第041話 イカ〇た従者と森の怪物たち!
昨日、依頼を受けた日。
俺は確かに彼女、ナナのために救世の使徒様ロールを頑張る的なことを思った。
「主様。はい、あーん」
「あーん。んぐんぐ」
「いかがですか? 急ごしらえではございますが……」
「塩気があって、疲れた体によく効いて美味い」
「それは何よりでございます。ではもう一口、あーん」
「あーん」
だが今、圧倒的既視感と共に感じているのは、疑問である。
「ささ、お飲み物もこちらに」
「ありがとう」
「いいえ、これは従者として当然のことでございます」
これは……救世の使徒として正しい在り方なのか、と。
ヒュロイ大森林。
ガイザンの東の森を抜けたさらに東にある、旧獣王国領だった広大な森林地帯。
そこ……の目の前で今、俺はナナのお手製弁当を手ずから食べさせてもらっている。
(というか、俺が箸を持つことを許されていない……)
自分用の箸を持とうとしたら、すっごい悲しそうな顔をされたのでこうなった。
「主様。こちらのコッコのから揚げもどうぞ。あーん」
「あーん。んぐんぐ……美味い」
「お褒めいただき、ナナは幸せにございます」
「うん。美味い。美味いからそろそろ俺の箸で食べた……うっ」
「主様は……わたくしのあーんでは、やはりご満足いただけないのでございましょうか?」
きゅーんきゅーんなんて効果音が出てそうな、ウルウル顔で見つめられる。
「どうか、どうかわたくしに、あーんをさせてくださいませ。お仕えさせてくださいませ」
「う、ぐ……わ、わかった」
「ああ、ありがとうございます! 全身全霊をもって、あーんさせていただきますね」
そして押し切られ、再び始まるあーんプレイ。
(いや、料理はどれも美味しいし、愛情たっぷりなのはわかるんだよ)
でもなんかこれ、場を支配されてる感があるというか……管理されてる?
「はい、ダマタマネギとトンビーフの炒め物にございます」
「あーん……んぐんぐ」
「ふふっ」
まぁ、ナナが楽しそうにしているし、このくらいは――。
「ふふふ、主様にわたくしの手ずからを受け入れお食事していただけている。いずれはおはようからおやすみまで、すべてをこのわたくしの手で……主様に24時間のご奉仕を…………」
「………」
人それを、奉仕管理型ヤンデレという。
「よし、あーんはここまで! あとは自分で食べる!」
「そんなー」
殺生にございますーとか引っついてきてもダメです。
「わぅぅ……諦めません。いずれは……きっと……!」
「………」
――拝啓、ミリエラ。
幼い頃、君に抱いていたバッドエンドフラグ。
あれは勘違いだったけど、今もまだ、ここにあるよ。
「主様。いつでもご奉仕いたしますので、何なりとご用命くださいね」
「ウン、ワカッタ」
この天使の笑顔に頼りすぎてはいけない。
俺は心に刻んだ。
「どのようなご要望にも応え、わたくしのすべてでもって主様を幸せにいたします。ですから……ね?」
「さぁ! 飯を食ったからにはいよいよモンスター討伐だぞ! ナナ!! 張り切っていこう!」
俺は、可愛い垂れ犬耳っ娘従者の誘惑になんか絶対に負けない!!(二敗)
※ ※ ※
腹を満たしていよいよヒュロイ大森林の内部へ。
昼間だっていうのに少し暗い森の中は、いかにも魔物が棲んでそうなおどろしさと……。
「差し込む光が美しいですね。主様」
「だなぁ」
背の高い木々のあいだから差し込む白い光と、辺り一面に生え渡っている苔の緑とが織りなす、目を見張るような美しさがあった。
「だが、ここにはモンスターがいる。油断しないで行こう」
「はい。主様……!」
「そんじゃ、しっかり装備を《イクイップ》したら、本格的に突入だ」
「前衛はお任せください」
今回主力になるナナは、動きやすさを重視した皮製のジャケットとハーフパンツという軽装。素手でいいと言われたから武器は持たせてないが、防御の足しに皮のグローブを装備させた。
支援役の俺は森歩き用のブーツに帷子、そして布製のクロークを装備してから、支援魔法への補正がかかる補助杖を構える。
大体が
いわゆる万が一の保険という奴だ。
「さぁ、一気にやるぞ」
「はい!」
「物防向上、《マテリアップ》! 抵抗向上、《レジアップ》! 敏捷向上、《カソーク》! 筋力向上、《マッソー》! そして補助杖適性Aの大魔法、
対ミリエラ用に修練を始め、研鑽を積み続けた俺の支援魔法を見よ!
「ふぁ、あ、あああああーーーー!! 主様の想いが伝わって、力が、湧いてきます!」
なんかいい感じの光の粒みたいなのをいっぱいぶわーって出しながら、ナナが強化された。
そうとしか言いようがないが、とりあえず喜んでぴょんぴょんするナナは可愛い。
「……参ります!」
超強化されたスーパーナナが、元気よく突撃する。
身体能力お化けのライカン+支援魔法すごい、もう視界から消えそうだ。
あ、止まった。
ぴょんぴょんしながら手を振っている。可愛い。
「《カソーク》、んで《オールゲイン》……待て待てー」
彼女を見失わないよう、俺も速度を強化して、そのあとを追う。
目的地であるパラスラフレシアの群生地帯はもう少し森の奥だった。
ので、以下はその道中のダイジェストである。
「どけどけーどけどけー邪魔だ邪魔だ邪魔だー!」
「ギギィ!?」
チンケゴブリンA、B、Cが現れた!
「行け! ナナ!」
「お覚悟を! はぁー!!」
「ギギェーーー!?」
チンケゴブリンA、B、Cを倒した!
「どかねぇとぶっ飛ばすぞばーろぅこんにゃろーめ!」
「シャアア!!」
パープルヴァイパーが現れた!
「パンチだ! ナナ!」
「お任せください! がおーん!!」
「シャギャアアアア!?」
パープルヴァイパーを倒した!
「悲しいときー! モンスターが邪魔してきたときー!」
「ガオオオオオ!」
アイアンヘッドベアーが現れた!
「ナナさん! こらしめてやりなさい!」
「合点でございます!! フッ!!」
「がおっ? グボォォォォォ!?」
アイアンヘッドベアーを倒した!
「……やりました!」
「グッドジョブ、ナナ!」
快調、快勝、絶好調!
今のナナは、まさしく小さなダンプカー。
強化された彼女を止められるモンスターなんて、いないんじゃないかってくらいの突破力だ!
最後の奴なんて、一瞬だけ何が起きたのかわからない間があって、その直後に敵の体が「ドムゥッ!!」って浮いたからね。
俺の従者がクマを腹パン一発で倒した件について。
「よーしよしよしよしよし、えらいぞー」
「わふぅぅぅ! こんなになでなでされて、ナナは果報者です」
快進撃のナナをたっぷりと労いながら、ライカンパワーに感動する。
《イクイップ》なにするものぞ、とばかりの装備を問わない高い戦闘能力に感嘆しきりだ。
味方として活用できるなら、これほどまでに便利な前衛もいないだろう。
(俺の場合はさらに支援魔法で強化できるから、マジでラクラクチンチンよ)
装備適性の関係で魔法は不得手のナナに、俺の支援は鬼に金棒! 圧倒的暴力!
たとえUCの革装備でも、黄金の鉄の塊であるナイトにだって後れを取ったりはしない!
「主様! 主様は本当に何でもできるのでございますね! 素晴らしいです」
「はっはっは、何しろ装備適性オールAだからな」
「惚れ惚れしてしまいますね、主様。グズグズの赤ちゃんになってしまうまでお世話がしたいです!」
「傾国の美女かな?」
あくまで『ゴルドバの神帯』あってのスペックだが、使いこなせるよう努力してる分くらいは俺の功績にしてもいいだろう。
おかげでこうして、色々な役割を担えるオールラウンダーがこなせるんだしな。
「さぁ、ここからが本番だ。あれを見てみろ」
「……あれは!」
ここはもう件のモンスターの群生地。
樹齢100年は余裕で越えてそうなぶっとい大樹たちが立ち並ぶ森の深部。
俺の指さす先に、そいつはいた。
「ジュルル、ジュルルルル……」
大樹にぐねぐねと蔦を絡ませ寄生している、でっかい花弁の植物型モンスター。
花の中央がまるで大口のようになっているそいつは、今まさにパープルヴァイパーをもっちゃもっちゃと咀嚼していた。
「あれが討伐対象の……パラスラフレシアだ!」
「……プェッ! キシャアアアアア!!」
相手もこちらに気づき、パープルヴァイパーを吐き出して威嚇する。
「ナナ、あいつの花弁はいい金になる。やるなら
いよいよ今回のメインイベント。
俺の問いかけに、ナナはこちらを振り返ると、ふふんっ、と得意気な笑みを浮かべた。
「今のわたくしならば、造作もありません。主様のご支援を受けた、このわたくしならば!」
「よーし、それなら……やっちまえ、ナナーー!!」
「お任せください! すべては主様のために!!」
「キシャアアアアア!!」
飛び出すナナ、迎え撃つパラスラフレシア。
こうして仄暗いヒュロイ大森林の深部にて、戦いの火ぶたは切って落とされたのだった!!
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