第031話 突撃!闇オークション!!
盗品屋のドバンのじっちゃんが懇意にしている闇オークションが、ついに今夜開催される。
俺はなるべく自分の素性バレしないよう、地味めの服を装備しステルス効果を高めてから会場へと向かう。
「会員証か招待状を」
「ん」
「拝見します…………確かに」
「ん」
入り口チェック、良し。
口数も極力減らし、声を覚えさせない方向で。
連れもいないソロ活動だから、可能な限り隙を削っていきたかった。
「こちらへ」
仮面をつけたタキシードのいかにもな男に案内されるのは、町の地下だ。
娯楽と破滅の都市ガイザンは、表層である市街よりも地下の方が広いと噂されている。
そこではこの闇オークションを始め、よりレートの高い賭け事や、モンスターを連れ込んでの裏コロシアムなど、人の命が軽いモノワルドでもさらに命を軽んじた遊戯が繰り広げられているのだという。
俺はそんなガッチガチの裏社会に潜り込み、レアアイテムを求めてやってきた。
正直なところ……。
(んめっちゃ、テンション上がるぅぅぅ~~~!!)
こう、ほどほどにチラ見できるサキュバスやドワーフみたいなヒューマ以外のヒト種とか!
そういうのが前世の怖い場所感にファンタジーを混ぜ込んだ感じでめっちゃかっこいい。
仮面の装備適性Aによるポーカーフェイス維持がなかったら、完全に初心者ムーブ決めてたぜ。
食うか食われるかのこの場所でそんな動きを見せたら、後ろからバッサリだ。
(でもでも、やっぱテンション上がるぅぅぅ~~~!!)
多少キョロキョロしてるのは大目に見てもらいたい。
(……うおっ、
ライカンのムキムキボディにタンクトップ、その上の猫耳がアンバランスぅ!
あれは見た目からしてここのボディガードかな? さすが装備なしでも強いヒト種。
首輪つけてるのはファッション? 結構似合ってるっていうか完全にパンクだアレ。
「おい、進んでるぞ」
「っと。すまない」
やっべ悪目立ちしそうだ。移動移動っと。
いやー、いいもん見た。
そのあとは特に何事もなく、俺は地下街の奥深くへと歩みを進める。
ドキドキワクワクの闇オークション会場は、もうすぐそこだった。
※ ※ ※
「――こちらが会場になります」
「おお、ここが……!」
案内された先にあったのは、そこそこ広い劇場型の空間だった。
おそらく商品を持ってくるステージと、それを囲うように半円状に展開する客席。
両者を隔てるガラスの壁は、間違いなく何らかの魔法で強化が施されている。
あ、ステージの台の上にハンマーある。
モノワルドでもオークションのやり方は大体同じっぽいな。助かる~!
前世じゃテレビでしか見たことないけど!
初心者なので適当に後ろの方に腰掛ける。
連れだって来た人たちの話し声や、どこか場を支配する嵐を待つ者たちの緊張感などに浸りながら待っていれば、その時は来た。
ステージの上にゆっくりと姿を現す、顔に白粉を塗った、豪奢なフリフリ貴族服の男。
なんだっけ、トランプでマジックする人? みたいな色合い。
赤と白の組み合わせが実にビビット。
そんなピエロと貴族を足して2で割ったような人が、司会進行役だった。
「……今夜も始まります、ミスタ・バーンガーン氏主催の、スペシャルオークション! 司会進行はこの私、毎日あなたの耳元で無限の呪詛を囁きたい、愛の伝道師ミッチィ!」
やべぇ奴だった。
「ミッチィがお送りするこのスペシャルオークション。今回も様々なレアアイテムをご用意いたしましたので、ぜひお楽しみください! 合言葉は?」
え? 合言葉?
「「バーンガーンに
うおおおおお! なんかそれっぽい!!
「……おやおや、どうやら合言葉を知らない方がいらっしゃったようですね?」
「あ」
やっべ。
っていうか教えてもらってねぇよドバンのじっちゃぁぁん!!
「んっんっんー! そこの素敵なオペラマスクのあなた」
「は、はい!」
「……あれ?」
ミッチィが声をかけたのは、俺じゃなかった。
っていうか、俺のことに気づいている感じじゃなかった。
あれか、ステルス仕事したか。
「こういう場では合言葉がとっても大事なんです。忘れた方は参加できないんですよ」
「あ、あぅ」
「初めてのご参加だったのでしょうが……これは悲しい悲しい出会いとなってしまいました」
「あ、ボクのカード……」
俺と同じ年か少し年上くらいの客から、背後に立ってたさっきのいいボディのライカン兄貴がカードを抜き取った。
ライカン兄貴はそのままその客を抱きかかえると、ひょいっと俵持ちする。
「え、え、あの? あの?」
「ここにあなたの居場所はありません。さようなら」
ミッチィの言葉に合わせてライカン兄貴が連れて行くのは、俺たちが入ってきた方向じゃない、より奥まった、関係者以外立ち入り禁止っぽい方の扉。
「え、あ、待って、ごめんなさい、許して、あっ、まっ!」
「いい夜を」
「「いい夜を」」
「まっ!!」
バタンッ。
最後は観客たちにも見送られ、涙目の彼を運び去った扉は無情にも閉ざされた。
このあと彼がどうなるかはもう想像するしかないが、ただただ無事であってくれと祈るばかりだ。
っていうか、あの耄碌ドバンじじい帰ったら覚えてろ!
「さて、それでは気を改めまして。早速オークションを始めたいと思います」
そこからは、何事もなかったかのように闇オークションが再開した。
その内容は、まさに圧巻という他なかった。
「ではこちらSR鑑定書付きのレアアイテム『マーメイドの涙』、18万gで落札です!」
「おおおー!」
「こちらのUR鑑定書付きのレアアイテム『竜牙剣』! 424万gで落札です!」
「おおおー!!」
「続きまして、SR鑑定書付きのレアアイテム『エルフの超媚薬』を3つセット!」
「おおおおおお!!!」
ぽんぽんぽんぽんレアアイテムが登場し、ぽんぽんぽんぽん落札される。
今日は初参加だから見るだけのつもりだったが、思わず手が出そうになることいっぱい!
あれも欲しい! これも欲しい! 全部欲しい!
見たこともないアイテムの目白押しに、俺は心の底から大興奮していた。
(今の俺の手持ちが80万g、いくつかの品にはマジで手が出せる! だが……!)
手にした番号棒を上げようか上げまいかしている間に、金額が跳ね上がる。
この中に突撃していくのは、初心者にはちょっとハードルが高い。
「……これ以上はありませんか? ではこちらのSR鑑定書付きのレアアイテム『チキンハンター』! 35万gで落札です!」
「おおおおおおーー!!」
(……くぅ!)
新しいレアアイテムを見ては興奮し、跳ね上がる金額に一喜一憂、そして買われていくのを見守るだけで、歯がゆい思いを重ねていく。
俺は完全に場の熱に呑み込まれてしまっていた。
というか、完全にお上りさんで何をどうしたらいいかわっかんなくなっていた!
「続きまして――こちらが本日最後の商品!」
そんなところに冷や水をぶっかけられたのが、次に登場した商品だった。
「こちら、ライカンの少女奴隷でございます!」
場が、一瞬で静まり返る。
そこで正気に戻った俺がステージの上を確かめると。
「………うっわ」
そこでは、めちゃくちゃに可愛い垂れ犬耳の美少女が、震えながら立たされていた。
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