第030話 娯楽と破滅の街ガイザン!後編!!
ドバンの爺さんがテーブルに放り投げた、一枚のカード。
強いて特徴をあげるとするなら、真っ黒な表面に目の形をしたモチーフが描かれている。
「これは?」
「お前が欲しいと思うものじゃ」
「もったいつけなくていいだろ、別に」
「ふっふっふ。そうじゃな」
手に取ってシュババッとアデっさんところで鑑定してもらおうかと思ったが、手を伸ばしたところで妨害された。
爺さんの悪戯心に付き合って目を細めていれば、ようやくそのアイテムの名を教えてもらえた。
「これはの、ワシが懇意にしておる闇オークションへの紹介カードじゃ」
「お爺様大好き!」
「純粋にキモい!」
闇オークション!
行きたいけど全部会員制で行けなかった闇オークション! 来たーーー!!
噂じゃSR以上の
「本当はもっともったいつけてから出してやるつもりだったんじゃがのう。こんなに早くネタ切れさせられてしまっては、もう出すしかなかったんじゃ。とほほ……」
「なんでもいいさ! おかげで俺はレアアイテムを手に入れられる!」
もういいぞとOKサインをもらって、俺はカードを手に取った。
「次の開催は明後日じゃ。掘り出し物が見つかるとよいの」
「ああ! 本当にありがとう、ドバンのじっちゃん!」
ぶっちぎりにやばい場所と噂の闇オークションだが、俺にとっては夢の国。
そこへの入場切符をもらった俺は、最高にハイって奴だった。
※ ※ ※
「ほれ、査定終わったぞい」
「さんきゅう! それじゃ次はオークションの後に顔出すぜ。またな!」
金袋を受け取り、俺は絶好調で店を出る。
査定金額ちょろまかされてそうだが、そのくらいはカード代にしといてやる。
(あー、なんかこういうヤバいところに潜入しますっての、別の配信者がやってたよなぁ)
さすがに『記録水晶』とかの持ち込みは禁止されてるだろうしやらないが。
いざ自分が突撃する役になると思えば、テンションはさらに高まってくる。
「おおーー、今日はなんか美味い物食ってから宿に戻るぞー!」
一人気合を入れ直し、夜のガイザンへと繰り出していく。
ガイザンは治安こそ悪いが、料理はめちゃくちゃに美味しい。
その一番の理由は、町の東にある広大な森林地帯にある。
今日出かけた森のさらに東の先にあるその森の名は、ヒュロイ大森林。
かつてそこにあった獣人種(ライカン)たちが治めていた国の、国営地だった場所である。
今は亡きその王国の名は、獣人国ファート。
(ライカン……獣人、モフモフ、獣耳っ娘とかのヒト種。そういやまだ一度も見たことないな)
装備適性が低い代わりに、何も装備せずとも高い身体能力を発揮できる種族である獣人種。
かつて獣人国ファートの建国王は、その種族特性から《イクイップ》することを惰弱と断じる思想を掲げ、装備によって発展する他国と真っ向から対立した。
始めはその能力の高さから武威を示していられたが、技術の発達と共に力関係は次第に逆転し、そして――。
(80年前、大陸北の大国アリアンド王国と連環都市同盟による連合軍によって、ついに滅ぼされた)
獣人国が滅んだのち、なんやかんやあってヒュロイ大森林は連環都市同盟が管理することとなり、現在の実質的な管理と流通はガイザンを拠点とする大商人たちが行なっている。
おかげでここには美味しい森の幸が溢れていて、最高に料理が美味いというわけなのだ。
「モノワルドにも歴史あり、って感じだよな……栄枯盛衰、諸行無常」
獣人国が健在だったときは森の食材もあまり出回ってなかったらしいし、モフモフ王国が滅んでしまったのは残念だが、今日この時、美味しいご飯にありつけることは喜ばしい。
「うおー、ガイザン最高!」
飯が美味いところはどこだって天国だ。
俺は手頃な高そうなレストランに突撃し、一人向けのコース料理を堪能する。
肉! 肉! 野菜! 肉! 魚! トカゲ! 野菜! 豚! キノコ! 肉!
スープやステーキ、サラダに丼。腹いっぱいになるまで俺は料理を平らげる。
「ごちそうさま。お勘定!」
「520gでございます」
「はい」
520gは日本円にして5万2千円くらい。
ちょっとボッタくりではと思わなくもないが、最高に美味しかったから気にしない。
それに何より、今の俺にとっては余裕で払える金額だ。
「っかぁー! 食った食った! 食い倒れ世界旅行も人生の目標に加えていいかもなぁ」
夜が深まったガイザンは、しかしそこら中に明かりが灯って闇が遠い。
今からでも豪遊しようとすれば、いくらでもある娯楽の数々が、俺を迎えてくれる。
だが、忘れてはいけない。
「おら、こっち来い!」
「ひぃっ! すいません! すいません! あ、助け……!!」
「あへぁ、あへぇ……」
「ち、ぶっ壊れやがった。こいつ捨てとけ」
「………」
この町は娯楽と破滅の町。
気を抜きすぎれば、次に身を滅ぼすのは自分の番になる町。
「おかえりなさいませ」
「どうも」
宿に泊まるなら、しっかり高い金を払って防犯の魔法とアイテムが充実した場所へ。
旅先でお金をケチるとろくな事にならない。
「はふぅー」
俺は自室の柔らかなベッドに身を放り、大の字になる。
「明後日か、楽しみだ」
眠らない危ない町の、比較的安全な場所で、俺は眠りにつく。
いつかした失敗から学んで、俺と財宝図鑑を繋ぐ神帯は、寝る間もほどかないままでいた。
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