第187話

 シャラッとひときわ大きく、音がすると、三浦がサンキャッチャーに吸い込まれ、硝子飾りになった。たまはにっこりと嬉しそうに笑った。初めから燃えたりしていなかったように、たまの体を焼いていた火は消え、遊園地の時のように可愛らしい少女の姿にもどっていた。


 片方の手には、壊れたクマの縫いぐるみ、反対の手には南由の手をしっかりと握っている。そして窓辺に向かって歩いて行った。


 「新しいかざりが増えた」と嬉しそうに背伸びをして、ガラス細工を覗き込む。そして横に立っている南由に、「見て見て」と無邪気に笑いかけている。たまが指さした飾りには、苦悶に満ちた三浦の顔が入っていた。


 南由はちらりと俺を見た。たまの視界から、俺を隠す位置にそっと移動すると、たまに頷いた。


 「家族、いっぱいになったね」


南由がたまに優しく話しかけた。


 「ママ」

 「なあに」


 「パパがほしいな。おとーさんみたいじゃなくて、たま、やさしいパパがほしい」


 「この子じゃダメなの?」と硝子の中の三浦を指さした。


 「ダメ! ダメ! たまのこと、コレって言った! モノみたいに!」


 たまは急に声を荒げて首を激しく振った。そしてサンキャッチャーの三浦が映り込んでいる硝子飾りを引きちぎり、投げ捨てた。


 ガラス細工の中には三浦が入っている。手を伸ばして俺が拾うより先に、たまが上から踏みつけた。ガシャッと音がして、ガラス細工はあっけなく砕けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る