第013話 驚きの鑑定結果がこちらです!



 準備万端整っていたが、最初の鑑定はミリエラに譲る。

 ここに連れてきてくれたのが彼女だし、何よりまずは観察してみたいと思ったのだ。



「はーい、それじゃリラックスして~。心の壁があると鑑定し辛くなるからねー」



 鑑定は《アプライ》という魔法で、『鑑定眼鏡』を装備した、眼鏡の装備適性B以上の人が使えるようになる特殊な呪文である。

 ぶっちゃけ自力で《アプライ》を発動できるなら、適性だ装備だとかは知ったこっちゃないのだが、まぁそんな事例は歴史上数えるほどしかないのだと、ルーナルーナが教えてくれた。



「いいねぇ、力が抜けてるねぇ。それじゃ、いくよー……《アプライ》!」



 ルーナルーナが呪文を唱えると、彼女の眼鏡がキラリと白く光を放つ。



「ほぉー、なるほどなるほど。へぇー、これはこれは」



 今、彼女の眼鏡にはミリエラの装備適性が映し出されているのだろう。

 ルーナルーナはそれをしげしげと眺め、手早く紙にペンを走らせていく。


 やや待たず作業を終えたルーナルーナが、ミリエラに適性を書き記した紙を突き出した。



「ほい。こんなん出ました~」


「どれどれ」


「あ、キミ。ヒト様の適性見るのは許可を貰ってねー? マナー悪いよー」


「おっと。ミリエラ、見ていいか?」


「うん! セン君になら……いいよ?」



 妙に艶めかしく許可をくれるミリエラと一緒に、紙に書かれた内容を覗き込む。



「えーと、なになに? 鞭適性がBで……」



 以下、ミリエラの持っている適性をここに羅列する。


 鞭:B 鎖:B 短剣:D 杖:D 指輪:C 化粧品:C 媚薬:B

 露出服:B 下着:B ブラジャー:A パンツ:A



「……ん?」



 まぁ、ハーフサキュバスらしい適性の数々の名前については置いておいて。



「んんー??」



 なんか多いし、高くない?

 それに確か、モノワルドにおける一般的な適性有りのラインってのは――。


 そこんとこどうなんです? 解説のルーナルーナさん!!



「適性基準のDより下のE以下は、お姉さんの実力じゃ分からないんだけどぉー。ミリエラちゃん、だっけ? ぶっちゃけー、超天才児じゃない?」



 そう。モノワルドで「キミぃ、それ使えるんだねぇ!」と言われる適性は、Dからだ。

 そいつを生涯かけて、つまりお年寄りになるころまでにBまで磨くのが、モノワルド一般ピープルあるあるである。



(……つまり、だ)



 ミリエラの持つ適性は……質も、量も、どっちもヤバい。




「一般人が人生注ぎ込んでようやく至るような適性がいくつもある、間違いなく超天才児。いや、もしかして年齢偽ってる? 見た目変える魔法使ったりしてない? 寿命の倍生きてますとかないよね?」



 ルーナルーナも現実を受け入れきれてないのか、疑いの目を向け始めている。

 っていうか鑑定魔法って年齢とか本名とかもっと色々パーソナルな部分も見れるんだと思ってたが、適性Bじゃその辺も見れないのか。道具のレアリティが足りない?



「ふぅーん。これいいの? いいんだ? えへへー」



 疑惑の目を向けられている当の本人は、良い結果に嬉しそうにしながら俺に体を擦りつけている。


 まぁ、俺としても疑いようもなく彼女は俺と同じ8才児だと主張するところであります。

 ちょっと5才のころに覚醒しちゃっただけで。



「ん? あ、ああー翼! 覚醒済かぁ……って、いやいやぁ? それでもお姉さんこんなの見たことないよぉ? 普通に成人してる人で、なんかひとつでも適性Bあったら人生勝ち組よー?」



 あ、覚醒してるだけじゃ片付かない奴でしたか。

 つまり才能。ミリエライズジーニアス。いや、ギフテッド?



「ひゃー、世の中広いねぇ。ミリエラちゃん。キミには輝かしい未来が待っている」


「えへへ。セン君がいるから、それは絶対的に保障されてます!」



 またもやぎゅーっと腕に抱きつかれながら、俺は能面を顔に張りつける。


 ミリエラが才気溢れる存在だったことは喜ばしいが、俺のハードルはだだ上がりである。



(この状態で凡才だったら、いよいよもってミリエラに蹂躙される未来しか見えない!)



 なんか媚薬とか書いてあったし! 使われたら即終了じゃん!!

 毎日アヘアヘバブバブさせられて思考能力全部溶かされていいようにされる未来しか見えない!



「えへへ……お薬かぁ」



 ほら御覧なさい! もう悪いこと考えてそうな顔をしていらっしゃる!!

 っていうかなんか適性の高さを知ったせいで余計にミリエラの下着とか気になるんですけど!?

 魅了! 魅了されている!!


 あぶい!




「たははー。彼氏君ごめんねぇー、ハードル高いねぇ」


「はい。正直胃が痛いです」


「あはー。リラックスリラックス~。口調が固くなってるよ~」



 いよいよ俺の適性鑑定となったが、今の気持ちは死刑宣告を受ける前の被告人である。



(適性なしはイヤだ適性なしはイヤだ適性なしはイヤだ!)



 神様仏様財宝神様。

 なんかいい感じにしてくれるって言ってたよなぁ! お願いしまーっす!!



「……それじゃあ行くよぉ~。《アプラ~イ》」



 呪文を唱えたルーナルーナの眼鏡が輝き、映し出された情報を紙に書き記……しる……




 あれれぇぇーーー? おっかしいぞぉぉーー?




 なんかちょろっと書いただけで、速攻終わってないかい?

 一行? いや、一文?



「……ふぅ」



 あ、なんかやり遂げた顔してる。追加はなし。



(終わった……)



 隣でミリエラがニコニコしているが、なんかもうそれが「たとえどんなにクソ雑魚ナメクジでもわたしがセン君の全部を管理するよ」って言ってるようにしか見えない。



「……こんなんでました~」



 絶望である。


 現実逃避しかもう残ってない。

 いや、どんな現実でも俺は向き合わないといけない!  



(俺は、俺はこの世界のレアアイテムをコンプする男! センチョウだぁぁぁ!!)



 差し出された紙を、見る。


 そこにはたった一文だけ記されていた。


 それが俺の適性のすべてだった。



「いやぁ~。お姉さん、人生でこんなこと二度とないと思うよ」



 ルーナルーナの頬に、一筋の汗が滴り落ちる。



「“同時に二人も、超天才児を鑑定しちゃう”なんてねぇ」


「……これ、マジか?」



 紙に記されていた俺の装備適性はC。

 一般的に使えるってレベルのDよりも高い、いい感じってくらいの適性だ。


 だが、その隣に書かれている言葉が、何よりも異質で。



 全部:C



 全部、オールアラウンド。

 それは、誰の目にも分かるほどに圧倒的な、可能性を示す言葉だった。


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