第008話 ミリエラ、変貌す!
結論から言おう。
俺は、失敗してしまった。
「セン君、セン君っ!」
栄えある治安世紀末な孤児院を取り戻すべく、ミリエラに最高の体験をさせてから最悪のトラウマを植えつけよう大作戦を実行した――その結果。
「セン君、セーンーくーんー」
「………」
「……返事しないと、チュー、しちゃうよ?」
「はーい。っていうか、俺の膝の上にのって抱き着いて、返事も何もないだろうが!」
「えへへー」
どういうわけだかミリエラの好感度が天元突破、なつき度1000%になったのである。
つまり、ハーフサキュバス幼女を全裸に剥いたら、その日から好き好き言い出した件。
……うん! わけがわからないよ!
「セン君、セン君!」
ミリエラはあの日以来、四六時中俺の後ろを付いてくるようになった。
この付いてくる先が本当に場所を選んでなくて、ヤバい。
「セン君セン君、どこいくの?」
「トイレ」
「はーい」
「……って、一緒に入ろうとするんじゃない!!」
さらに、事あるごとに絡んできては、ハーフサキュバスの名に恥じない猛アタックだ。
たとえば俺の日課である技術研鑽の時間にひょっこり顔を出した場合――。
「セン君セン君、なにするの?」
「《ストリップ》の練習だ」
「……脱がすの?」
「そうだ……って、え?」
「セン君なら、……いいよ?」
「ばっ! 自分からスカートたくし上げるなぁ!!」
ご覧の有様だよ!!
「セン君だったら、わたし、何されても……」
「しない! しないから! っていうか《ストリップ》は奪うための技であって、そんな望んで捧げられても困るってのー!!」
桃色全開のミリエラの振る舞いに、俺はすっかり振り回されていた。
正直かなりやばい状態になってるミリエラだが、幸いその原因についてはすぐに知ることができた。
彼女に突然生えた頭翼と腰翼を見たマザー・マドレーヌが、その答えを知っていたのだ。
曰く、ハーフサキュバスの“覚醒”。
サキュバス族が生まれ持った執着心の発露、魅了向上、精力増強などの種族特性が後天的に発現する現象で、本来は心がある程度整った12歳頃に発生し、思春期の始まりとして扱われるものらしい。
元々早熟気味なミリエラだったが、大きな精神的衝撃から5才にして覚醒してしまい、その結果、育ちきってない体と心のバランスが大きく崩れ、乱れ、今みたいに感情の歯止めが利かない状態になってしまった。
本来出し入れ自由なはずの頭翼と腰翼が、ずーっと出しっぱなしになっているのもそのせいだとか。
つまり、俺が《ストリップ》でトラウマを植えつけるはずが、逆に彼女の覚醒を促し――。
「セン君、セン君。だーい好きっ」
この、超ド級えちえち美幼女俺のこと大好きハーフサキュバス幼馴染ミリエラ大・爆・誕っ!
……へと、繋がったわけである。
「今、彼女の口から語られている言葉は本音だよ。だから、センがちゃんと向き合っておやり」
マザーの鶴の一声で、事態が落ち着くまでのミリエラの相手は俺が務めることになった。
ただ、みんなの前で言われたマザーの言葉と、当のミリエラ自身の言動から、孤児院での俺の立場は大きく変化することになった。
即ち、ミリエラ対処班……ではなく、ミリエラの“いい人”。
それこそが孤児院で与えられた俺の、新たな役割だった。
「あらー、今日もいちゃついてるわねぇ。可愛いカップルさん」
「くぅ! どうしてオレじゃなくてセンなんだよミリエラちゃーん!」
「……目の毒」
「ぐぬぬぅっ。やっぱり愛は言葉にしなきゃ、行動で示さなきゃ、伝わらないのね!! ダンデー! アイラービュー!!」
そこはかとなく桃色雰囲気に染まった孤児院のみんなは、俺たちを温かく見守り始めた。
「お、ミリエラは一緒じゃないのか?」
「ミリエラ、センならそこだよー」
事あるごとに気を利かせては、俺たちをひとまとめにするようになり、結果。
「セン君、セン君っ!」
「ぐおおおおっ、昼寝タイムにまでひっついてくるな! 暑苦しいぃ!」
俺の自由はべたべたしたがるミリエラの行動も相まって、完璧に封じられてしまったのだ。
(どうして、どうしてこうなったーー!?)
完全に予想外の展開に、俺はどうにか打つ手がないかともがき続ける。
だがしかし。
「好きー!」
「がぁぁぁぁぁ!!」
覚醒して身体能力が向上したミリエラから、まだ未成熟なヒューマである俺は逃れることができない。
しかも覚醒すると一部装備適性もあがるとかで、ミリエラもその効果を存分に発揮しているらしかった。
サキュバス族の特性。下着全般に適性高めって、かなりズルいのではないかと思う。
毎日穿くじゃん! 絶対穿くじゃん! チートだよ、チート!!
「センく~ん」
「ぐぎぎ……はぁ、やめやめ。引き剥がせん」
今日も今日とてべったりくっつくミリエラを見る。
「あ、えへへ……」
試しによしよしと彼女の頭を撫でてみれば、ミリエラはふにゃりと蕩けた笑みを浮かべた。
ピンクの髪が揺れて、金の瞳が揺れて。
5才にして将来性抜群のビジュアルを誇るハーフサキュバスの微笑みは、やはりというかとんでもない破壊力で。
(……これはもう、結果オーライってことにしておこう)
仕掛けたのは俺の方だ。ならば、この結果は甘んじて受け止めなきゃいけないだろう。
それに、やっぱり、その、あれだ。
(美少女に好かれるってのは、すっごく嬉しいからなぁ……ふへへ)
ピコン!
破棄されていたギャルゲー脳が、無事帰還しました。
「よーしよし」
「うぇへへぇ……セン君もっとぉ~」
溶けてるミリエラをさらに撫でつつ、俺は計画の練り直しを始める。
(こうなった以上は、ミリエラも巻き込んでしまうか)
見方を変えれば、ミリエラは強力な味方だと言えなくもない。
賢く、将来性もあり、何より俺のことを好いてくれている彼女は、得難い存在ではないか。
あと可愛いし。
(そうと決まれば、さっそく俺の未来絵図を語って聞かせねば!)
脳内会議で計画変更!
ミリエラをガッツリ仲間にして、レアアイテムコンプへの道に大いに役立てる!
作戦決行即相談! 勧誘してパーティーINだ!
「ミリエラ、話がある」
「なぁに、結婚式の日取り?」
おや?
「それは……後々の課題ということで」
「うんうん、そうだね。まずは婚約からだね!」
おやおや?
「よし、ミリエラ。まずは落ち着こう」
「大丈夫だよセン君。今のわたしはこの上なく冷静だから!」
おめめぐるぐる、吐息はぁはぁ。
「……Oh」
ハハッ。まいったねこれは。
もしかしてキミ、
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