第028話 こんにちは、死ね!



(動きを見るに特別レアな装備をしてる奴はいない、な。残念)



 目標は盗賊たちの全滅。

 ボスを最初にってしまうと、手下が蜘蛛の子散らすように逃げてしまう場合が多いから、狙うは孤立した手下からだ。



「うっ、しょんべん」


「近くの木ですんなよ? くっせぇのが臭っちまう!」


「うるせぇ!」


「「ハハハハハ!」」



 都合よくグループを離れて一人になった盗賊のそばに、俺は忍び寄る。

 森歩きに適した靴の消音効果と隠密補正を得られる緑色のクロークで、すっかり俺は森の中に溶け込み、あっさりとそいつの背後を取る。


 そして静かに短剣を構え。次の瞬間。



「うぃ~……あー、出る出る。めっちゃ出る」


「…………ハァイ、ジョージィ?」


「あ? ヲ゛ッ!?」



 ステルス・キル。

 短剣で喉を切り裂き、ジョージ(仮)の命を奪う。


 崩れ落ちるジョージ(仮)だったものから手を放し、俺は再び森と同化した。



(……さすがに、もう慣れたな)



 すでに人の命を奪った数は、2桁を越えて久しい。

 盗賊たちをターゲットにすると決めてから、まずはパーティーを組んで仲間たちと共に盗賊を討伐し、そこでこいつらの所業とその末路をしっかりと観察し、俺自身の手を汚した。


 ゲームじゃフィールドを歩けばわんさか無限に出てくる雑魚だが、実際に生きる世界で見るそれは、予想していたよりもはるかに悪辣で、残酷で、しぶとくて、救われない奴らだった。


 社会からはぐれ、他者から奪うことでしか命を繋げなくなった存在。

 モノワルドなら技術を得やすく貧困にあえいだり食いっぱぐれる連中はいないもんだと思ったが、実態はむしろ逆だった。

 激しい競争社会のふるいに掛けられはじかれる奴はそりゃもういっぱいいて、一発逆転のアイデアでもなければ、手にした武器で略奪者になるって考えに走る者が多かったのである。



(なまじっか殺す技、奪う技が使えるってのが、拍車をかけてんだろうなぁ)



 そうして奪うことの楽さを覚えてしまえば、盗賊の出来上がりである。

 そいつらが世間に何をもたらすかなんて、あとは推して知るべし。


 俺が最初に見た村は、俺から盗賊殺しすることへの罪悪感をほぼ消し飛ばしてくれた。

 世の中を世知辛いとは思うが、同情するものじゃないと俺は学んだ。



(やるなら勇者行為までに留めておく。肝に銘じておかないとな)



 人を殺してでも奪い取る。は最終手段にしたいもんだ。

 うんうん。


 さぁ、こいつらぶっ殺して彼らの財宝を奪い取るぞー! うおー!




「やぁご同輩。こんにちは、死ね!」


「な!? ヴッ!!」



 三人目をステルスキルをしたところで、そろそろ本丸に挑む頃合いだ。

 見ればいい加減異常を察知し始めて、ボスが周囲を警戒するよう指示出ししている。



「……《イクイップ》」



 俺は矢をたんまり入れた矢筒と弓を装備し、観察の結果、賢く立ち回っている連中に狙いを定める。

 つがえた矢の数、合わせて3本!



「ひっ!?」


「でっ!?」


「ぶっ!?」



 それらは俺の手から離れてすぐに、3人の盗賊のヘッドにヒットした。



「な、なんだぁ!? 誰だぁ!!」



 ボスがなんか言ってるあいだに再び矢をつがえて、シュート!



「あっ!?」


「べっ!?」


「しっ!?」


「ひ、ひぃっ!?」



 ふぅー、ワンターンスリーキルゥ。

 盗賊の数も半数を切った、そろそろ近接戦闘を開始しよう。



「《イクイップ》」


「そ、そこか!?」


「遅い!」



 木々の合間から飛び出して、盗賊たちの前へと踊り出る。

 俺の手に握られているのは、割とどこにでも売っている鉄の剣だ。



「馬鹿が! 飛び出してきやがって!! やれ!!」


「「おう!」」



 盗賊たちが、手に持った槍を構えて俺へと向ける。

 この世界、盗賊だからってみんな斧持ってるとかそういうのはない。


 意外と軍隊っぽく適性に合わせた部隊編成もどきをしていたりする。


 だが。



「どぅりゃああああ!!」


「ハッ! 当たるかっての!」



 それでも適性はいいとこCかD。

 そんな力で突き出された槍なんて、装備適性Aの俺の前じゃ、止まってるのと同じだ!



「なっ、槍先を空中でそらして、柄に体をこすりつけただと!?」


「これじゃ狙いがつけられ……ぎゃああ!!」



 くるんくるんと柄に沿って体を寄せて急接近。

 あとは回転の勢いと一緒に刃を振るい、盗賊たちを蹴散らしてやる。



「ひ、ひぃ! バケモンだ!!」


「こいつの仲間はどこにいやがる!? 弓使いを探せ!」



 残念だったな、それも俺だ。



「目をそらしたのが敗因だ」


「ひ、ぎゃああ!!」



 その言葉を最後に、ボスの首は胴体とおさらばした。

 彼の悪党に堕ちた人生に幕は下り、盗賊団は一人を残して壊滅した。



「《イクイップ》」



 パルパラ都市長の交渉道具一式をキッチリ装備して。



「……さぁて、お兄さん。俺と楽しく話をしようぜ?」


「ひぇ、ひ、ひぇ……!!」



 最後に残した腰を抜かしてる盗賊と、大事な大事な交渉タイムを始める。



「お宝、いっぱい貯めこんでるよなぁ? それがどこにあるか、教えてくれるよ、ね?」


「は、ひぇ、ひやぁ~~~~……!!」



 こうして俺は盗賊団をひとつ壊滅させ、そいつらがたんまり溜め込んだお宝をゲットする。

 奪われた人たちには申し訳ないが、手に入れたお宝は全部俺の総取りだ。


 盗賊の討伐依頼を受けるより、こうして自力で探して宝を奪った方が効率がいい。

 だから俺は基本ソロで、依頼を受けずに盗賊狩りを敢行している。


 おかげで財宝図鑑の宝物庫には、結構な金額が貯蓄できた。

 だが、それでも。



「まだまだ、足りないよなぁ?」


「ひ、ひぃ! これ以上、何を持っていくってんだ!?」


「それはもちろん、身ぐるみだ」


「え?」


「《ストリィィィップ》!!」


「あ゛あ゛~~~~~~~~~~~!?」



 世界を買うほどの金には程遠い。

 いずれは規模を拡大し、どんどんお宝を集めて資金力も高めていかないといけない。



「さーて、回収回収」



 だが千里の道も一歩から。

 旅を始めたばかりの俺は、ファンタジーの先駆者様を見習って、盗賊いぢめに精を出す。


 俺は決して善人じゃない。

 だが、好んで悪を標榜する気もない。


 あくまでこの世界で生きる常識の範囲の中、上手に立ち回って生きていく。

 そうでなければ、いつか善のアイテムと悪のアイテムなんてものと出会ったとき、両方を手に入れることはできないのだから。



「よっし、この調子でいくぞ!」



 それから俺はこの森を縄張りにしている盗賊団をあとふたつだけぶっ潰し、町へと戻る。


 連環都市同盟パルパラから東へ向かった場所にある、同じく連環都市同盟に属する町。

 都市同盟の中でも最も東に存在する、治安悪々のその町の名は――。



「連環都市同盟第13の町……ガイザン」



 俺が最初の拠点と決めた、なかなか刺激的な場所である。


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