第044話 上手に剥げました!
夕暮れのヒュロイ大森林。
「いやぁ、壮観壮観」
「すさまじい成果にございます。主様」
狩りを終え、俺とナナは自分たちで刈り取ったパラスラフレシアたちを積み上げていた。
その数にして202体。
目標数の倍以上を討伐し、まさしく大成果と呼ぶにふさわしい結果を挙げていた。
「わたくしが、これほどまでに戦えるとは思ってもおりませんでした。これもすべては主様のご支援があってこそ、でございますね」
「そんなことはないぞ、ナナ。ナナのライカンとしての身体能力あってこその結果だ。俺一人じゃこの時間でここまでの討伐数は稼げなかったさ」
「わう。光栄にございます」
金属装備では行きにくい森の奥、そこにいる皮装備を破壊するモンスター。
こんな厄介なオーダーをこなすには、装備がなくても戦える
かつてこの土地をライカンが支配していた、というのにも繋がってくる話だと思った。
(現に……ライカンの国が滅んでからほとんど放置されてた弊害が出てるもんな……)
耳をすませば、ここよりさらなる森の奥から、あのキシャア声が聞こえてくる。
天敵の減ったこの場所は、今や彼らにとっての楽園になっているのだろう。
ま、おかげでこうやって美味しい思いをできたんだけどな!!
(1体につき2000
目の前で山と積まれたモンスターの死体が、光り輝いて見えるぜ!
「さぁ、素材を集めるぞ」
「かしこまりました、主様!」
危険な森の夜を前にして、だがしかし俺たちは、迷うことなく剥ぎ取り作業に取り掛かる。
目の前の宝の山を、一秒でも早く手に入れたかった。
※ ※ ※
ここでひとつ、真面目な話をしよう。
モノワルドでは、人の手が入ってない未加工な物を《イクイップ》することはできない。
その辺の石ころをただ拾っても投擲武器適性の補正は得られないし、いい具合の木の棒を拾っても強くはならない。
たとえば石を割り尖らせる。たとえば木の棒を削り持ちやすくする。
水を器に満たす。野菜を、肉を、切る、焼く……つまりは料理する。
そうやってヒトの手により、何らかの意図をもって一定以上の加工を施されたとき、初めて世界はそれをアイテムと認めるのだ。
(じゃあ、それら加工前のアイテムではない物を何というのかっていうと、それが……)
素材。
アイテムの元となる物。それらをモノワルドでは素材という。
モノワルドの人々は、神が用意した自然に存在する基本的な物質、モンスターなどの生物の一部など、そうした素材を用いてアイテムを作り、繁栄してきた。
そしていつしか作ったアイテムすら素材にして組み合わせ、より素晴らしい物を作り上げるようになった。
今のモノワルドは、そうした歴史の先に立っている。
「素材集め、こういう地道な作業もいい……たまらん」
花弁を傷つけないように毟り、口の中の液体を回収し、蔦を巻き取ってまとめる。
そんな繰り返しの作業が実に心地いい。
延々と弱いモンスターを倒し続けて経験値を稼ぐような、そんな楽しさを感じる。
「ふぅむ」
「どうした、ナナ?」
鼻歌でも歌おうかとしていたところで、ナナのため息を聞く。
「主様。こちらの花弁は、残念ながらあまり品質が良くないようでございますね」
「わかるのか?」
「はい」
見れば確かに、彼女の手には、少しだけ萎れた様子の花弁が抱えられていた。
「わぅぅ……わたくしが、もっと上手に素材を管理できればいいのですが」
しょんぼりしながらナナが言う通り、素材には、アイテムとしてのレアリティとは別に品質による分類がある。
それらの良し悪しは、見る人が見ればだいたいざっくりと判別できる程度で、『鑑定眼鏡』(欲しい)の例と同じく、SRアイテム『鑑定ルーペ』(こっちも欲しい)を装備すると使えるようになる鑑定魔法――《アナライ》を使うことで、よりハッキリと確かめられるという。
「『鑑定ルーペ』は冒険者の宿のおやっさんが持ってるからな、素材の品質に嘘はつけない。なるべくいい状態でもっていかないとな」
「わぅ……」
「とはいえ、そんなに肩肘張る必要もないさ。これも練習。装備至上のモノワルドでも、技術の研鑽は馬鹿にできないんだからな」
「……はい! 主様!」
閑話休題。
《アナライ》を使った際に表示される品質は、5段階。
ざっくりと悪い、普通、良い、といった一般的な見方に対して、この5段階評価ができれば素材鑑定士として一丁前にやっていくことができるのだとか。
それら5段階品質の名称と世間の一般認識は、低評価から順に以下の通りである。
MISS :ダメ(ほぼ出来に期待はできない)
BAD :悪い(数をこなす練習用にはなる)
NICE :良い(ここがスタートライン)
GREAT :素敵(十分にいい物ができる可能性がある)
PERFECT:完璧(限界を超えられるかもしれない)
……これを知った当時の俺の心境を、ここでもう一度口にしたいと思います。
「シャンシャンしてきた」
「わぅ?」
「何でもない。ほらそこ、消化液こぼれそうだぞ?」
「ひゃあ!」
「気をつけろー? いい具合に回収出来たら追加報酬なんだからな」
これらの品質は素材の保存、取り扱いの仕方によって変動し、加工先のアイテムの出来にも影響する。
当然品質の良し悪しで買取金額にも変化があるから、モンスター素材を集める専門のハンターたちなんかは、大体が優秀な素材回収のプロたる解体屋をお供として連れ歩いているのだとか。
(高度な技術者ともなると、まるで楽器を演奏するかのようにリズミカルに、そしてテクニカルに解体を行なうらしい……そりゃそうだ!!)
つまり、解体屋のプロの技とはシャンシャン。シャンシャンなのだ。
そう思ったら、なんか俺にもできる気がしてきた!
いや、そもそも、だ。
(解体屋ってのは剥ぎ取り用ナイフ、解体用の鉈や斧、素材入れの袋。そういったアイテムに適性を持った奴がなるらしいが……それはつまり)
すべての装備適性をAにできる俺の手をもってすれば!!
「……よし!」
俺は『財宝図鑑』の宝物庫から、解体に使えそうな装備を全部取り出し周囲に並べる。
「ナナ、手本を見せてやる」
「え?」
BGM、演奏準備!!
「……なっ!? これは!!」
見よこの手腕!
圧倒的素早さでもって次々と素材を分別、適切な処理を施し保存運搬しやすい形にまとめる!
(花弁は売る! 瓶詰消化液は所持! 蔓も半分は所持、残りは売っ払う!)
リズムアイコンをTAP! TAP! ロングノードを長押し! スライド!
「うおおおおおお!!」
「解体道具の流れるような使い分け、そしてそのどれもを目を見張る技術で操っておられます! これが、これがわたくしの……主様!」
うぉん! 今の俺は某チート薬師アニメのバンクシーンだ!
リズムに合わせて揺れるモフモフは最高だぜ!
(たとえ『鑑定ルーペ』がなくても、俺にはわかる!)
リズミカルに動きまくるこの手が紡ぐのは、PERFECTの文字ばかりだ!
「フッ、完成だ」
フルコンボだドン!
っということで、あっという間に素材の確保は完了した。
うず高く積み上げられていたパラスラフレシアの死体は、今はもう、パーツごとに分けられ綺麗に仕分けされていた。
「お見事、お見事にございます、主様。ナナは、ナナは心より感服いたしました!」
「ナナは元々体の使い方が上手いから、知識を学べば自分でもできるようになるからな」
「はい!」
(モノワルドじゃ軽視されがちだが、実際に研鑽を積むことだってかなーり大事(俺調べ)だからな。特にライカンはその辺ダイレクトに影響するだろうし)
お目目キラキラ大興奮のナナの頭を撫でてから、最後は宝物庫に素材を詰めた袋をぶち込んでフィニッシュ。
手荷物すら作らない、まさに俺だからこそできる力を示す。
「わたくしの主様は、本当に、本当に規格外なのでございますね……!」
「もちろんこれも、みだりに人に話しちゃいけないぞ?」
「はい!」
主様としての威厳も示せて実によきかな。
これが救世の使徒らしいかどうかは知らんけど。
「あぁ、主様ぁ……」
ナナが嬉しそうなので、今はそれで良し!
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