第042話 対決パラスラフレシア!
「キシャアアアアア!!」
大樹に纏わりつくように寄生している植物型のモンスター、パラスラフレシア。
太い蔓で大樹の厚い木の皮をミシリと締めつけながら、直径1mを越える大きな花弁の頭を振るい、襲い掛かる。
「お覚悟を!」
そんな相手にナナは、俺からの支援魔法の力と自身の高い身体能力を武器に、真正面から果敢に挑みかかる。
「フッ……やぁぁぁ!!」
「ギッ……!?」
得物は持たずに防具だけは装備した状態で肉薄した彼女は、振るわれた花弁を身を低くしてかわすと、その裏へと回って腕を振るい、その膂力でもってモンスターを両断した。
彼女が手刀で断ち切ったのは、まさしく俺が指示した花柄部分だった。
ボトッ。ビシャアッ。
花弁の中央、ウツボカズラの袋みたいになってる口の中から液体を零しつつ、花が地に落ちる。
次いで大樹に絡んだ蔓が、まるで切られたトカゲのしっぽのようにビクンビクンとのたうつと、すぐに力なくほどけて大樹を束縛から解放した。
「やりました!」
「でかした!」
勝った! 異世界ストリップ第二部・完!!
「この調子で今日は狩りまくるぞ!」
「はい!」
異世界ストリップ第二部・再開!
「次はあそこだ!」
「お任せください、主様!」
飛び出したナナを見送り、俺は一人、口角を吊り上げる。
(よし、よしよしよし! 強化したナナだと一確! これは、超効率だ!)
予想以上の成果に、いっそ三段笑いすらしそうになる。
なぜならば。
(花弁部分ノーダメージでキルした時の、1体あたりの報酬額は基本400g(ゴル)。それが報酬吊り上げ効果で5倍の2000g! 他の部位も回収して持っていけば+300g!)
1匹倒すごとに2300g! つまり――!
「2匹目、でございます!」
たった今、ナナが綺麗にやっつけたパラスラフレシアの分も足せば! 達成!
「はーい。昨日破壊したベッドの弁償代を払っても、元が取れまーす!」
そしてご覧、この森の風景を!
「キシャアアアア!」
「キーシャッシャッシャッシャ!!」
「キシュアァァァ!」
「エゾゲマツ!!」
見渡す限りの
「ボーナスステージ過ぎんだろいやっふぅぅ~~~~!!」
歓喜に飛び上がった俺の視界で、ナナが3匹目のパラスラフレシアを両断した。
※ ※ ※
パラスラフレシアの花弁は、高級食材である。
俺がそれを知ったのは、豪遊お食事会でメインディッシュのトカゲの肉を食っている時だった。
「うおっ、なんだこのメニュー。マジか!?」
サービスの飲み物を追加で頼もうとした時に目にした、パラスラフレシアの花弁ステーキ。
そのお値段なんと、時価!
だから店員さんにそれとなく聞いてみたところ、その時のお値段は……。
「希少な食材ですので今ですと……」
(今食ってるコース料理が500gくらいだし、300gあたりかな?)
「……一皿1200gでございますね」
「ぶーー!」
思わず飲んでいたレモンジュースを噴いちまったくらいだ。
なお、噴いたレモンジュースはから揚げにかかったのでセーフ。セーフじゃない(マヨ派)。
んでそこからあれこれと話を聞いて、調べて、依頼の存在を把握。
ただその時は、この依頼に存在するリスクを回避する手段が思いつかなくて、解決策を模索する間にオークションの日がやってきて……。
「――そしてすっかり闇オークションへの期待で頭がいっぱいになった俺は、気づけばその依頼自体を綺麗さっぱり忘れてしまった……ってワケ」
その後、ナナを仲間にすると決めた翌日くらいに思い出しました。
「とぅ、たぁっ! やぁぁぁ!!」
襲い来るパラスラフレシアたちの花弁頭を掻い潜り、次々と仕留めていくナナ。
時に地を這い鋭く駆け抜け、時に大樹を駆け上り、半月を描いてジャンプする。
その雄姿はまさしく、スーパーナナ無双。
レザージャケットにハーフパンツ姿の垂れ犬耳の美少女が、ダイナミックに尻尾を振り乱して戦う様は、実に良いものだった。
もう一度言う、実に良いものだった。
「いかがでございましょう、主様!」
「おー! 中々やるもんだー!!」
見える範囲の敵を壊滅させて戻ってきたナナを、俺は拍手と共に褒めたたえる。
「わたくし、お役に立っていますか?」
「立ってる立ってる。正しく本懐って感じだな。この調子で頑張ってくれ」
「はい! お任せください! それでは!」
「いってらっしゃい! ……いや、すごいな」
ぶっちゃけた話、パワーはあるとは思っていたが、ここまで戦えるとは予想外だった。
支援込みだというのを差し引いても、あの激しい立ち回りは最低でも格闘用グローブ装備の装備適性Cくらいはある気がする。
つまりは『ゴルドバの神帯』抜きならガッチリ装備した俺と張り合う動作だ。
動きをまったく阻害せずに視覚、聴覚などの五感を強化する装備があんまりないことを鑑みると、俺、負けちゃうかも。
それにもっとこう爪を伸ばしたり牙を立てたりするのかと思ったが、存外ちゃんとした格闘術っぽい感じで戦ってるのもびっくりポイントである。
(ライカンってのは種族自体が生まれついての戦士、ってことなんだなぁ)
装備を手にしたヒト種とはまた違う、しなやかにして野趣に溢れた豪快な戦いっぷりに魅了される。
(っていうか、小柄なナナでもここまで戦えるって、ライカンすごくね?)
ガチムチの戦士だったら下手すると装備適性Bくらいの強さを余裕で発揮するのかもな。
闇オークションで見たライカン兄貴とか、ゴリッゴリのマッチョだったしヤバいな。
(一般人レベルでこんだけ動けたら、自分たちこそが最強! って、思い込んじまうのも納得かもなぁ)
生まれながらの強者であったライカン。
そんな力を持つ者が抱いてしまった傲慢。
(それが結局、発展したアイテムっていう別の力によって滅ぼされてしまうわけだから、悲しい話だ)
アイテムの発展こそがモノワルドの本筋っぽいし、破滅は歴史の必然だったのかねぇ。
(いずれにせよ、ナナも含めたライカンたちにとっちゃ、今は地獄みたいな時代だよな)
かつてこの地一帯で栄華を誇るも、今は亡き獣王国ファート。
過去の栄光は遠く、今は敗者の宿業を子孫らに残すのみ。
あ。
(滅んだ国の王都とか、なんかレアアイテムありそうな気がする。いや、絶対ある!)
俄然興味が沸いてきた。
獣王国ファートの王都……要チェックや!
「主様ー! ナナを、ナナを見てくださーい!!」
おっと、考え事しすぎてちゃんと見てやれてなかったな。
ご主人様として、ちゃんと見てやら――。
「………」
こっちに呼びかけるナナの頭上に、お口を開いたパラスラフレシア。
「あるじさまー! おや、急に体が重く……?」
ちょうど支援魔法の効果が切れた、我が従者。
「ナナーーーー! 上、上ーーーーーー!」
「え? あ!」
見上げたところでもう遅い。否、見上げちゃったからモロだった。
「キシャボェェェェェェーーー!!」
「ーーーーッッ!!」
ナナの全身に襲い来る、パラスラフレシアのお口の中身。
デロンデロンでドロッドロの粘性を持った、ちょっと黄ばんだ透明の……消化液。
「ナナーーーー!!」
叫ぶ俺の声も虚しく。
「あるじさぼわっ!!!」
消化液はナナの全身に、容赦なく浴びせられてしまったのだった。
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