第023話 九頭龍千兆式交渉術!
「《イクイップ》……さて。あんたが誰の指示で、何が狙いでここで暗躍していたかなんて、俺には分からない」
「!?」
話は戻って対ノルド。
俺はパク……勇者した都市長の交渉装備を身に着けながら、牽制を兼ねて、それっぽいことを口にする。
(実際どこの誰の差し金かなんて知らないし、知りたいとも思わない)
巻き込まれるだけ面倒そうだし、関わるにしても今の俺は8才児、自由も力もない。
(思えばこれ、マジでどっちにとってもただただ不幸な事故なんだよな)
俺と彼女の出会いは偶然で、なんなら同じ悪党同士。
出会わなければそれぞれに目的を果たしてはいさようならだったかもしれない。
「だが、こうなった以上は情け無用。そっちは命を奪おうとしてきたんだから恨みっこなしだ」
「あ……あぁ……」
ああ無情。
出会ったからには食い合って、弱肉強食するしかない。
俺から力は示した。だが、ここから彼女が抵抗しないとも限らない。
少なくとも彼女をある程度までは無力化しないと俺も危ないし、最悪の事態もあり得る。
実際問題彼女を素っ裸にしても地力で首コキャされたら終わるので、脱がしても俺のピンチ度は変わんないのだ。
(だから彼女が混乱しているあいだに、交渉終了までもっていく!)
チート
そんな力を持った俺は、ノルドにとっては突如現れた神話生物みたいなもの。
相手が正気度ロールしてるあいだに、俺はこの優位を最大限に活用したい。
ゆえに、俺は今、高身長黒髪ロングメイドさんのストリップショーを演じているのだ。
(そう。だから、これはしょうがない。しょうがないんだよなぁ……ふっふっふ)
心のスクショを連打連打。メイドさん脱衣スチルゲットだぜ!
「クックック……おっと」
思わず口元が緩んでしまった。
油断が負けフラグになる前に、やるべきことをやってしまおう。
「お前は、いったい……」
「《ストリップ》」
俺は再び無動作で呪文だけを唱え、ノルドの頭のカチューシャを奪う。
「!?」
「メイド服が消えたのが、何かの偶然じゃないってこれで理解したよな?」
会話の主導権は渡さない。
今一番俺が得をする交渉方法は、力の差を見せつけてからの、恫喝だ。
ちなみに消えたメイド服とカチューシャは、宝物庫の保管庫というスペースにぶち込んだ。
レア度を問わず100万個くらいのアイテムを収容できる便利ゾーンである。
練習中にアデっさんから教えてもらったんだが、出し入れ自在も相まって、まるでアイテムを消滅させたようにも見えるのが素晴らしい。
「完全に無力化されたくなければ、俺の願いを聞いてもらおうか。そっちもこんなところで捕まって終わりたくはないだろう?」
「………」
あ、頷いた。
こんな状況でもいくらか冷静でいられてるの、さすがプロって感じだな。
もしかしたら交渉力アップの指輪の力もあるのかもしれない。
(どっちにしろ、おかげで話を進めやすい)
俺はノルドが聞く姿勢をとったのを見てから、宝物庫での練習がてら考えておいた要求を口にする。
(欲しいのは身の安全と、本格的に自由になれる成人するまでの時間的猶予)
ゆえに、提案するのは。
「……少なくとも向こう7年。この町には手を出すな。この町の平穏を乱すなと、あんたのご主人様に伝えてくれ」
まったくもって自分本位な、自己保身の極みみたいな内容だった。
※ ※ ※
ワンダリングに出会ってしまったどっかのスパイ、ノルド。
この出会いの意味を、考えた。
(機密情報盗むってことはこの町に何かしようとしている黒幕がいるってことだから、そう遠くない未来にやばいことがあるかもしれない。それは困る。少なくとも成人するまでは平和であって欲しい)
裏で糸引いてる奴の正体も何も分からないが、こっちだって今は未知の怪物状態だ。
このハッタリが、少しでも俺の平穏を守る牽制になってくれることを願う。
(笑わば笑え! 俺は何よりもまず自分の命を大事にする男!)
それゆえの、自己保身!
前世でアホやって死んだ以上、今世はもうちょっと長生きを目指すのだ!
(っていうか国レベルの話だったら今の俺にはどうすることもできないし、8才児に背負えるものじゃないって)
多少縁ができた都市長や夫人、カレーンには悪いが、俺にできるのはここまで。
せめてこの提案が通ってからできた猶予で、なんとか乗り切って欲しい。
とりあえず、交渉用アイテムの再入手から。
「……その要求を破れば?」
「《ストリップ》」
「!?」
探りを入れてきたノルドのブラをノータイムで奪う。
失ったものに気づいて慌ててノルドが動いたが、もう遅い。
スレンダーボディは機能美。
俺の心のアルバムに、しっかりと焼き付け済である。
「いつか、あんたの国の大事なものが、消えてなくなるかもな?」
そして返す、渾身のセリフと決め顔からの全力睨み。
各種交渉系の指輪の効果を信じて、俺は真っ直ぐノルドを見続ける。
「~~~~~~!!」
そのハッタリはどうやら、無事相手に通じたらしい。
顔を赤くして丸出しになった胸を腕で隠しながら、彼女は頷いた。
「……わかった。約束する」
もはやノルドに、俺に対する殺意はない。
『真偽の指輪』が教えてくれるのは、俺に対する畏怖と、何かへと向けられた使命感だけだった。
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