第009話 昨日の標的は今日の恋人?
あくる日。
普段から寝泊まりに使っている4人部屋、にて。
「レアアイテムコンプリート?」
「そうだ。それが俺の生涯を賭けて目指す大目標だ」
俺はミリエラに、『財宝図鑑』と『神の布』を見せながら事情を説明した。
もっとも、転生やら神様やらって話は言っても混乱させるだけだから、両親から託された物を見てそう志した、という話に変えておいたが。
「財宝図鑑……この表紙、読めるの?」
「ああ、そのまんま財宝図鑑って書いてあるぞ?」
「へぇ……」
ミリエラは興味深そうに財宝図鑑を手に取って開けようとするが、本は開かない。
どうにも財宝図鑑は俺専用のアイテムらしく、俺以外の誰にも開くことができなかった。
ちなみに神の布は普通に布だから、今はミリエラが首に巻いている。
布に髪がもふっと乗っかってて、まるで純白のマフラーをしてるようでとても愛らしい――。
(……あれ、待てよ? あれって確か神が全身に巻いてた……)
神が、全身に、巻いていた。
「ミリエラ、脱げっ!」
「えっ、セン君いきなり大胆……でも、いいよ?」
「待て待て! その布。布だけな!? スッとかはらり……とかしなくていいから!!」
「ぷぅー」
俺は頭の中に浮かんだUの字を振り払いながら、着ているもの全部脱ぎ始めたミリエラを止めつつ、神の布だけ回収した。
(いやまぁ、ばっちぃってことはないとは思うが……)
これも、俺専用だな(決意)。
いざって時を除いては、まだまだタンスの肥やしである。効果もまだ未知数だしな。
謎のアイテム『神の布』。
装備するとなんか調子が良くなる以外は、未だ不明のままだ。
「ふーむ……」
脱衣チャンスを逃したミリエラが、開くことのできない財宝図鑑を手に、俺のベッドに寝転びながら口を開く。
「セン君にしか使えない秘密のアイテムかぁ……すごいね」
素直なお褒めの言葉がとても心地いい。
ミリエラの声はいつまでも聞いていたくなる甘い声だ。
「だろ? だから俺はこの本に、世界中のレアアイテムを集めてやるんだ」
得意げに鼻を鳴らす俺に、ミリエラが身を起こし、ずいと顔を寄せてくる。
密着することに迷いがない彼女は、そのまま俺の腕を掴むとピッタリとくっついた。
「ねぇねぇ。だったらセン君……大人になったら、孤児院を出て世界を旅するんだ?」
「そうなるな」
「じゃあ、わたしも付いてっていい?」
「ふむ……」
こちとらミリエラ仲間に入れようキャンペーン中の身。渡りに船な提案だ。
だがそれを顔に出すと負けた気がするので、俺はわざとらしく咳をして間を持たせる。
「うおっほん。……アイテムコンプの道は長く険しい。ミリエラにその覚悟があるか?」
「あう……うー」
仰々しく問いかければミリエラの顔に戸惑いが浮かぶ。
だが、俺が何かを言うよりも早く、彼女の瞳は真っ直ぐに俺を見返した。
「……あるよ。セン君が目指す道なら、わたしだって諦めないもん」
「そうか」
思った以上に固い決意表明を速攻でぶちかまされた俺は、そうか、としか言えなかった。
どうやらなつき度1000%は、きび団子貰った犬並みの付いてく指数を持ってるらしい。
決意に燃える金色の瞳が、なんとも頼もしい限りだ。
(まぁ、この分なら安心して連れ回せるな。こんなに可愛い仲間なら、多少愛が重くても大丈夫だろう。ギャルゲーあるあるだし)
なんて、思っていた矢先だった。
「……それに、セン君の初めては絶対にわたしが貰うんだから、逃がすわけには」
「え、なんだって?」
「ううん、なんでもないよ?」
「そうか」
…………うおっほん。
……聞ーこーえーたーよーーー!?!?
おもっくそ聞こえたよ!?!?
(なに、初めてを貰うって? それってあれでしょ? ピーでピーな奴でしょ!?)
覚醒ハーフサキュバスってそこまでなの!?
弱冠5才が何言ってるの!?
大人になったらどんな
こんな子と一緒に旅して、俺の体はもつの!?
なんかもう最初の町で骨抜きにされてずっとそこに居座って冒険終わりそうだよ!?
ハッピーだけど何も始まらないで終わるバッドエンドだよ!!
「……セン君?」
「えひゃいっ!」
ミリエラの甘ったるい呼び声ひとつが背筋を震わせる。
これから大人になるまでの10年、俺はこれに耐え続けなければいけないのか!?
(や、ばい。やばいやばいやばいやばい!!)
これはギャルゲーじゃない!! エロゲーだ!!
しかも前世じゃ発禁物のやべー奴だ!!
(対策が……対策が必要だ!)
最初の仲間が持っていた、最初のバッドエンドフラグ。
冒険が、始まる前に終わるエンド(R-18)!
大人になるまでに、あるいは大人になる前に、なんらかのミリエラ対策をしなければ。
(俺のアイテムコンプの旅は、そこで終了してしまう……!!)
まだミリエラが、俺の夢に協力的である内に。
サキュバスとしての力を100%発揮できないでいる、成人するまでに。
「……うおおお。俺はやる、俺はやるぞーーーー!!」
「うんうん。わたしも頑張るぞー、おー!」
この超絶可愛いハーフサキュバス幼馴染とのバッドエンドフラグを、折る!!
「あ、そうそうセン君。好きです、わたしを彼女にしてください」
「はい」
バッドエンドフラグを……折るんだ!!
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