第032話 ライカンの少女奴隷!
ステージの上に立たされた垂れ犬耳の美少女。
一目見れば分かる愛らしさに、俺は目をみはり彼女を観察する。
(
年の頃はまだ幼く、10歳を越えてひとつかふたつ、といったところか。
セミロングの白金の髪は艶やかで、その上から垂れた犬耳が愛らしい。
華奢な体の割に体幹はしっかりしているのか両の足でしっかりと立ち、しっぽを膨らませている。あの毛並みっぷりからして、なかなかのモフリティがありそうだ。
商品だからだろうか、ロリータ衣装に身を包んでいるがどこか動き辛そうにしており、それ以上に少女は全身震わせ、怯えている様子だった。
それがまたなんとも、俺の中にある嗜虐心だか庇護欲だかをくすぐって――。
(……かわいいな、かわいい。とてもかわいい)
そんな彼女を、司会のミッチィはライカンの少女奴隷だと紹介した。
奴隷。
人でありながら誰かの所有物となった者。人としての権利が色々奪われる。だいたいエロい。
byウェキペディア
(奴隷! そういうのもあるのか!)
いざ紹介された“商品”に対して、俺は感動を覚えていた。
前世の社会においては、世界的にそんな立場の人を作っちゃダメよと言われている存在。
しかしこと創作物において、それはもうネタとして擦られまくった存在でもある。
誰かを支配したい、誰かに支配されたい。
そんな背徳的な願望を満たすために、奴隷と所有者の関係性はうってつけなのだろう。
俺が嗜んでいたゲームでも彼らを雇って軍勢にしたり、逆に開放していったりと、様々な立場で向き合ってきた存在である。
その実物をこうして目の当たりにして、俺は大いに驚き、そして心を動かされていた。
前世がどうあれ、俺に今、目の前にあるものを否定する気はない。
むしろこうして商品として出てきた以上、『奴隷』を装備できるかどうかの方が気になるくらいだ。
まぁ装備できるとしてどんな能力が上がるのか、皆目見当がつかないけどな!
(それにしても、闇オークションで競売にかけられる垂れ犬耳の美少女奴隷か。……まさか本当にお目にかかれるとはなぁ)
いかにもなシチュエーションでの出会いに、なんだか俺は運命のようなものすら感じていた。
だが、そんな俺の感動とは裏腹に、周りの反応はあまり芳しくなく。
「おいおい、よりにもよってこの時期にこれかよ。正気か?」
「さすがに手は出せねぇって、こんな厄ネタ」
「だよな。アリアンド王国が今やってる政策を知らねぇ奴はいねぇだろ……」
口々に不安そうな言葉を吐いては、あんなに可愛い少女を見るのすら嫌がっているほどで。
それは想定していたのか、ステージ上のミッチィも苦笑いしていた。
(まぁ、それはそう)
俺だって首を縦に振る。
北の大国アリアンド王国は現在、ライカンに対してある政策を実行中なのだ。
「この少女奴隷だってきっとそうだろ?」
「間違いない、獣人狩りから掠め取ってきた奴だ」
獣人狩り。
数年前から施行された、イスタン大陸各地に生きるライカンを、探して捕らえて連れ去っていく、恐るべき政策である。
これこそが、俺が今日まで彼らを見たことがなかった理由であり、今ステージの上の女の子が商品となっている原因だった。
「あ」
そこに来てようやく俺は、彼女の首に取りつけられている首輪が、さっきのライカン兄貴の物と同じだと気がつくのだった。
※ ※ ※
「いかにもいかにもこの少女。獣人狩りに追われているところを掠め取り、そのまま運び出してにございます! 追手が怖い? ですがご安心を! その際に彼女の父母を獣人狩りに差し出し、公的には死んだものとして彼女は扱われるよう取り計らっておりますゆえ!」
まったく悪びれた風もなく、ミッチィが少女の来歴を説明する。
すでに死んだ者であるのなら、どう扱ってもいいのだという意図がそこには込められていた。
だがそんな彼の商品アピールもむなしく、客たちの反応は鈍い。
「……80年前の戦争で滅んだ獣王国ファートの生き残り狩りか。今更それが再開するとは思ってなかったもんな」
「新体制を敷いた王国の国是が世界制覇らしいからな。その一環として後顧の憂いを断ちたいんだろう」
「だが獣人狩りといっても生け捕りだろう? 実際は何か別の用途に使おうとしているらしいぞ」
「物騒になってるよなぁ」
客たちから聞こえる不穏な話。
不気味に動き始めた王国の存在を憂いた、なんとも微妙な雰囲気が場に漂う。
そんな客たちが少女に向ける視線には、忌避と、そして、侮蔑が滲んでいた。
「そもそもあんな汚らわしい物をそばに置くつもりはない」
「まったくだ。どうせなら
「こんな厄介なものに手を出して、王国に目をつけられたら堪ったものじゃない」
「人のなりそこない。獣が人を真似ただけの汚らわしいヒトもどきめ」
次々と少女にぶつけられるのは、同情の言葉ではなく口撃で。
これには商品を提示した側であるミッチィも、客をなだめるのに必死になってしまう。
「お客様、お客様。そう悪しざまにおっしゃらないで。この非合法の奴隷であれば、どのように扱ってもらってもいいのです。おもちゃにするもよし、慰み者にするもよし、壊れて動かなくなるまで、楽しまれてはいかがですか? ほれこのように!」
ミッチィが腕を振るう。
すでに装備していたのだろう、手にしたナイフが少女のロリータ衣装を切り裂いた。
腰のリボンを断ち逆袈裟で器用に衣服だけを寸断する一閃が、彼女の幼くもふくらみかけた身を包む、下着姿を晒し出す。
「……ひぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「おお……!」
叫びをあげ、顔を真っ赤にする少女。
羞恥に、屈辱に、絶望に、様々な感情がないまぜになった表情に。
(……いいな!)
思わず俺は、深く頷いてしまっているのだった。
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