第036話 救世の使徒ってなんですか?
前回までの! センチョウ様は!!
楽しい闇オークションを堪能したのも束の間、衝動買いで奴隷の犬耳っ娘を購入!
冷静に考えて、調べればわかることをわざわざお金を払って確認し、物の見事にお空振り!
その上眠いと雑に装備を解除したからさぁ大変! 買った奴隷でトラブル発生!
どうしてこの子は一緒のベッドで全裸になって寝ていたのか!
どうしてこの子はセンチョウ様のことを救世の使徒様などとお呼びなのか!
センチョウ・クズリュウ様の運命やいかに!!
「……と、いう流れでございます。千兆様」
「さすがアデっさん! わっかりやすぅい!」
でも、俺の失敗したところまで説明する必要なかったけどな!!
と、言うことで。
俺は今、『財宝図鑑』の中にある宝物庫にいる。
集めたアイテムが綺麗に整頓され陳列している様は、実に俺好みの光景だ。
それもこれも、この場所の管理を代行してくれている彼女――天使のアデライードのおかげである。
「しかし、中々に見事なご判断だと思いますでございます。千兆様」
「いや、とっさのことで必死だったから、褒められるようなもんじゃないって」
「いえいえ、今回のように大いに混乱なさった時は、迷わずこちらへ意識を飛ばしていただければ、時の流れの違いからゆっくり冷静にお考えを巡らせることもできましょう」
「そこまでいつでも冷静に判断できりゃいいんだけどなぁ……」
そう。
俺は
寝起きの頭に突然の全裸土下座&忠誠の誓いなんていうヘビーブロウを叩き込まれて、何が何だかわからなくなったのだ。
正直、アデっさんのまとめ説明を改めて聞いても、やっぱり意味が分からない。
これは多分、寝起きの頭が考えられないとかじゃなく、状況が本当に理解不能なんだろう。
買った奴隷を開放して寝たら、翌朝に救世の使徒様と呼ばれて服従を誓われた。
一宿一飯の恩義で語るには、ちょっと重たすぎる気がする。
「……いい買い物をしたでございますね」
「どこが!?」
「生涯をかけて千兆様のサポートをすると誓う美少女。それがたったの1万gポッキリで手に入ったのですから、いい買い物では?」
「えぇ……」
そこだけ引き出せばそんな気がしなくもないが、あまりにも不穏な呼び方と、何より一晩での変わりようは明らかに異常に思えて賛同しづらい。
救世だとかはそれこそ勇者様にでもお任せして欲しい。
俺はあくまで、アイテムコンプリートを目的としている人生の謳歌者だ。
「……まぁ、彼女がどう思ってそう口にしたのかは、千兆様ご自身がご確認すればよいことなのではないかと、このアデライード愚考いたしてございます」
「そう、だよな」
ロリの全裸土下座のインパクトから、ようやく心も落ち着いてきたところだ。
しっかりナナと向き合って、お互いにいい道を模索しよう。
冷静になって話し合えば、答えは見つかるはずだ。
「では、きっちりと垂れ犬耳ロリッ娘狂信者ちゃんのスチルを回収していらっしゃいませでございます」
「……って、やっぱその手のやべぇ奴なんじゃねぇかうおおおおおお!!」
ツッコみ終えるより先に、俺は宝物庫から追い出される。
っていうか、ここの所有者俺なんですけど追い出す権限そっちにあるの!?
どんだけ好き勝手してくれてんだアデっさーーん!
さーん! さーん……!
……!
「………」
意識を取り戻した俺は、改めて目の前の景色に目を向ける。
愛らしい見目の全裸少女が、それはそれは綺麗で完璧な土下座を披露している。
揺れる尻尾は丸いお尻の上に目線を誘導し、ピクピクと動く垂れ犬耳は俺の呼吸音すらも聞き逃すまいとしていて。
「あー、ナナ?」
「はい。何でございましょう、主様?」
とりあえず主様と呼ばれることについてはツッコまないで、願いを告げる。
「とりあえず、服を着てくれ」
「あぅ……お見苦しいものをお見せしてしまい、大変申し訳ございません……」
いえ、大変眼福でした!
同時に、めちゃくちゃに目に毒でした!!
ありがとうございます!
※ ※ ※
「どうしてわたくしがセンチョウ様を救世の使徒様と呼ぶのか、でございますか?」
服を着たことで多少落ち着いてくれたのか、俺の質問はナナに聞き入れられた。
「それは、センチョウ様が救世の使徒様だからにございます」
そして、はにかむような笑顔で返ってきた答えがこれである。
うん! わからん!!
「そもそも救世の使徒ってのは何なんだ?」
「……ああ、確かに。その呼び名はわたくしたちモノワルドの民が勝手にそう呼んでいるだけでございます。ゆえに、ご当人にとってその言葉が聞き馴染みのないのも当然のことでございましたね。巫女として恥ずかしい振る舞いをいたしました。申し訳ございません、主様」
「事情に詳しい人特有の理解の仕方」
何も知らん人にとっては何を言っているのかちんぷんかんぷんな奴。
「さっぱどわがんね」
「では、改めてご説明させていただきますね。主様」
ということで、ナナから教えてもらうことにした。
救世の使徒とは、いわゆる前世世界の聖書に出てくるような、えらい天使様的存在らしい。
モノワルドにおける最大宗教である財宝教の聖典の複数の節に、この救世の使徒の物語があるのだそうな。
その活躍の内容は、ヒト種同士で致命的な争いが起きそうな、あるいは起きたときに財宝神から遣わされ、その解決に尽力するというもの。
聖典の中でも人気のエピソードで、絵本にもなっているらしい。
「わたくしは幼い頃からその絵本が大好きで、よく母にせがんで読んでもらっておりました」
「へぇ」
「中でも物語の中で救世の使徒様にお仕えする巫女がおり、その献身と勤勉な振る舞いには見習うべきところが多いと……」
「ふむふむ。んじゃその丁寧口調は巫女さんリスペクトなわけだな」
「はい。いつか救世の使徒様とお会いした際に、立派な巫女としておそばに侍るためにと」
孤児院の授業は実利中心で、こっちの方の教育はほぼほぼなかったから、ナナの語る話は新鮮だった。
製紙技術もばっちりなモノワルドでは、本は比較的安く手に入る物で馴染み深いが、実のところ俺はそんなに本は読んでこなかった。
救世の使徒の絵本も孤児院の書庫をちゃんと探せばあったのかもしれないが、本を読み漁れる年になった頃にはもうミリエラ対策に必死で、それどころじゃなかった。
それでも思い返せばあの書庫、魔法の練習とかそういう本ばっかだった気がする。
「で、そんなとんでもないことをするすごい人が、どうして俺なんだ? 言っておくが、俺は天使じゃなくてただの只人種(ヒューマ)だぞ?」
天使ってのは仕える神にツッコみナックル入れたり、宝物庫の中でフリーダムに振る舞うような人たちのことを言うんだぞ。俺とは違う。
「はい、それはもう……昨晩しっかりと確認させていただきました」
……うん。いい笑顔!
「そっかー。手段と何を確認したのかについては聞かないでおくなー」
「主様は世に無用な混乱をもたらさないようヒト種の、それもあらゆる種と交わり未来の調和の子をなすためにヒューマの姿をとっておられるのだと、しっかりと理解しております」
「そっかー。ナナが想像力たくましいってことだけはよくわかるぞー」
「ですので、もしも主様がお望みとあれば……諸々に至らぬ身にはございますが、主様のお子を宿すための覚悟は、すでにできてございます」
「そっかー。それはとっても魅力的……って、いやいや待て待て」
「ご安心を、主様。わたくしの不勉強は、どうぞこれよりあなた様がわたくしを染められる余白だと思っていただけましたら幸いです」
気がつくと、俺はナナに言い寄られてベッドの上で押さえ込まれそうになっていた。
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