう!



「パラスラフレシアは口の中に含んだ虫や獣の固い皮を溶かし、その中身をじっくりしゃぶり尽くして味わう性質をもったモンスターだ。ゆえにその消化液は皮製の物を溶かすことに特化されており、つまり何が起こるかというと――」



「ふぁ!? 主様からいただいた装備が……!」



 ドロドロの黄ばんだ消化液が流れ落ちた先で、ナナの着ていたレザージャケットとハーフパンツが、無残にも溶けてしまっていた。



「ふ、不覚……! それに、この臭いは中々に……」



 露出する下着と素肌、そこにへばりついて垂れる液体。

 独特の異臭に対して顔をしかめる被害者。



「ナナー! 大丈夫かー!」



 思わず助けに入る振りをして、より近くに移動してじっくり観察してしまうほどの完成度!



(エーーークセレーーーン!! 素晴らしい!)



 父さんは嘘つきなんかじゃなかった!

 服だけ溶かす消化液をぶちまける、エッチなモンスターはほんとに実在したんだ!!


 見てごらん!

 本当に綺麗にレザージャケットとハーフパンツなどの革製品だけ溶かしているよ!


 ヒト種の皮膚は対象外っていうご都合っぷりも含めて素晴らしい!



(このあからさまなデザインモンスター感よ!)



 創造神ゴルドバ様のセンスが光り輝いてますねぇ!

 いや、あの爺さんが本当に作ったのかどうかなんてのは知らないけどさ!


 俺、こういう遊び心のある存在って好きよ。

 地球のピンポン・ツリー・スポンジとか。




(……ただまぁ、この世界においてはマジでやべぇ能力だとは思う)



 皮装備限定とはいえ、装備破壊だ。

 モノワルドでは装備を失うことがそのまま全体的な能力弱体に繋がるし、死活問題である。

 現に、ナナの革装備はグローブもろとも瞬く間に溶け落ちて使い物にならなくなった。


 この仕事を冒険者が受けたがらないのも納得である。



 だがそれは、あくまで普通の冒険者の場合である。




「ナナ!」


「……大丈夫でございます、主様」



 呼びかけに答え、そばまで駆け寄ろうとする俺を手で制し、体をブルブル振って消化液を弾くナナ。


 再び見上げた顔に、闘志の炎はありありと燃え上がっている!



「わたくしの力は、衰えてなどおりません!」


「……わかった!」



 その炎をさらに煽り立てるべく、俺は立ち止まった場所から即座に支援魔法でナナを強化!



「ふおおおお! 主様の装備を破壊したその行為、絶対に許せません!」



 再びスーパー状態になったナナが、下着姿のままで大地を踏みしめ、跳び上がる!!

 それはさっきまでの無双状態とほぼほぼ変わらぬ力の冴えで。



「天・罰・執・行!! ……に、ございます!」



 グッと脇で力を溜めてからの、昇竜アッパー!!



「ギヴェェェェ!!」


「……成敗!」



 ナナの一撃は見事にパラスラフレシアをぶち抜いて、その花弁を爆発四散させた。



(報酬的にはマズ味だが、致し方なし!)



 レザージャケット、ハーフパンツ、グローブ……。

 破壊されてしまった革装備たちと共に、その魂に敬礼!



「……んっ!」


「ナナ!」


「主様、近づいてはいけません。この残念な臭いが移ってしまいます」


「大丈夫、コレがあるからな」



 くるくるシュタッと見事な着地を決めるナナの元へと歩み寄り、まだべたついている艶めかしいその体を鑑賞しながら、俺は清潔浄化の魔法が使えるようになる錫杖を取り出し装備する。



「《リフウォッシュ》! ……死角にも注意しないとな?」


「わぅぅ、お見苦しいものをお見せしてしまいました……」



 装備の下に着ていたスポブラとパンツを手で隠しながら、恥ずかしがるナナ。

 むしろもっと見て下さいとでも言うかと思ったが、自分の未熟故に晒してしまった姿には、羞恥の気持ちが強く沸いてしまったらしい。


 実にベネ。



「見苦しいなんてとんでもないぞ、ナナ。その姿はナナが一生懸命に頑張ってくれた証だからな」



 むしろとってもいい物を見せてもらいました。

 これを見越してUC以下の安物装備にしていた甲斐もあったというものである。


 え、だったら革装備以外の物を装備させろだって?

 バカ言っちゃいけない、これは噂の真偽を確かめる歴とした実験なんだ。



(複数ソースから情報を得ていたが、さすがに生き死にに係わる部分に嘘はないとして、実際に装備破壊が起こるかどうかは見てみたかったんだよな。本当に皮だけ溶かすのかとかな)



 そう。だからこのナナの被害については想定内、いつものあれなのだ。

 つまりはコラテラルコラテラル。


 この姿はしっかり心のスチルに保存して、今後に生かそう。

 心に保存した画像を映し出すカメラのマジックアイテムとか、ないかなぁ……。



「大丈夫。ナナは本当に頑張ってくれている。支援の切れ目だったのも運がなかった。むしろ俺の方こそ、守ってやれなくてごめんな?」


「そんな、主様が謝られることなんて何も……!」


「だったらおあいこって事で。まだまだ期待してるから、一緒に頑張ろうな?」


「主様……はい! このナナ、主様のため、モンスターたちを残らず爆砕いたします!」


「よろしい。倒し方をもう一回教えるところから再開だ」



 実験はもう十分。

 新しく動きやすい布装備をナナに与えてから、俺たちは狩りを再開する。




「目指すは100体討伐だ! 行くぞ、ナナ!」


「はい、主様!」



 見つけたパラスラフレシアたちを、バッサバッサと手当たり次第に討伐していく。


 絶滅させるのではってくらいの勢いで次々と刈り取って、刈り取って、刈り取って。


 木々の隙間から覗く空が茜色になる頃に。



「これで、200体目でございます!」


「っしゃあー!!」



 俺たちは予定していたその倍の、パラスラフレシアを討伐したのだった。


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