第194話
あの日、南由の部屋から、三浦がいるはずの硝子のカケラを、家に持ち帰った。砕けたガラスを接着剤で復元しようかと思ったが、接着剤自体が三浦にどんな影響があるかわからないので、ちいさな硝子の瓶に入れて保管してある。
馬鹿な想像だと思うが、日本神話の「因幡の白兎」を思い出してしまうのだ。接着剤をガラスの割れ目に塗ることは、怪我をした白兎の背中に、塩をすりこむようなことになるのではないかと心配になる。
棄ててしまえばいいのかもしれないが、ただの割れたガラスにしか見えなくなったとはいえ、三浦がいるかもしれないのだ。やはり捨てられない。
「紘大くん! おまたせ」
最後に使っていたスリッパなどをバッグにつめこんで、永里が鞄を持ち上げた。
「俺が持つから」と横からバッグを取る。
永里が笑顔を向けてくる。薄化粧しているだけだが、傷は全く見えなかった。
「傷、全然わからないよ」
「うん。化粧しちゃうとね。最初は傷口が真っ赤で本当に泣きたかったけど、形成外科の知念先生が『大丈夫だよ、僕がきれいに治しますから』って言ってくれたんだ」と笑顔で答える。
「このくらいの傷なら……、紘大くんも気にしないでいてくれるかな?」
「当たり前だろ」と、なんでもないことのように答えたけれど、傷を負ったのは俺のせいなのに、そう思って胸が痛んだ。
「永里、あの……、三浦のことだけど」
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