第029話 娯楽と破滅の街ガイザン!前編!!



 連環都市同盟第13の町、ガイザン。

 別名、娯楽と破滅の町。



「てめぇ、サマしやがって!」


「ははは、負けたのはお客様ですよ。おかわいそうに」


「やったー! 億万長者だーー!!」


「あんまり声上げると目立ちますよ、旦那様~」


「うぃ~、もう一軒回るぞー」


「先輩、飲みすぎっす」


「また来てくださいね。お嬢様」


「はぁぁぁん! お金貯めたらまた来まぁぁす!! やっぱストレス発散はホストよ!」



 町の至る所にカジノや風俗、楽しげな雰囲気から薄暗い雰囲気まで混沌と存在する町。

 ガラの悪い奴らが闊歩して、脛に傷のありそうな奴らがコソコソしている町。


 夕暮れから夜がよく似合う町。


 そんな町に居ついてから、かれこれ10日ほどになる。



(今日も賑やかだなぁ)



 ここ、町の中で殺人とか日常茶飯事なくらいやべぇところなんだが、俺を惹きつけて止まないものが3つほど存在する。


 ひとつは、お金を換金して手に入れるメダルを貯めて、レアアイテムと交換できるカジノ。

 ひとつは、闇市を流れる掘り出し物が出てくる可能性を秘めたオークション。


 そしてもうひとつが、目下のところお世話になっている……盗品屋だ。




      ※      ※      ※




「おーい、ドバンのじっちゃ~ん」


「おほう。また来たか、白布(しろぬの)」



 行きつけの盗品屋に入って、暗い店内を進み顔見知りになったヒューマの老店主の元へと歩み寄る。

 白布というのは彼に付けてもらったあだ名だ。ここで本名を名乗るわけにもいかないと、最初に来店したときに決めてもらった。


 その由来は言わずもがな、俺が装備している『ゴルドバの神帯』である。

 一目見たときにこれがすごいアイテムだと見抜いたその慧眼に、俺はめちゃくちゃ感動した。


 だってこれ『財宝図鑑』の宝番のアデっさん曰く、普通に鑑定してもRくらいの布だって認識されるようになってるんだぜ?

 世の中にはやべぇ奴が割とどこにでもいるもんだなって思った。


 おかげで気に入ってもらえたから、結果オーライ。

 こうして通い詰めるようになって、仲良くなることができたというわけ。



「レアアイテムの実物か情報はないか?」


「またそれか。もうないぞ。毎日毎日聞きに来られて、ネタはなくなったわい」


「あ、そうか。今までありがとう。俺、他の店に行くよ!」



 儚い友情だった。



「ちょちょちょ、待てぃ!」


「レアアイテム情報も実物もない盗品屋なんて、ただの買い取り業者だぜ……はいこれ」



 いつものように壊滅させた盗賊団から奪った装備品や小物などを提出する。



「ぶおっ、まーたこんなに沢山。おかげで大儲けじゃ! って、そうではなく!」



 とっとと買取査定終えて帰りたい空気を出し始めた俺に、ドバンが大慌てで『鑑定眼鏡』を装備してから査定を開始する。

 正直俺が一番欲しいその眼鏡を売って欲しいんだが、生憎替えがないらしくて売ってもらえなかった。


 もっとも、他の店じゃ吹っ掛けられたりあげく偽物掴まそうとして来たりで、別の意味で手に入れられなかったんだが。



「白布、知っておるか? 最近この辺りから盗賊が消えて、繋がりを持ってる商人たちが悲鳴を上げておるそうじゃって」


「そりゃ災難だな」


「噂じゃ勇者様の仕業じゃないかってことらしいが……お前さんなんか知らないか?」


「いやぁー、俺は見てないな。勇者様」



 勇者。

 モノワルドにおいては、魔王と呼ばれるレアモンスターを退治して素材を集めてきたり、悪い奴をやっつける特別な装備適性を持つ人物のこと。らしい。

 風の噂じゃ最近、巨大なゴーレムみたいなモンスターを退治したと聞く。



(近くにいるって言うのなら、ぜひ会ってみたいもんだな)



 モノワルドだし、絶対勇者専用装備とかあるに違いない。

 ロ〇の剣とか〇空の剣とか! ちなみに俺は天〇の剣派です。


 え、そもそもモンスターとかこの世界にいたのかって?

 いるよモンスター! なんなら孤児院の裏で飼ってたコッコもそうだぜ!



「……あんまり無茶しちゃダメじゃぞ?」


「無茶はしてないさ。マジでな」


「お前はワシが最近出会った中で最上級の上客なんじゃからな。儲けさせとくれよ?」


「だったらレアアイテムの情報と実物をだな……」


「ないものはない」



 ……こういうところが、ドバンのじっちゃんを見限れないんだよなぁ。

 何件かある盗品屋の中から俺が彼を選んだ理由が、この隠しきれない仕事関係の誠実さだった。



「レアアイテムの切れ目が縁の切れ目……」



 まぁそれも今日までだが。



「待ぁて! 待て待て待て!! 待つんじゃ金づる!」


「いや正直すぎだろ!?」


「レアアイテム、と言えなくもないものを、今日はお前にやる! やるから!」


「話を聞こう」



 俺はカウンター席に腰掛ける。

 どうやらまだまだ友好関係を続けられそうだ。


 俺、ドバンのじっちゃん大好き!



「まったく、現金な奴め……」


「で、レアアイテムと言えなくもないものとは?」


「これじゃよ」



 そう言ってドバンがテーブルに放り投げたのは、何の変哲もない一枚のカードだった。


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