第203話
だから聞いてあげると、どんな部屋だってすぐに入居者が決まって、その後は店が繁盛したもんだ。だから何度も繰り返した。
入居者が必ず、窓辺に飾ってあるモビールが欲しいって言い出すのはどういうわけなんだろう。そしてあげたはずのモビールはなぜかいつも戻ってくる。
なぜか、なんて自分にとぼけたって仕方ないか。入居者がいつもいなくなっちゃうんだ。だけど事故とはいえない。ただの失踪だから、警察も本腰入れて探したりしない。家族が部屋の荷物を引き取ってくれるから、室内クリーニングして別の人に貸す。
だーれも気が付かない。まあ、私だって最初は気が付かなかったほどなんだから、よそ様が気付かないのも当たり前かもしれないねえ。
ようやく気味の悪いモビールがなくなってくれてホッとしたよ。
まあ、あの馬鹿息子は「ラッキーアイテムがなくなった」ってプリプリ怒っていたけどね。実際、モビールを手放してから、店が傾いたんだから、九枝の家にとっちゃ、あの女の子は座敷童みたいな役割を果たしていたのかもねえ。
そんなことを考えながら、あたしは首を回して、自分の肩を揉んだ。
「おや」
テレビに満面の笑みを浮かべた人物が映った。つい口がへの字に曲がる。六十代ほどの男性がスーツの胸ポケットに赤い花を付けて両手をあげている。
「当確です。今、当確が出ました!」
アナウンサーがやかましく叫んでいる。
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